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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter5:トラベル・パスBランク試験
130/183

Act.109:闇と光の対峙Ⅳ~奥の手~

☆対戦組み合わせ☆

 二回戦<Bランク試験合格決定戦>

 9:× Dr.ラークレイ       vs リスティア・フォースリーゼ 〇

10:〇 ルナ・カーマイン     vs アッシュ          ×

11:× オーディン・サスグェール vs デオドラント・マスク    〇

12:  クロード・ユンハース   vs カオス・ハーティリー

 奥の手。とっておき。


「へぇ。面白いじゃないの」


 マリフェリアスは見世物見物の気分だった。それが大きな効果を及ぼす、カオスに対して絶対的な優位にたてるものではないと思いながらも、少し楽しませてもらえはしないかと思っていた。

 先に奥の手を出す。そうさせた時点でカオスの勝ちなんだろうが、その悪あがきにも興味はあるし、それ如何によっては試合の流れも変わりかねない可能性もゼロではない。

 どっちが勝ったにしても、これは命の懸かっていないただの試合。観客でしかないマリフェリアスからすれば、ただ楽しめればそれで良かった。だから、クロードのその奥の手に娯楽性を求めていた。

 その期待をされているんだか、されていないんだか分からないクロードは、その魔力を充溢させ、大きく跳ね上がらせていた。


「うおおおおおおおおっ!」


 それは、カオスにも感じられていた。触らずとも、肌にピリピリと突き刺さるように感じられる。その魔力の風が。奔流が。

 成程、本当に奥の手のようだな。

 クロードは本気中の本気、完全な手加減なしモードで来るとカオスは理解した。だが、カオスの方は変わらない。クロードの出す奥の手がどのような代物なのか分からないからだ。何かしら対策が必要なのだとしても、とりあえずはそれを知る為の様子見だ。

 ただ、大きな力で潰そうとするのは愚の骨頂。効率は悪いし、無駄ばかり、そしてキリが無い。


「…………」


 カオスはクロードの様子を観察する。魔力の大小、その流れ、そういったものを見逃さないように注意して観察する。

 最初、魔力は大きくなってゆくだけだった。そして、それが膨らんでいくだけだった。だが、それがある程度まで進む

と、魔力はその流れを変えた。クロードの横に漏れるように流れ出した。


「ん?」


 クロードの横、約1メートル。そこに、クロードから漏れた魔力は集まり、収束し始めた。人にも見える、1つの形となっていった。

 それは、まずは大まかな人の形。だが、それはどんどん細かくなっていく。その姿は、人らしさを増していく。手足、顔、髪、それらが、周囲に居る人間と何ら変わらない位に変貌していった。ただの魔力の塊が。

 そして、それは完成する。魔力の塊は、クロードそっくりの像となって現れた。

 それは、まるで……


「ふ、2人に増えたー!」


 細胞分裂したアメーバのようだった。クロードが増えたようにしか見えないのだ。嘘のような話だ。だが、それは間違いではない。


「そう」


 クロードの1人は、それを肯定する。それは間違いではない。どのような形であれ、増えた事には変わらないのだ。嘘でも何でもない。

 そして……


「これが奥の手、ディヴァイド・ヴィジョンだ」


 クロードの1人は、そう言った。

 その言葉、その姿、そのどれもがにわかには信じられないものだった。1人の人間が2人になるなんてありえないからだ。だから、カオスはそのクロードを疑いの目で見ていた。何かしら、嘘偽りがないかどうか。

 だが、それは感じられない。とりあえず、そのもう片方からも魔力は感じられていたからだ。

 つまり……


「残像じゃねぇな。やっぱし」

「勿論だ」


 残像は見た目だけのフェイクであって、それは何も出来ない。そういう見せかけだけの影ではないのだとクロードは言う。そして、そこにさらに付け加える。


「この技の発動で、パワーやスピードが落ちることも勿論無い」


 希望を打ち砕く。


「それすなわち、お前は2人のクロード・ユンハースを相手にしなければならない訳だ」


 それと同時に、クロードの1人は駆ける。新しく生まれたクロードが駆ける。そして、カオスに向かい襲い掛かった。それを、カオスは迎撃する。新クロードの放つ蹴りを防御する。

