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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter5:トラベル・パスBランク試験
133/183

Act.112:レディ、Go!Ⅱ~シスターズ~

☆対戦組み合わせ☆

 準決勝

13:  リスティア・フォースリーゼ vs ルナ・カーマイン

14:  デオドラント・マスク    vs カオス・ハーティリー

 ズザッ!

 リスティアに大きく殴り飛ばされたルナは、ダメージを受けながらも体勢を整え直し、リングの上でその動きをストップさせた。

 そして、すぐさまその視線をリスティアに向ける。さっきのリスティアの動きの中で、ルナは1つの疑問を抱いていた。自分の視線の先で、当たり前のように立っているリスティアに対し、何かしら隠し事があるのではないかと思うようになった。

 それは、何故リスティアはあんなに早く反応出来たのかということだ。努力や才能と言ってしまえばそれだけだが、きっとそれだけではない。何かしらそれだけでは語れない何かがあるのだろう。そんな漠然とした予感が、ルナには感じられていた。

 では、1つ確認してみようか。

 ルナは右手の指先にサッと魔力を充溢させ、それを炎魔法に変換させる。そして、それをリスティア目がけて放った。無論、囮だ。


「ショット!」


 基礎魔法フレイマラス。

 炎魔法は大きく分裂し、何本もの矢になってリスティアを襲う。それによって、薄利多売的なダメージを与えようとする魔法だ。それは基礎魔法。相手が弱者なら効果は絶大であるが、一定以上の実力者が相手では、その効果はあまり望めない。


「…………」


 それを、リスティアは分かっていた。そして、ルナがそれを分かっていない程の未熟者でもないというのも分かっていた。リスティアはルナを過小評価はしていない。

 そして、それだからこそすぐに分かるのだ。あれは囮だと。

 囮、だが、それは潰さなければならない。囮だろうが何だろうが、当たればダメージを受ける。それが少なかったとしても。

 だから、潰す。リスティアは両の拳に魔力を軽く集める。そして、その拳を振るう。


「はっ!」


 1つ、2つ、3つ、リスティアは拳を振るってゆく。その拳をルナが放った炎魔法にぶち当てる。魔法に素手で対抗する。それは、端から見れば愚行に見えるかもしれない。だが、リスティアにとってしてみれば、それで良かった。相手は基礎魔法のフレイマラス。それで十分だったのだ。

 だから、潰れる。ルナの放った炎魔法は、その拳によってことごとく潰されていった。1つ、2つ、3つ、ルナの放った炎魔法は、リスティアの体に当たらないで、その拳によって次々に潰されていく。

 そんなリスティアの強さに、観客は驚きを隠せない。


「なっ! 素手で魔法を潰してるぞ!」

「なんちゅーパンチなんだ!」

「信じられねぇ!」


 そうして、最後の1つが潰された時だった。ルナはリスティアの背後に現れた。囮作戦は成功だった。


「…………」


 後ろ。

 だが、それをリスティアは察知する。素早く右手に魔力を充溢させると、それをそのまま真後ろに魔法にして放った。視線すら向けないままの攻撃だったが、それは真っ直ぐルナの方へと向かっていった。


「!」


 やはり!

 回避する暇は無い。だが、ルナはきっちりとガードをしていた。ルナの腕に当たったリスティアの魔法は、ダメージを与えることなく霧散していった。その攻撃自体もあまり力の入ってるものではなかったのだ。

 そのルナの姿を感じて、リスティアはピンときた。ルナの最初の魔法が囮だったのは勿論だが、この背後への出現もまたどうでもいい事なのだ。ルナにしてみれば。

 それを悟った。


「ルナさん。こうなると分かっててやりましたね?」

「ちょっと確認したいことがあってね。その為だよ」


 そうではないかな、と思っていたこと。予想したこと。それは、そのリスティアのさっきの動きで、ほぼ確実な確信へと変わった。

 ルナは訊く。


「リスティア。あんた、あたしのことを見てないね? いや、対戦相手であるあたしだけじゃない。あんたは何も見ないで戦っている。それどころか、何も見ないで生活している。違う?」


