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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter5:トラベル・パスBランク試験
135/183

Act.114:レディ、Go!Ⅳ~アイズ・フォー……~

 さて、もったいつけるような代物でもないですし、こちらとしても見せるとしましょうか。

 リスティアは決める。ここでわざわざ出さなくても十分だと思いはしたけれど、ルナがとっておきの力を見せてくれたので、自分としても出すべきではないかと思ったのだ。とは言うものの、それは別に絶対的な奥の手というようなものではないのだが。


「ふ~ん」


 そのリスティアの表情を遠目で見て、姉であるエクリアは、リスティアが今からどうするのかを察知していた。理解していた。


「…………」


 そして、それは対戦相手であるルナや、観ているだけのカオスにしてもそうだった。リスティアが今までよりももっと強くなる事を感じていた。本当の力を見せると感じていた。


「では」


 リスティアは自分の服についているポケットの中に手を入れる。そして、そこから何やら小さな金属片を2つ取り出した。

 金属……


『武器!?』


 実況アナウンサーは一瞬、それが何らかの凶器であるような気がした。だから、大声で言う。


『武器はいけませんよ!』


 しかし、隣に居る解説のモナミは冷静だ。それが、何なのか分かっている。武器ではないのだ。


『武器じゃないですよ。ただのヘアピンです』

『…………』

『…………』


 そのヘアピンを使って、リスティアは目まで覆っていた自身の前髪を止めた。顔がきちんとした形で露わとなり、リスティアのその素顔が見えるようになった。

 が、目の部分にはアイマスクによって隠されていた。


「…………」


 やはりね。

 ルナは思った。予想通りだったのだ。やはり、リスティアは何も見ていなかった。視覚は一切使わないで戦っていた。それがハッキリと証明されたのだ。


「…………」


 続いて、リスティアは自分の服についているポケットの中に手を入れる。そして、そこから今度は何やら細長い布を1つ取り出した。

 布……


『武器!?』


 実況アナウンサーは一瞬、それが何らかの凶器であるような気がした。だから、大声で言う。


『武器はいけませんよ!』


 しかし、隣に居る解説のモナミは冷静だ。それが、何なのか分かっている。武器ではないのだ。


『武器じゃないですよ。ただのリボンです』

『…………』

『…………』


 そのリボンを使って、リスティアはただ垂れていただけだった自身の後ろ髪を1つに結わえた。ちょうどポニーテールと同じ形だ。それだけで、今までと比べて随分と動き易いカッコウになっていた。

 そうして、最後の1つ。リスティアはそのアイマスクを外した。外して、ポケットの中にしまった。それで、リスティアの顔は完全に露わになった。

 リスティアの顔、その柔らかな物腰とは裏腹に、その目は鋭い目つきをしていた。それだけで、彼女の強さを物語っているようであった。だが、その大きな魔力を宿している瞳には、邪悪なものは感じられない。それは、リスティアが今まで真っ直ぐに育ってきていた他ならぬ証拠であった。

 そんなリスティアの顔が露わになっていた。顔立ちは整っていた。だが、ルナにとってそのようなものはどうでも良かった。

 閉じていた瞳が開かれた。それだけで、リスティアに宿されていた魔力は大幅に上がっていた。彼女の体を覆う魔力は倍増していた。

 それがルナの肌を刺す。体を刺す。心を刺す。


「はははは」


 冗談じゃないよ。

 ルナは思う。乾いた笑いしか出やしない。嗚呼、冗談なら非常にタチの悪い冗談だ。

 さっきまでのリスティアと大きな差があるから、フレイム・ラッシュでその差を埋めようと試みた。だが、そのフレイム・ラッシュの発動時である今であっても、膠着状態以上には出来ないでいた。

 それなのにこれだ。リスティアはその魔力を解放した。力を出してきた。フレイム・ラッシュを発動し、必死の思いで追いつこうとしているのに、リスティアはそこからさらに突き放したのだ。大幅に。残酷に。

 それを、ルナはその肌で感じていた。だから、戦わずにも何となく感じていたのだ。

 手詰まりだって。


「…………」


 そのリスティアを見て、エクリアは妹の成長を感じていた。過去と比べて、その成長が見て取れていた。

 それは魔力の大きさではない。制御である。小さな子供の頃は、リスティアは瞳を開いただけでその魔力が暴発していた。色々な物を破壊してしまっていた。それを防ぐ為、魔力制御の効能を持つアイマスクで視界を閉ざし、魔力の暴発を防いできたのだ。視界に頼らぬ戦いである古武術は、その状態で生活する際の副産物でしかない。