 防御はする。だが、その威力はカオスの腕に伝わってくる。


「…………」


 確かに、嘘ではない。パワーもスピードも、先程までの本物のクロードと何ら変わりはない。そのままと言っても十分なレベルだ。

 その新クロードに、カオスは反撃する。とりあえずはただの拳。反応を見る為だけの試金石でしかないものだ。ダメージを与えられるとは思っていなかったが、与えたらそれはそれでお終いというだけのもの。容赦なくぶち込もうとする。

 が、勿論それを新クロードは防御する。しっかりと流し、クロードらしい綺麗な防御をして見せる。その反応、動きの流れ、それらもまたクロードと同じと言っても過言ではなかった。

 それすなわち、お前は2人のクロード・ユンハースを相手にしなければならない訳だ。

 その言葉はハッタリではなく、嘘偽りや勘違いでもなかった。実に的を射た発言だった。カオスとしては、信じたくはなかったが。

 その間もカオスと新クロードの攻防は続く。殴り、防御し、蹴り、防御し、それぞれの攻防は繰り返される。その繰り返しがずっと続くかのように思われた。

 だが、その繰り返しはすぐに終わる。闖入者によってすぐに終わる。


「ははは。そう、このままではさっきまでと同じだからなぁ!」


 クロード、本物のクロードがその攻防の中に乱入する。そう。今、クロードは2人に増えている。それなのに1人が戦って、もう1人が見ているだけでは意味が無い。これは2対1の戦いなのだ。


「!」

「遅い!」


 カオスは乱入に気付いたが、それは既に遅かった。その直後、クロードの肘打ちがカオスに炸裂する。

 それはクリーンヒットし、カオスは対している新クロードからすれば大きく横へと飛ばされてしまった。その瞬間、新クロードは間髪入れずに移動。飛ばされたカオスに追撃をかけるべく、新クロードはそちらに駆ける。

 そして、新クロードはカオスが飛ばされた蹴りの軌道を先回りして、そこで待ち構える。待ち構え、飛んで来たカオスを、さらに強力なスラッガーのような勢いで、蹴りによって大きく打ち返した。

 カオスは逆方向に飛ばされる。リングに叩きつけられ、跳ねる。ダメージを受けながら、強制的に移動させられる。


「チッ!」


 その動きは止まり、カオスは中腰のまま臨戦態勢を取り戻す。が、そこですぐに気付かされる。クロードに飛ばされ、その先で新クロードによって蹴り返された。つまり、ここは元の場所。つまり、ここには……

 その瞬間に攻撃が入った。クロードによる攻撃だ。カオスに向けて、拳が振り下ろされる。魔力の籠もった拳だ。それは弧を描き、石のリングをも軽く叩き割る。

 だが、カオスはそれをいち早く回避する。後ろにクロードが居る。それをすぐに察知し、すぐに行動に移したのが幸いだった。上空に飛び上がり、その攻撃を回避することに成功した。

 が、そこには新クロードが先回りして待ち構えていた。カオスのその動きを見ていたのだ。カオスはまんまと新クロードの待つ所へと接近してしまった。

 新クロードは容赦しない。両手の指を組んで1つの大きな拳として、それをカオスへと振り下ろす。


「くそっ」


 カオスは反応出来ない。飛べないカオスでは、マトモに動けなかった。

 その拳はカオスにクリーンヒットする。カオスはそのまま一直線に落ちてゆく。そして、リングに強く叩きつけられた。

 リングに1つの穴が穿たれた。煙を上げ、その破壊力を物語る。その中に、カオスは居る。カオスは叩き込まれた。

 これで終わりだ。

 観客はそう思っていた。だが、カオスは自分の周りの障害物を破壊して、あっさりとその中から出て来た。しかも、ダメージもあまり受けていないようにも見えた。そう、実際にダメージはあまり受けなかった。自身の纏っていた魔力をその瞬間は全て防御に割り振り、肉体へのダメージを最小限にするようにしていたからだ。

 カオスが叩きつけられてリングの下の土から湧き上がった煙と、カオスが出る為に破壊して湧き上がった土、その両方によって遮られた視界が晴れた頃には、既に新クロードはリングの上、地面の上に戻っていた。

