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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter5:トラベル・パスBランク試験
132/183

Act.111:レディ、Go!Ⅰ~エキシビジョン~

☆対戦組み合わせ☆

 二回戦<Bランク試験合格決定戦>

 9:× Dr.ラークレイ       vs リスティア・フォースリーゼ 〇

10:〇 ルナ・カーマイン     vs アッシュ          ×

11:× オーディン・サスグェール vs デオドラント・マスク    〇

12:× クロード・ユンハース   vs カオス・ハーティリー    〇


 準決勝

13:  リスティア・フォースリーゼ vs ルナ・カーマイン

14:  デオドラント・マスク    vs カオス・ハーティリー

 アレクサンドリア連邦、トラベル・パスBクラス試験合格。騎士の資格を得た。

 これは多くの人の憧れであり、多くの人がこれを得ようと日々努力を重ねている。それを得た。手に入れた。それは大変名誉であり、羨望の的となるだろう。

 それは分かっている。他人事としてならば。

 しかしながらカオスは思う。だから、何なのだと。騎士の資格を得ても姉ちゃんが姉ちゃんのまま変わらなかったのと同じように、自分もまた自分のままなのだ。カオスという者はカオスのまま何にも変わりはしないだろう。

 だから、これは何も変わった出来事ではない。

 では、それなのに周囲は何故そんなに讃えるのか? 何故そんなに大騒ぎするのか? それが分からない。

 カオスは戸惑っていた。どうすればいいのか分からなくなっていた。

 だが、それは一瞬だけ。その直後に、カオスは思うようになる。どうでもいいと。周りなんか知ったこっちゃねぇ。面倒くせぇなあって。




『さて、これで今年度のアレクサンドリア連邦Bクラス試験、全ての合格者が出揃いました!』


 カオスが控え室に戻った頃、場内アナウンスが流れ始めた。会場では試験部分は終わり、次の段階へと移行していた。それを審判兼司会の女性が進める。


『では続きまして、合格者4名の中から頂点を決めるエキシビジョン・マッチを始めます!』

『おおおおおっ!』


 盛り上がった観客の声が、スピーカー越しにカオスの耳にも響く。

 そう。試験は終了した。だが、大会は終わっていない。合格者が決まった後も、その中から誰が最強なのかを決める決定戦をやらされるのだ。

 無駄だなぁ。誰が1番でもどうでもいいじゃねぇか。

 カオスは思っていた。そして、実際意味の無い無駄な戦いである。しかし、この試験が興行的な色合いを強くしてからは、それが必要不可欠なものとなってしまったらしい。見世物としては、頂点を決めないのは後味がよろしくない。だから、そのような無駄をやらせるのだ。優勝者には多額の賞金を出すとエサをぶら下げて。

 何にしろ、面倒臭いのに変わりはねぇけどな。

 カオスは思う。しかし、その一方でそれでも構わないとも思っていた。

 なぜなら、こうやって活躍していれば、女の子にキャーキャー言われるからだ。黄色い声援を浴びたり、応援されたりするのは嫌な気分ではない。いや、むしろ最高。

 だから、次の試合もカオスは出ようと思う。

 そして、そんな妄想をカオスが思い描いたりしている内に、会場の準備が整った。カオスとクロードの破壊したリングの修復が終わり、次の試合が出来るようになった。

 そうなれば、試合はすぐに始まる。それを審判兼司会者は宣言する。

『それでは、早速試合と参りましょう! 準決勝第1試合、リスティア・フォースリーゼ対ルナ・カーマイン! 両選手の入場です!』


 ドーン!