 だが、今はそのアイマスクに頼らなくても暴発しないままでいる。それは、リスティアの弛まぬ努力と、それによって残した成果であった。それを、エクリアは姉として嬉しく思っていた。


「さて」


 リスティアは自分の手足の感触を確かめる。状態は悪くない。


「では、いきますよ」


 戦闘再開。見えかけた結果のある戦闘の開始。


「どうぞ」


 だが、ルナに逃げという選択肢は無い。戦い始めたら、最後まで戦い抜くのが戦士としての心構え。やらねばならないのだ。

 それは、リスティアも知っている。だから、行く。


「では」


 駆ける。駆け、ルナに接近する。間合いはクロスレンジ。

 拳が飛び、足を舞わせ、魔力を炸裂させる。そんな肉弾戦から再開された。まずは互角の攻防だった。

 そう、互角。さっきまではルナ主導で試合は進んでいたのだけれど、それはあっと言う間に互角煮まで戻されてしまっていた。しかも、リスティアの動きはだんだんと良くなっていく。視界に慣れてきたリスティアの戦いは、どんどん良くなっていく。

 そして、互角はひっくり返される。あっと言う間に逆転だ。

 ドガッ!

 その直後、リスティアの拳がルナに当たった。パンチを食らったルナは、そのパワーによって大きく後方へと飛ばされてしまった。

 ルナは素早く受身を取った。だが、それでもリングにその背中を打ち付けてしまうというダメージからは避けられなかった。逃れられなかった。

 が、そんな些細なことは気にしない。ルナはすぐに立ち上がり、反撃する。


「ショット!」


 殴り飛ばされ、間合いが開いたので遠距離魔法による攻撃だ。基礎魔法フレイマラス、フレイム・ラッシュを発動させる前にも使った魔法である。その時は、素手で弾き飛ばされていたものだった。

 しかし、今回のは威力が違いますね。

 リスティアはその発動の瞬間にそれを察知していた。同じ魔法でも、使う者の力が異なれば、その威力もまた異なってゆく。だから、これもまたさっきと同じというわけではないのだ。そして、ルナはそれを分かった上で放っているのだ。先程との違いを信じて。

 ならば……

 リスティアはその目を少し見開いた。それと同時に魔力を放った。

 すると左から右へ、目から放たれた魔力は光線となり、弧を描きながらリングを穿っていく。その上で、それでも止まらずにリングから上方へと、ほぼ垂直に光線は進み続けていた。

 それは壁。ルナの魔法を阻む壁となった。


「なっ!」


 そしてルナの魔法、基礎魔法フレイマラスはそこに次々と激突してゆく。今放ったフレイマラスは、その1つ1つが並の障壁ならあっと言う間に破壊してしまうような代物だった。並の戦士相手ならば、1発で殺してしまう程の威力を持った代物だった。

 だが、それは全く通用しない。リスティアの光線によって生まれた障壁によって、それらは全て弾き飛ばされて、消え去ってしまったのだ。


「嘘!」


 フレイム・ラッシュでパワーが増幅した攻撃さえも、何の溜めも無しに放った魔法で全て弾き返してしまうとは!

 信じられない気持ちが、ルナの心中の大部分を占めていた。カオスと共にたくさんの努力を積み重ねてここに臨んだと自負していたのだが、それでもリスティアはそんな自分の遥か上を行っていた。ずっとずっと上の実力者だった。

 駄目だ、こりゃ。


「集中が切れたな」


 観ていたアーサーは、それを感じた。そして、それは真実。


「馬鹿! ルナ、後ろだっ!」


 届かぬ声をカオスも飛ばすが、それは後の祭。終わってしまったこと。実力差を見せ付けられ、落胆したルナの心が、そこに隙を生んでしまった。リスティアに攻撃の絶好のチャンスを与えたのだ。

 もっとも、実力差を考えればそれもまた時間の問題ではあったのだが。


「!」


 隙は隙。駄目は駄目。手遅れは手遅れ。


「遅かったですね」


 だが、容赦はしない。リスティアは隙だらけのルナを大きく蹴り飛ばす。魔力のしっかりと通っている足で、ルナを蹴り飛ばしたのだ。

 ルナは対処出来なかった。その攻撃に対して、何も出来なかった。ただ蹴られ、ただ飛ばされるだけだった。受身も取れず、リングに倒され、地をこするだけだった。

 そして、そのままダウン。


『ダウン! ルナ選手、ダウンです! カウントを取ります! 1』

「…………」


 成程な。

 カオスは納得する。さっきの、光線による防御は、ルナの攻撃をはじく為だけでなく、その後の反撃を分かりづらくさせる為のカモフラージュにもなっていた。それに、ルナはまんまとかかってしまった形となったのだ。

