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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter5:トラベル・パスBランク試験
134/183

Act.113:レディ、Go!Ⅲ~フレイム・ラッシュ~

☆対戦組み合わせ☆

 準決勝

13:  リスティア・フォースリーゼ vs ルナ・カーマイン

14:  デオドラント・マスク    vs カオス・ハーティリー


 大歓声の中、ルナとリスティアは戦っている。力を出し、技を出し、策を練りながら戦っている。

 ルナは激しき炎。真っ直ぐに進み、真っ直ぐに戦う。愚直のようでありながらも、それはそれで大きな力を宿していた。発揮していた。

 リスティアは滑らかな風。緩やかに動き、緩やかに戦う。その戦いに激しさは無いが、その曲線の動きにダメージを与えるのは非常に難しかった。

 ルナは翻弄される。その曲線の動きに。

 ルナはついていけないと感じ始める。その風のスピードに。

 力の差を感じるようになっていた。


「はっ!」


 拳を振るっても、蹴りを繰り出しても、それらのどれもが当たるべき箇所を狙えているような気がしない。どれもが巧妙にかわされて、それをダメージにしないようにされていた。

 リスティアの滑らかな動きは、あまり速さそのものは感じさせなかった。ただ、こちらの攻撃が糠に釘を打つように当たらないだけ。だが、ルナは思う。その動き、そのスピード、それさえも本気でないからなのだろうと。

 そして、それが真実。リスティアが駆ける。ルナの方に。攻撃を仕掛けに。


「!」


 ルナはそれを察知し、防御をしようとする。が、間に合わない。リスティアの接近の方が早く、防御し切れない。


「くっ!」


 リスティアの攻撃は当たり、ルナは後ずさりさせられる。


「チッ」


 ルナは口元を拭う。血は出ていなかった。そこまでのダメージではないらしい。おそらくその攻撃も、それだけで倒すつもりで打ったのではないのだろう。そう感じられる。

 だから、それでそれ以上の隙は見せない。すぐさま体勢を整え直し、視線をリスティアに戻す。

 そんなルナに、リスティアは追撃をかけない。ゆったりと、視線をルナに合わせるだけだ。その様子からは、まだまだ余裕がたっぷりあるようにも見えた。


「…………」


 まずいね。

 そんなリスティアを見ながら、ルナは思う。どうしたらよいものか、思い悩む。

 フレイマラスのような基礎魔法を放ったところで、それがリスティアに通用するとは思えない。格闘戦でも、今のところ向こうが一枚も二枚も上手である。魔力の絶対量や、それを扱う技術力においても、リスティアの方がずっと優れている。

嗚呼、認めざるをえない。現状では勝ち目はない。が、諦めない。まだ手は残されている筈だ。

 ルナは思い悩む。ただ、試合というゲーム性からか、悲壮感の類のものは一切なかったのだが。


「ハッ」


 そんなルナをモニター越しに観ていたカオスは、ちょっとだけ笑う。そのルナの感情は、ルナ自身が口にしなくてもはっきりと分かる。

 楽しそうだな、オイ。まるでゲームだ。

 スポーツに熱中しているように、己のピンチを楽しんでいるルナを、ちょっとだけカオスは笑う。これが実戦だったら、本当の殺し合いだったら、シャレにならないとか、そういう熱血野郎的な思考回路は暑苦しくてウザイとか思いはしたけれど、悪い気はしなかった。まあ、いいんじゃないかなと思っていたのだ。


「よし」


 あれでいこう。

 そんなルナは、やることを思いつく。パワーの絶対量では駄目、技術力でも駄目ならば、自分の出せる手はおのずと限られてしまう。そして、決めたのだ。


「はあっ!」


 ルナは魔力を充溢させる。そして、解放する。爆発的に。

 そう。絶対量で劣るのならば、一度に出す量で勝負を賭けるのだ。タンク内にある魔力を、惜しみなくぶつける。力尽きるまでに倒せ、という戦法だ。


「はああああああああっ!」


 それを、リスティアは感じていた。膨れ上がるルナの力と魔力が、それを無言ながらにも教えていた。


「…………」


 嗚呼、素晴らしい。

 リスティアは思った。このような奥の手を隠していたとは素晴らしいと。そして、そこからそのルナの行おうとしていることも予測出来ていた。膨れ上がった力や魔力を、そのまま戦闘力に載せて数段上の戦士へとなるのだと。

