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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter5:トラベル・パスBランク試験
127/183

Act.106:闇と光の対峙Ⅰ~小手調べ~

☆対戦組み合わせ☆

 二回戦<Bランク試験合格決定戦>

 9:× Dr.ラークレイ       vs リスティア・フォースリーゼ 〇

10:〇 ルナ・カーマイン     vs アッシュ          ×

11:× オーディン・サスグェール vs デオドラント・マスク    〇

12:  クロード・ユンハース   vs カオス・ハーティリー

 リスティア、ルナ、デオドラント・マスクといった3人の勝者を出し、トラベル・パスBクラス試験の合格決定戦は最後の決定戦となった。

 それは第4試合、カオス・ハーティリー対クロード・ユンハース。

 デオドラント・マスク対オーディン・サスグェール戦が終わってから、観客はその対戦を心待ちにし、どういう試合になるか想像しながらテンションを上げていた。


「クロード様~♪」


 クロードの熱烈なファン達は、まだ入場もしていない内からクロードに向けて黄色い声援を飛ばす。カオスに対する声援もありはしたのだが、ここはあくまでもクロードの地元、ホームである。その上で前回も出場したとあり、知名度もずっと高い。その数で言えば、圧倒的にクロード側であり、カオスにとってはこの地は完全なアウェーとなっていた。

 その状況を、マリア達は会場の特等席から黙って見守っていた。病院入りしているアレックスも、その病室のテレビからその様子を眺めていた。

 そして、コールされる。


『続きまして、第4試合。合格決定戦、最終戦です。クロード・ユンハース対カオス・ハーティリー! 両選手の入場です!』


 そのコールと共に北ゲートと南ゲート、両方の上方にあるモニターに各々クロードの『CROWD』の文字とカオスの『CHAOS』の字が映し出される。その直後、ゲート横のパイロが爆発による演出を見せると同時に、その両方のゲートは開いたのだった。

 その派手な煙と閃光の中、大きな歓声に包まれてカオスとクロードは入場してくる。花道を歩く両選手を追うようにスポットライトは当てられ、その2人を際立たせる。この最終戦でも、そんないつも通りの演出だ。

 その中を、カオスとクロードは特に気負いもせずに歩いている。2人共緊張で潰されるような性格ではないからというのもありはする。だが、カオスは特に騎士という地位に対するこだわりがない為、クロードはカオスとの対戦を非常に楽しみにしている為、とそれぞれの緊張のない主な理由は異なっていた。


「キャ~、クロード様ー♪」

「頑張って~♪」

「ワー♪」


 そんなクロードに観客は声援を送るのだけれど、クロードはその方向を見向きもしない。あくまでも次の対戦、カオスとの戦いに神経が向いている。だから、そういったものに対しての興味は非常に薄かった。


「カオス君頑張ってぇ~♪」

「合格しちゃえ~♪」

「行っけぇ~!」


 そんなカオスにも、観客は声援を送る。クロードは見向きもしなかった。だが、カオスは違う。逆に愛想良く手を振る。女性の黄色い声援は大好きだからだ。無論、戦うよりも。だから、愛想良く手も振り返すし、投げキッスもする。

 そういったカオスのリアクションを、カオスに声援を送った観客は非常に喜ぶ。だから、それに対してさらに大きな声援を送るのだった。


『凄い声援ですね』


 その入場のシーンを見ながら、実況アナウンサーはそう呟くように言った。今回の決定戦の中で一番の盛り上がりを見せるその観客に、素直に驚いていたのだ。カオスの投げキッスにはもう慣れたが。