 パイロが爆発し、それと同時に北門と南門の両方が同時に開かれる。花道を火花や紙吹雪、そして大きな声援で彩る。興行としての試合は、その前演出として選手の入場に花を添えようとした。もっとも、こうなる前からこの試験はただのショーではあったのだが。


「ルナー」

「リスティアー」

「頑張れよー」

「期待してるわー」


 その中をルナとリスティアは入場する。双方共に、この派手な演出による心身の乱れは無い。極めて平静な状態であった。なぜなら、リスティアはその飄々とした性格からこの程度で一々おろおろするような性格ではなく、ルナはその真面目過ぎる性格から、これからのリスティアとの対戦以外は全く考えていなかったからだ。

 どっちもベストな状態ね。

 ルナとリスティアは、逆側の花道を歩いてやって来る対戦相手を見据えながら、そのように考えていた。心の乱れは無い。前の対戦で負った傷や、消耗し過ぎた魔力も無い。それを踏まえれば、お互い完全なベストとは言えなくとも、それに限りなく近い状態であるのは一目瞭然であった。

 それを2人は嬉しく思う。正々堂々と戦えるのを嬉しく思う。

 だが、それを顔には出さない。顔は真剣なまま。そう。真剣勝負なのだ。2人は対峙し、そして言う。


「ルナさん。試合とは言え、これは真剣勝負です。遠慮は無用ですよ?」

「そっちこそね」

「ふぅ」


 カオスはその様をモニターで観ながら溜め息をつく。


「全く。2人共、クソマジメだねぇ。疲れねぇのかな?」


 俺は疲れるがなっ!

 カオスは思う。そう。ルナとリスティアにとってはいつものパターンだ。だが、カオスにとっては、そういうのはいつもながら見せられるだけで疲れるのだ。そんな気がするのだ。

 そう、疲れるんだぜっ!


「…………」


 だが、そんなカオスの言葉に返事は無い。誰も賛成もしなければ、反対もしない。ただ、虚しい静寂だけが辺りを覆っていた。

 そうなってから、カオスは辺りを見渡した。すると、そこには1人の人影しか見当たらなかった。今度自分が戦うデオドラント・マスクだ。それだけだ。他の者は既に敗れ、そこから姿を消していた。だから、控え室には残されたカオスとデオドラント・マスクの2人しか居なかった。

 それだけでなく、このデオドラント・マスクは声という形で返事をしない。それどころか、喋っているのを見たことも無い。さらに、カオスは前回のオーディン戦も見ていたのだが、その試合中でさえデオドラント・マスクは声を出していなかった。コミュニケーションといった喋る行為だけでなく、気合いを入れた時の掛け声や、そういったコミュニケーションにならない部分さえデオドラント・マスクはしていなかった。

 声が出せないのか、何らかの意図によって出さないだけなのか、どちらなのかは分からない。ただ、デオドラント・マスクがカオスの他愛ない雑談に反応しない、ノーリアクションなのに変わりはない。

 それはいい。別にどうでもいい。

 カオスは思う。しかし……

 この沈黙は辛い。どうにかしてくれ。

 カオスはそう願うのだった。ただ、それでも最後にはやっぱりこう思うのだ。

 どうでもいいと。




『それでは、始めて下さい!』

 カオスがそんなどうでもいい孤独を抱えている間にも、会場では大会は進行してゆく。試合開始が告げられた。

 ルナとリスティアは対峙する。ただ対峙する。試合開始が告げられても、双方共にすぐには動き出さない。相手のその様子を窺っていた。

 リスティア・フォースリーゼ……

 ルナは感じている。魔力や力、そういった戦闘におけるあらゆるスキルが、リスティアは非常に高い位置にある相手であると。ほぼ確実の割合で、自分はリスティアには敵わないのだと。

 カオスならば、そこで何らかの小細工や策を弄して戦うことが出来るかもしれない。ただ、自分にはそんなスキルは無い。だから、今更のようにそんなものを考えても意味はないだろう。

 ならば、真っ直ぐにぶつかってゆくのみ! あたしは挑戦するだけ!