 クロードと新クロードがシャッフルされた状態だ。見た目を本物そっくりに作られた新クロードだ。そのままでは、どっちがどっちか分からない状態にも見えた。だが、カオスはその中の片方に迷わずに目を向けた。そちらが本体だとすぐに断定した。

 こっちだな、本体は。

 見た目は変わらなかった。だが、片方のクロードは平然としているのに対して、もう片方のクロードは明らかに疲弊していた。息を切らし、たくさんの汗を流していた。それならば、その後者の方が本体に違いないとカオスは判断した。

 そして、それは正解だった。クロードは自分の魔力を使って自分の複製を創り、維持している。それすなわち、その複製を精巧にすればする程、それにかかる魔力や集中力の必要量は跳ね上がる。さすがに汗や動悸、そういった体調の変化まで複製出来なかった。もっとも、出来たとしてもそこにメリットはなさそうでもある。

 体調の変化までコピーはしていない。だが、見た目だけでは分からないような精巧さをクロードの複製はもっている。

 もう少しだな。

 試合では、今圧されているカオスが余裕たっぷりにそう思っていた。その反面、その逆の立場であるクロードは反対に焦っていた。試合を急いでいた。


「くっ!」


 急がねば。急がねば。急がねばならない。

 このクローンの投入は、クロードにしては賭けだった。2対1、その放出される火力の違いによって、あっと言う間に制圧するつもりでやったのだ。

 だが、そこまでやれてはいなかった。もう、既に予定時刻を過ぎていた。予定以上に消耗してしまっていた。


「はっ! そりゃっ!」


 だが、試合は終わっていない。勝負もまだついていない。

 クロードは気合いを入れなおすと、再びカオスの方に向かっていった。積極的に攻めていった。拳をふるい、蹴りを繰り出し、魔法を放っていく。

 けれど、その切れ味は次第に失われかけてきていた。カオスはクロードの相手をしながら、そのことに気付き始めていた。パワー、スピード、魔力、そして技術力、そういった戦いにおいて疲労と共に失われていくものが、クロードから少しずつ、しかし確実に減っていっていた。

 つまり、このままいけばクロードは放っておいても自滅する。だからカオスとしてみれば、この場をしのぎきればそれだけで良かった。

 けれど、それをクロードは許さない。カオス対クロード、その2人の肉弾戦に新クロード、クロードの複製が乱入する。クロードと戦っているカオスに、横から飛び蹴りで攻撃を仕掛ける。


「くっ!」


 それはカオスにクリーンヒットする。いかに消耗し始めたクロード相手とは言え、クロードはアレックスよりもずっとレベルが上の強敵である。そっちの方にまで気を払えるような余裕はまだカオスには無い。

 だから飛ばされる。リングの上に倒される。

 けれど、カオスは受身を取った。しっかりと取った。それ故に、その蹴りからは大したダメージは取れていない。クロードは分かっている。だから、疲れた体に鞭打って追撃をかける。


「くあっ!」


 右手に魔力を充溢させ、それを倒れているカオスに向けて放った。クロードの魔力は火炎放射器のように放たれ、リングを穿ちながら土埃を上げていった。だが、それだけだった。

 ふっ。


「!」


 カオスは避けた。避けた上で、放ったクロードの後ろに回りこんだ。クロードは後ろを取られたことにはすぐ気付いたのだが、それだけではもう遅い。カオスによる攻撃を許す。

 カオスの回し蹴りがクロードに炸裂する。それはクリーンヒットし、クロードは大きく飛ばされる。上手く受身も取れないままにリングに落ちて、しばらく床掃除した後にやっと止まった。大ダメージだ。


「くっ」


 クロードはよろめきながら立ち上がる。立ち上がり、カオスを見据える。息は切れ、汗は吹き出ていたが、戦意は失っていなかった。


「はあっ! はあっ! はあっ! はっ!」

「…………」


 だが、カオスは追撃をかけない。ただ、言うだけ。


「終わりだ、クロード・ユンハース。お前の負けだ。お前は過ちを犯したからな」


 勝ちを宣告する。


「なっ!」


 その自信たっぷりの発言に、クロードは驚きを隠せなかった。そのようなことを言われるとは夢にも思わなかったのだ。

 だが、観覧していたマリフェリアスは驚かない。太陽は東から出て、西に沈む。そんな当然のことのように、ポツリと言うだけだ。


「カオスの勝ちだね」


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