 だが勿論、それを知っていたからといってどうにかなるものではない。リスティアのアドバンテージにもならないし、ルナのペナルティにもならない。戦局は分からない。

 そして、分からないからこそリスティアはわくわくしていた。これからどうなるのか、非情に楽しみにしていたのだ。


「…………」


 フレイム・ラッシュという訳か。

 カオスはルナのやっている技を知っていた。フレイム・ラッシュ、荒れ狂う火炎のように魔力を噴出しながら、それをそのまま戦闘力へと加算してゆく技だ。それにより、その技の発動前よりも数段上の戦士へと変貌出来る。もっとも、その効果の分だけ魔力の消費も激しいのだが。

 確かに、現状ではそれしか手段はないのかもしれない。

 カオスは納得する。だが、フレイム・ラッシュはその名の通り、速攻で相手を潰せなければ意味が無い。こちらの消耗の激しさにより、却ってピンチに陥るようになってしまう。けれど、やっぱりその他に手は無さそうでもある。

 勝負に出たか。


「ふぅ……」


 フレイム・ラッシュを完全に発動させたルナは、息を吐き、落ち着きを取り戻しながら改めて相手を見据える。

 そして、すぐさま戦闘再開。時間は無いのだ。急がねばならない。

 ルナは駆ける。リスティアとの間合いを一気に詰めて、腰をグッと落とし、そこから拳を突き上げる。体のバネを活かしたアッパーだ。それも、スピードもパワーもさっきまでとは段違いに上の攻撃だった。

 それは意外な伸び。それにリスティアは反応出来ず、その攻撃を食らってしまう。リスティアの体は斜め上に殴り飛ばされながら、大きく後退する。しかしながら、リスティアはその空中で美味くバランスを取り戻し、ルナと少し離れたリングの上に見事に着地。


「…………」


 リスティアはルナの方に顔の向きを戻す。

 そんな彼女の目の前には、既にルナが迫っていた。リスティアに休みは与えないつもりだ。それで、そのまま攻撃。リスティアをさらに殴り飛ばす。

 殴られたリスティアの体は左回りに旋回。それにリスティアは逆らわず、さらにその遠心力を利用し、それを拳に載せて反撃する。ルナにパンチを繰り出す。

 が、ルナはそれを回避。素早くバックステップし、その射程外に逃れた。そしてその瞬間、リスティアに隙が生まれる。攻撃直後の隙が生まれる。


「はっ!」


 ルナはそこからまた一歩踏み込んで、間合いを詰める。そうした上で、反撃だ。拳を振り下ろし、リスティアをリングに叩きつける。


「くっ!」


 だが、リスティアもただ叩きつけられはしない。両手をリングに真っ直ぐついて、それをバネにして激突の衝撃を緩和させたのだ。

 そうして、そこから間髪入れずに反撃に移る。左足を支点として、ローキックの回し蹴りだ。足を引っ掛けてルナを転ばせ、そこに追撃をかけようという肚だった。

 しかし、それもルナは回避してみせる。控えめにジャンプして、その回し蹴りの軌道から必要最低限なだけ逃れたのだ。そうすれば、そこからすぐさま反撃ができる。


「…………」


 その試合の様子を、カオスは黙って見ていた。会話をする相手が居ないので、黙って見ていた。

 気だか、魔力だか、言い方なんかどうでもいいんだけどな。

 カオスはルナの発動しているフレイム・ラッシュを見ながら、その概要を思い出していた。

 フレイム・ラッシュを発動させていると、そのオーラによって体が常に覆われている状態になるので、その影響でルナのパワーやスピードが上がるだけでなく、知覚領域さえも広がる。そんな良いことばかりの技なのだ。フレイム・ラッシュは。

 しかし……


「せいっ!」


 ルナはリスティアを蹴り飛ばす。ガードは間に合わず、リスティアは大きく蹴り飛ばされた。そして、そのリスティアにルナは容赦なく追撃をかける。

 が、追いかけはしない。魔法による遠隔攻撃だ。素早く右手に魔力を充溢させると、炎魔法をリスティアに向けて放ったのだ。

 ドーン!