 だが、隣の解説のモナミは大して驚きはしない。


『それはそうでしょう』


 当然のように言うだけだ。


『か、顔ですか? イケメンが出て来るとそれだけで?』

『それもあるでしょうけれど、それは恐らく半分程。それより、彼等の事前評価ですね。それを念頭に入れると、素人も玄人も注目せざるを得ない対戦となるでしょう』

『あ、ああ! そうか! そう言えば2人共、本戦前の事前評価はAでしたよね! そ、そりゃあ、非常に注目すべき一戦となりますねぇー!』


 実況アナウンサーは嬉しそうにそう言った。彼としても、そのモナミの解説を聞いて、これから始まる対戦が非常に楽しみになってきたのだ。

 そして、その頃には既にカオスとクロードは両方ともリングの上に到着していた。戦闘準備は完了だ。両者共に、相手を真正面から見据える。

 カオスはいつもの自然体で、クロードは真剣な眼差しで。


「カオス・ハーティリー」


 前方に居るカオスに、クロードは話しかける。


「私はマスコミの煽り等とは関係なく、お前との対戦を楽しみにしていたよ。どちらが勝つかは分からないけれど、とても面白い一戦になるんじゃないかってね」


 クロードは期待を多く持ってこの試合に臨んでいた。それは、カオスにしてみれば一種のプレッシャーであった。鬱陶しいものであった。

 だから、憮然として言う。


「んな期待すんなよ。応える気ねーぞ」


 溜め息をつくのだ。

 そのカオスの気合いの無さそうな反応に、クロードは怒らない。それすなわち、カオスは自然体ということだからだ。変な緊張や気負いが無いだけ、カオスは自然な動きを見せてくれるようになる。だから、クロードとしてはそれで良かった。


『それでは、試合開始!』


 そして、試合は始まる。だが、どちらもすぐには飛び掛らない。カオスはいきなり飛び掛るような戦意に満ちているような者ではないし、クロードとしてもいきなり有無を言わさず飛び掛っていこうとするのは本意ではない。あくまでも正面からの打ち合いが彼の理想だ。

 だから、先に断る。


「行くぞ」

「来れば」


 外野である審判とは別に、クロードはそのように宣告する。これが戦闘の始まり。その覚悟を固めろという意味でもあるが。

 カオスにはそのように気を引き締める気はなかった。戦う気はあるが、ただ単に力試しに来ただけなので、ここで必死になる理由なんか何処にも無い。

 ただ、それもまたカオスの姿。それが自然体。

 それを理解しているクロードは、カオスに攻めかかる。戦闘開始だ。まずはクロードが地を蹴り、カオスとの間合いを詰める。間合いを詰め、そこからすぐさま攻撃。挨拶代わりのパンチ、魔法も何も付加の無いただのパンチ。

 カオスはそれをしっかりとガードし、同時に右足で回し蹴り。そう、同時に反撃だ。だが、それは当たらない。クロードは既に必要最低限の間合いを取って、その蹴りを回避した。

 そこから、クロードは再び間合いを詰める。パンチや蹴りなどの攻撃を繰り出す。だが、それらの全てが、1発目のそれと同じように、魔法も何も付加の無いただのパンチでしかなかった。

 これは様子見だな。

 カオスはとっくに既に悟っていた。向こうはこちらの情報収集をしていると。だが、それで激昂したりはしない。敵と戦う際に、その相手の技量を見極めようとするのは当然だからだ。そして、それはお互い様。カオスとしても今はまだ、様子見の状態でしかない。お互いに初戦はすんなり勝ってしまったから、力を殆ど出さずにいた。つまりは初見のようなものだからだ。

 そそうして様子を見る。その中で、カオスはちょっとしたクロードの隙を見つける。だから、そこをチャンスとばかりにカオスは連続で攻撃を繰り出してみた。両手足をそれぞれランダムに突き出すだけのスタンダードな攻撃だったが、それをカオスは多量に繰り出してみた。

 それらを全てガードするのは難しい。

 クロードはそう悟り、間合いを外して回避。後ろにバクテンで回避する。それを何度か繰り返してカオスとの間合いを確保。ショートレンジ、ミドルレンジ、ロングレンジと広げる。

 カオスにとってみれば、それはまだ面白くない。もう少し、クロードの直接の攻撃防御の能力を見ておきたいところだった。だから、クロードが間合いを取ったその直後、今度はカオスの方からその間合いを詰めようとした。クロードに向かい、カオスが襲い掛かる。