 そのルナの予測に、観客はどよめく。


「何を言ってるんだ?」

「そんなこと、出来る訳ないじゃないか」

「何も見ないで、どうしたらあんな風に動けると言うんだ?」


 信じられなかったのだ。視界を奪ったら、そこに残るのは深い闇だけ。そんな中で、ああやって躊躇いもせずにキビキビ適格に動けるということ自体が信じられなかった。


「…………」


 だが、カオスは驚かない。そんな予感はしていたというのもあるが、そういうものがあるというのもアリステルから聞いたことがあった。

 確か、古武術だったな。夜闇や、何らかの形で視界を失った時、柔軟に対応出来るよう編み出された戦い方だ。物事の動き等を、普段から視覚のみに頼って判断するのではなく、聴覚や嗅覚、空気や魔力の流れ等を感じる触覚、それらを総合して状況を判断する。それを戦いへと昇華させた戦法だ。

 使えれば便利だとは思うが、俺は使えない。だが、あいつは使えるんだろうな。

 カオスはリスティアのことをそう見ていた。やはり、過小評価はしていなかった。そして、その通りだとリスティアは首を縦に振る。


「よく気付かれましたね。ええ。その通りです」

「やっぱり」


 ルナの表情は変わらない。喜びも落胆も無い。それを知ったからといって、どうってことはない。戦局は変わらない。そして、それだからこそ、リスティアもあっさりと首を縦に振った。


「まあ、それを隠していても何かしらのアドバンテージになる訳ではないですし、逆もまた然り、ですからね」


 そう。その戦い方を人知れず使ったところで、秘密そのものによって得られるメリットは無い。敢えて言えば、相手が自分の反応出来る範囲を把握出来ないだけ。そして、その反応出来る範囲は、その戦法が知られようが知られまいが、広がりもしなければ狭まりもしない。

 だから、変わらない。何も変わらない。

 この状況も。


「で、どうします、ルナさん? 続けます?」

「勿論!」


 ルナは駆ける。リスティアも駆ける。戦闘再開だ。

 互いにぶつかり、殴り、蹴り、魔法を飛ばす。互いの隙を窺いながら、自分の隙を晒さないようにしながら、攻撃と防御を繰り広げてゆく。

 そこに遠慮は無い。互いに顔見知りではあるけれど、それから生じる奇妙な気遣いのようなものは無い。顔見知り、それ以前に彼女達はそれぞれが戦士だった。その戦士が戦う場所としてリングを与えられ、戦うこととなった。そうなったからには、その相手に対してベストを尽くすのが、戦士としての礼儀。

 まずは接近戦。互いに殴り、蹴りの肉弾戦を行っていた。

 次に中距離戦。リスティアからの攻撃の回避で、ちょっとルナがリスティアと間合いを取った事からその戦いへと自然と移行していった。互いに魔法を打ち合うのだ。

 だが、それはすぐに終わる。魔法対魔法では自分には不利であると感じたルナは、その展開を嫌った。間合いを一気に詰めて、その戦いをすぐさま接近戦へと戻す。殴り、蹴り、殴り、蹴りの戦いだ。その戦いに、リスティアは応じる。

 そこまでは、互いに互角の攻防であるように見えた。むしろ、試合の主導権を握っているルナの方が有利であるようにも見えた。

 しかし、ルナは今の状況を喜んでいなかった。逆に、少々の焦りを感じていた。

 なぜなら、試合は自分の思った通りに進んでいる。この形式は、自分の選択したものだ。だが、それにも関わらず、試合は互角という形で膠着している。自分の望んだ戦いをしていて、相手に合わせるだけのリスティアに互角以上にもっていけないのだ。

 それすなわち、この戦いは自分よりも相手に分があるということになる。


「チッ!」


 舌打ちするが、今のところルナに為す術は無い。今の段階では、出来ることは無い。奥の手を出すか、策を弄するしかないのだが、前者をするような時期にはまだ早いし、後者は不得手だから通用するとは思えない。だから、この膠着状態なのだ。