 フレイム・ラッシュで強化された出力により、ルナの放った炎魔法はリングを大きく穿った。大きく炎を上げ、そこを火炎地獄と化した。そんなかなりの破壊力だった。

 だが、それによりリスティアはダメージを受けなかった。飛ばされたリスティアはその追撃を予測して、そこから離れてその魔法から回避したのだ。何とか回避出来たのだ。

 しかし、それもルナの方としても予想済み。それだけで通用すると思う程、ルナはリスティアを甘く見ていなかった。だからこそ、その炎魔法を放っていた間も、リスティアの動きに気を払っていた。ずっと見据えていたのだ。

 そうして今、ルナはリスティアの背後を取っている。


「!」


 リスティアはそれにすぐ気付くけれど、もう既に遅い。ルナはリスティアをまたまた蹴り飛ばす。

 サッカーボールのように蹴り飛ばされたリスティアは、大きくリングの逆サイド方向に飛ばされた。が、それでリング上に叩きつけられはしない。飛ばされながらも体を翻したり、バネを活かしたりして、バランスを整え直して上手くリング上にダメージを大きく削減して着地した。

 その様子からは、ダメージを受けたように見えない。しかし……


『形勢逆転のようですね』


 実況アナウンサーはそのように判断する。


『そうですね。そう見えますね』


 解説のモナミとしても、その見解に反論はなかった。だが、彼と違ってモナミは何かがひっかかっていた。何か、忘れてしまっているような気がしてならなかった。

 モナミはもう一度リスティアの様子を窺う。そして、そのことに気付く。

 ああ、そうか。彼女にはまだまだ余裕があるからか。

 そう。リスティアにはまだ余裕があった。何処かしら怪我してもなければ、息も切れ切れで力を消耗している様子もなかった。


「はっ! やあっ!」


 それはルナも感じていた。今、試合はルナ主導で進んでいる。それは事実である。だが、それを喜んでいられないのもまた、事実だった。


「…………」


 アレックスは試合を観ながら驚愕していた。

 凄ぇ。何か、シャレにならない程に2人共強い気がするのは、気のせいか? どうせ気のせいでも何でもないんだろうが、是非とも気のせいであってくれ。

 そう思っていた。いや、願っていた。


「あのルナの力、どれ位のものなんだろ?」

「凄く強そうよね~」


 感心しながら観ているサラとアメリアに、リニアは答える。


「あのパンチやキック、その1つ1つでアレックスレベルの人間を瞬殺出来る威力がある」


 と。


「…………」


 だが、ルナと共にトレーニングを積んできたカオスは分かる。ルナとしては、この状況を喜んでいられはしないのだと。

 やばいな。

 カオスは分かる。追い詰めている筈のルナは、心の中ではどんどん追い詰められていた。

 フレイム・ラッシュであの程度しかやれないなんて、ルナとしては完全な予想外だったな。やはり、リスティアの奴は相当に強いようだ。

 ルナが勝つ為には、もう勝利を収めているくらいの状態でないと駄目なのだ。その技の特性を知っているカオスは、ルナの焦りをも理解する。やばいのだと。打つ手が無くなりかけているのだと。


「フフフ……」


 その反面、リスティアは余裕顔だ。この試合を楽しんでいるような状態だった。そして、密かに考える。

 さぁて、ルナさんはあのような素晴らしいものを見せてくれました。こちらから何も出さないというのも失礼でしょうから、こちらも見せるとしましょうか。

 ピンチを脱する為にフレイム・ラッシュを発動させたルナであった。が、ピンチは深まるばかりであった。


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