 だが、それをクロードは嫌う。左の人差し指をそっとカオスに向けて、そこから素早く魔法の光線を放った。魔力の充溢から精製、放出まで実に短い時間だった。

 そのクロードの放った魔法の光線は、リングの表面を削りながら真っ直ぐにカオスに向かっていく。


「チッ」


 カオスは舌打ちをする。

 カオスの直進には勢いがついているので、今更横に避けるのは難しい。立ち止まり、それをガードしたり相殺したりするのはもっと難しい。

 ならば、上しかない。上に回避するしかないのだ。

 カオスは飛び上がり、そのまま上方へと行き、クロードの光線による攻撃を回避する。

 だが、それは初回のみと。よけられるのは最初の一撃のみ。それからクロードはすっと視線を上空のカオスへと向ける。そのように避けるのはオーソドックスな行動であり、大して考えなくても予測済みの行動。

 クロードはその指を、今度は上空へと舞ったカオスへと向けた。追撃だ。クロードの人差し指から、カオスに向かって再び光線が放たれる。

 その光線は、空に舞っているカオスに向かって一直線に飛んでいく。そして、それはカオスを無慈悲に貫く。上空で動きようのないカオスを、無情にダメージを与えるものである。

 その筈だった。だが、その光線はカオスを貫かなかった。光線がカオスに当たったかと思われたその瞬間、上空に居たカオスの姿はそこから忽然と消えたのだった。


「なっ!」


 クロードは驚く。これで終わりとは思っていなかったが、当たるとは思っていたのだ。しかし、カオスの姿はそこで消えた。ダメージも何も無い。それは、彼にとっては予想外だった。訳の分からないことだった。


「残像だ。馬鹿」


 その時、クロードの背後からカオスの声がした。背後に回ったのだ。

 残像。そう言われたその瞬間に、クロードはそのカラクリを理解する。

 自分が放った光線を回避する為に、カオスは上空へと逃れた。体の動きに勢いがついていた為、それが一番容易だったからだ。しかし、それは自分とて予測済みだった。だから、上空へと逃れたカオスに、全く時間をかけずに追撃の光線を放った。

 だが、それさえもカオスは予測済みであり、さらにそれを逆手にとって利用した。背後を取ったのだ。


「そらっ!」


 無防備なクロードの背中に、カオスは蹴りを叩き込む。クロードを大きく蹴り飛ばす。

 それにより、クロードは大きく飛ばされた。だが、すぐさまリングに手をつき、体を翻して体勢を整え、リングの上に綺麗に着地する。そうして、自分を蹴り飛ばしたカオスに視線を戻す。それは、ほんの一瞬の間だった。

 だが、その時には元居た場所にカオスの姿は無かった。周囲を見渡す。だが、それでも見当たらない。


『居ない! カオス選手居ません! 姿を消しました!』


 実況アナウンサーも驚く。観客も驚く。だが、その実況アナウンサーの隣に居る解説のモナミは、面白そうに口元を緩めるだけだった。彼女は、カオスがどうしているのか見えるのだ。そのカラクリが。

 カラクリは理論的には難しくない。ただ、早過ぎるだけ。

 クロードは目を細め、カオスの気配を探る。クロードとて素人ではない。そのようなもの、すぐに分かる。捉えられる。


「そこっ!」


 クロードの拳が宙を切る。その瞬間、その拳はさっきまで姿を消すように素早く動いていたカオスに、見事にヒットした。

 カオスはその体勢を崩す。だが、飛ばされないように足を踏みとどまらせる。だが、その隙につけ込まれないようにその体勢を素早く整える。

 そして、すぐさま反撃。パンチをクロードに向けて繰り出す。

 しかし、それは勿論クロードは予測済み。そのカオスの拳を左手で流してガード。そんな綺麗な防御だった。それ程、カオスの反撃はクロードの予測の内のど真ん中だった。

 けれど、カオスはそれでへこたれない。そのパンチそのものの威力に期待なんかしていなかった。それで終わるようでは、クロードはただの雑魚でしかなくなってしまう。あり得ないのだ。