 互いにぶつかり、殴り、蹴り、魔法を飛ばす。互いの隙を窺いながら、自分の隙を晒さないようにしながら、攻撃と防御を繰り広げてゆく。その状態は変わらなかった。


「…………」


 その戦いを観て、観客は言葉をなくしていた。リスティアとルナ、所詮は女同士の戦い、激しいものにはならないだろうと高を括っていたのだ。

 だが、それは裏切られ、観客の予想を遥かに上回る戦いをルナ達は繰り広げていた。


「なかなかやるな」


 専用の特別観覧室で、同じくこの試合を観戦していたアーサーは呟く。顔にはまだ余裕が見られる。上からの目線だ。


「あのルナってガキも、リスティアってお前の妹もな」

「そうですか?」


 アーサーの後ろに立っていたリスティアの姉、エクリアはアーサーに合わせるだけだった。だが、アーサーは別に気分を害したりしない。むしろ、それに乗るのだ。


「そうだ。奴等は言ってみればダイヤの原石というやつだ。無論、それはあの2人に限らず、他の2人や敗れてしまったクロードやアッシュ等も含めてだがな。まだ磨ききれていない宝石なのだ」


 アーサーは言う。


「今はまだ未熟だ。どいつもこいつもな。一流とは呼べん。だが、近い未来では、成長したお前達がこの国の、世界の、平和を担ってゆくのだ。その為には、まだまだ努力が足らんよ」

「…………」


 そのアーサーの言葉に相槌を打ちつつも、エクリアは疑問に思っていた。

 アーサーはリスティアも含めてまだまだ未熟だと言っていた。だが、リスティアは今見せている戦いは本気ではない。リスティアは目から魔力を放出するのを一番得意としており、その暴発を防ぐ為に目を隠すようになった。翻せば、リスティアは目を隠している限り本気で戦っているとは言えないのだ。

 そのことに気付いているのかと。

 そう、リスティアは戦いにおいて天才だった。努力で積み重ねてきた姉のレベルを、彼女は軽く飛び越してやってきた。姉として妹を可愛く思ってはいるけれど、それでも心の何処かで嫉妬の感情は隠せなかった。羨ましく思っていたのだ。


「ところで、エクリア・フォースリーゼよ」


 思考に入ったエクリアに、アーサーは話しかける。


「な、何でしょう?」

「お前の妹は、まだまだ本気ではないのだろう?」

「え?」


 気付いておられた!

 エクリアは驚愕していた。リスティアに疲弊した様子が見られないとは言っても、そこまでアーサーが見ているとは思わなかったのだ。いくら対魔戦争の勇者であるとは言っても、この戦場から遠い場所でそこにまで気付けるとは思えなかったのだ。

 だが、アーサーは笑う。


「それくらいは気付くさ。だがな」


 そこで真面目な顔に戻る。


「俺はそれを見越した上で尚、未熟だと言っているのだ」

「え?」


 上には上が居る。そして、あのレベルではまだまだ最上級へは程遠い。世の中とは、そんなに狭くないのだ。その意味を込めて、アーサーはそう言ったのだ。

 まだまだ甘いと。


「励めよ。16年前の魔王軍の幹部相手では、あの程度じゃ手も足も出ないぞ」


 しかも、上級魔族には寿命という観念がないらしい。衰えを知らぬ。つまり、年月を与えれば与える程、魔族とは成長していってしまうものだ。だから、16年前のレベルは最低限になる。最低でもそのラインは超えなければならないのだ。


「だから、あのレベルではまだまだ力が足らんという訳だ」



 力が足りない。

 そのことは、戦っているルナ自身も良く分かっていた。自分のレベルが足らないと。

 攻撃、防御、そうやってリスティアと戦っていると、身にしみて良く分かる。今のところ互角の攻防に見えなくもないが、殆ど本気である自分に対し、リスティアは殆ど実力を発揮していないと。身体慣らしのようなものだと。

 本気と、慣らし運転。


「チッ!」


 それ程の実力差がある訳か。

 それが、ルナにとっては実に妬ましく思えてならなかった。


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