 それは失策である。が、それはなくともルナがダウンするようになるのは時間の問題であったが。


『2、3』


 終わりですね。

 リスティアは自分の勝利を確信していた。それは油断でも何でもない、客観的な事実。先程見せていた、激しい魔力の奔流はもう感じられない。そのことから、ルナの力はもう尽きているのだと分かる。だが、それでもリスティアは思っていた。

 ルナさん、貴女は思ったよりもずっと強かったですよ、と。


『4、5……』


 終わりだな。

 カオスも感じていた。激しい魔力の奔流が無くなっていることから、フレイム・ラッシュの発動は終わっているのが分かる。フレイム・ラッシュとは、魔力を消費し続けながら己の力を大幅に高めるという技。それが終わったということは、フレイム・ラッシュに充てられる魔力が無くなってしまったということに他ならない。

 考えるまでもなく、リスティアとはそんな状態で戦ってどうにかなるような相手ではない。と言うか、どうにかなるような相手ならば、そもそもフレイム・ラッシュなんかは必要ない。だから、ここでお終い。

 ルナの負けなのだ。


『6、7……』


 ルナは終わり。カオスもリスティアも、当然のようにそう思っていた。だが、その時そんな2人を驚かせることが起きる。


「え?」

「な!」

『た、立った! ルナ選手、何と立ち上がりましたー!』


 そう。ルナが立ち上がったのだ。ダウンから復帰したのだ。それには、ただ観ていただけの観客も驚いた。信じられない気持ちでいっぱいだった。


「はあっ! はあっ!」


 息を切らし、ふらふらしながら、ルナはその自分の体勢を整え直す。そして、自分の手を見る。状態を見る。それで、感じる。

 時間切れ。フレイム・ラッシュは終わっている。魔力は尽きた。体力も無い。戦う為の武器は、全て失われてしまったと言ってもいい状態だ。

 それでも諦めず、戦うというのも戦士の1つの形ではあるけれど……


「まいった」


 ルナは降参する。負けを認める。

 これはあくまでも試合である。人生も、誰かの命も、何も懸ってはいないただの余興である。無理する必要は無い。それに懸ける価値は無い。そう分かった上での降参宣言だ。


「どうやら、ここが今のあたしの限界みたいだわ。もう、手は尽くしちゃったよ」

「…………」

『おおっと。ルナ選手、ここで降参しました! この試合、リスティア・フォースリーゼ選手の勝利となります! これで、決勝に進むのはリスティア選手となります!』


 試合の終了と共に、会場には大歓声が木霊していた。リスティアの勝利を讃える声、ルナの健闘を讃える声、それら全てが、お互いにきっちりと戦いを繰り広げた両者に対する賛美であった。


「…………」


 その歓声の中、リスティアは表面上落ち着いていた。だがその内面で、リスティアは少々驚いていた。こうなるとは思っていなかったのだ。

 炎系統の魔法を得意とする者は、総じて負けず嫌いが多い。だからこそ、そう簡単に自分の負けを認めない。色々とあがくんじゃないかと思っていたのだ。

 だが、ルナはあくまでも冷静であった。これからの自分にとって、良い判断を下したのだ。そう出来ることが、リスティアにとっては少しの驚きだったのだ。

 しかし、その一方でルナの実力の方も認めざるをえなかった。ある程度はやるとは思っていたけれど、ここまでやるとは正直思っていなかった。ルナに対しては、正直過小評価であったとリスティアは認めるしかなかった。

 過小評価、つまりは自分の他者に対する評価が甘かったこと。すなわち、この自分も井の中の蛙でしかなかった。そんな未熟者だったのだ。まだまだ、鍛錬の余地はたくさんある。

 そして、リスティアはこの現状を認め、次を見定める。ルナもまた、現状を把握し、次の目標を見定める。そう。未来が見えるのだ。だから、この試合後に残るのは爽やかな疲労と、相手に対する謝意だった。


「ナイスファイトでした、ルナさん」

「へ、やっぱアンタ強いわ」


 ルナとリスティアは互いの健闘を讃え合い、笑顔で握手を交わした。そんな爽やかな試合の終焉だった。


☆対戦組み合わせ☆

 準決勝

13:  リスティア・フォースリーゼ vs ルナ・カーマイン

14:  デオドラント・マスク    vs カオス・ハーティリー


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