 カオスがその拳で狙ったのはただ1つ。ダメージではなくて、勢いだ。防御体勢になりそうな現状を、再び自分の攻撃態勢へと戻す為の初手としての役割のみ。そして、それは成功する。カオスはそこから連続攻撃に移り、クロードにどんどん攻撃を仕掛けてゆく。右、左、右、左、上、下、上、下、カオスは拳と蹴りでどんどんクロードを後方へと攻め続けてゆく。それに対し、その時のクロードは防戦一方であった。

 だが、クロードはカオスも油断出来ないと思っている相手。それで終わるような男ではない。防御をしながら魔力を貯めていって、頃合の良い時を見計らってそれを爆ぜる。

 轟音が轟く。爆ぜたクロードの魔力の塊が、爆風となり、轟音を轟かせながらカオスとクロードの二人を飛ばすのだ。

 それにより、ダメージは受けない。放ったクロード自身はもとより、その巻き添えを食らったカオスさえもダメージは受けない。ただ飛ばされるだけだ。

 けれど、クロードにとってはそれで良かった。ひとまず一息つきたかっただけだから。そう。小休止だ。クロードとカオスは、互いに少し離れたリングの上に綺麗に着地する。そして、互いに目を向ける。ただ、動きはしない。

 その2人の姿が、きっちりと観客達の目に止まる。その2人の姿を見て、観客達はそこで改めて大きな歓声を上げた。その観客達の誰もが、感嘆の声を上げた。

 凄い。このような戦いを観れるなんて。どうすれば、そのような戦いが出来るんだ。彼等こそ、これからのアレクサンドリア連邦の未来を担うに相応しい。

 そのように口にしながら、歓声を送り、拍手を送っていた。




 その様子をテレビ越しに観ながら、アレックスも感嘆せずにはいられなかった。

 これが本当のカオスの力か。昨日、俺と戦ったよりもパワーもスピードもずっと上を行っているではないか。やはり、リニア先生の言っていたのは、嘘でも買い被りでもなかった。真実なのか。

 だが、そんなアレックスはまだ勘違いしている。それをすぐに悟らされる。テレビの向こうの、クロードは対戦相手であるカオスに向かって笑いかける。


「成程。面白い。戦う前に思った通り、やるではないか。謙遜する必要はない。お前は既に、一流の戦士だ。既にそこら辺にいる数多の騎士よりずっと優れている」


 そうして自分の好敵手、相手を褒める。クロードは認めるべきところは絶対に認める。それが、今の自分にとっての敵であっても。

 そして、そういう自分と拮抗する相手、もしくはそれ以上の相手、そういった強者と戦い、己の技を磨いてゆくのが彼にとっての至上の喜び。だから、カオスという好敵手を手に入れたこの今こそが、クロードは至上の喜びに浸っていられた。

 そしてそんな時間はまだ始まったばかり。ディナーで言えば前菜でしかない。これからが本番だ。クロードはメインディッシュを所望する。


「さぁて、カオス・ハーティリー。体慣らしはこの程度でいいだろう。もう、十分に暖まった筈だ。では、そろそろ本気を出していったらどうだ?」

「何!」


 アレックスは思わずテレビ画面に向かって叫んでいた。信じられないような台詞を口走られた気がした。空耳を聞いた気がした。そう、信じていたかった。

 だが、真実は残酷。カオスはクロードに向かってだるそうに言う。


「偉そうな口をきく前に、まずはてめぇから出したらどうだ? まさか、そんなもんで終わっちまいはしねぇだろうに」

「ふふふふ」


 クロードは笑う。


「焦らずともじっくりと見せるさ。そう、じっくりとな。まだ宴は始まったばかりなのだから」

「…………」


 アレックスは絶句する。寿命が幾ばくか縮んだ気がした。

 これが本当の力なのだとしたら、今の自分には届かない所にカオス達は居る。そのように考えていたのだが、その点でさえもカオス達にとってみれば慣らし運転でしかなかった。そんなの嘘だ。そう思いたかったアレックスがいた。

 けれど、汗一つかかず、息一つ切らさず、平然とした顔をしているカオス達が、ハッタリを言っていないことは、冷静に考えられなくてもアレックスには分かっていた。


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