 ルナは決める。正々堂々と戦うと。

 それと共に魔力を充溢させる。真っ直ぐな魔力が、ルナの周りを覆う。素直で、真面目な雰囲気の魔力だ。そうして、リスティアに向かって駆けてゆくのだ。

 へぇ。良い眼ですね。

 リスティアはそのルナの真っ直ぐな瞳を嬉しく思いつつも、羨ましく思っていた。その真面目な雰囲気、真っ直ぐな空気を感じながら、対応をするのだ。


「はっ!」


 ルナは大きく足を振り上げて、それをリスティアに向けて鉈のように振り下ろす。が、リスティアはそれを防御。左腕を掲げ、前腕に沿わせ、その軌道をずらす。

 防御成功。だが、それはルナにとっても予想済み。ルナとて、最初からそんな攻撃が通用するとは思っていない。そんな楽観主義ではない。だから、追撃は用意してある。

 肘打ち。リスティアが流したその遠心力と、自身の腰の捻りの力を加えて、ルナは肘打ちをリスティアに叩き込む。が、それもリスティアは防御。右手をその肘に添えて、上方へとその流れを変えて。

 次はリスティアの反撃。リスティアは左の拳を真っ直ぐに叩き込んでくる。ルナとして反撃は予想済み。足をしっかりと地に着けて、手本となる程に綺麗な防御をしてみせる。

 右の拳、左の拳、リスティアはどんどん攻撃を仕掛けてくる。が、その攻撃はまだまだルナにも対応できる速さだったから、ルナはそれを1つ1つ丁寧に防御して潰していった。そして、その合間に反撃としてルナも攻撃を仕掛ける。もっとも、そっちもリスティアによって全て防御されてしまっていたが。

 互いに攻撃を仕掛け、それを防御で潰してゆく。少しの間はその繰り返しだった。パンチもキックも魔法も、それら全てが相手にダメージを与えられないままであった。

 ガシッ!

 そして、互いに掴み合う。手と手、指と指、それぞれがしっかりと組み合わさり、膠着状態へとなる。互いに押し合いの状態となるのだ。


「はあああっ!」

「くおおおっ!」


 力、そして魔力で互いに押し合うが、膠着状態なのは変わらない。

 そして、その数瞬後にそうやって押すのを両者は諦める。相手を押し切るにはもっと力が必要だし、仮に押し切ったとしてもそこで得られるメリット、ダメージはあまり大きくはならないからだ。

 互いに魔力を前に放出し、その反動で後ろへと下がる。相手から距離を取る。少し上空に舞い上がり、体勢を整え直しながら両者共に綺麗に着地した。

 リスティアは着地し、そこから動かない。だが、ルナはそこからすぐさま次の行動へと移る。その場で、その姿を忽然と消してみせた。


『おおっと。ルナ選手、その姿を消しました!』


 外野の連中は驚く。


「おおっ! どういうことだ?」


 テレビ観戦中のアレックスも驚く。


「…………」


 しかし、肝心のリスティア本人に動揺は見られなかった。態度も何も変わらない。それがモニター越しで試合を見ているカオスにも分かった。

 ルナの姿が見えないのは、常人では捕らえきれない程のスピードで動いているだけというもの。俺が前の試合、クロードにしたのと同じ。真似しっこだ。もっとも、真似と言っても特殊な技でも何でもないので、それがバレたからといってどうにかなるというものではない。だから、それそのものはいい。

 しかし、リスティアのあの状態を見るからに、その程度のスピードでは通用しないようだぜ?

 同じくテレビ観戦中のカオスはそう感じていた。そして、実感していた。リスティアは強い。少なくともクロードよりもずっと強い。


「…………」


 そのリスティアは、キョロキョロとリングを見渡したりしなかった。ただ、リスティアの顔はずっと一定方向を見ているだけだった。ルナを探しているようには見えない。

 けれど、そのすぐ後にリスティアは動きを見せた。何も無い虚空に向けて、肘打ちを食らわせた。

 それはただ空を切るだけのように思われた。が、それは違った。その肘打ちは当たった。今まで姿を消していたルナの体に確実に。


「くはあああっ!」


 その攻撃をマトモに食らったルナは、大きく吹き飛ばされてしまった。


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