Connect02:金髪ロリと銀色仮面再び(変態は無し)-魔族サイド-
魔界の何処かにあるアビス城では、一人の上級魔族が怒りに拳を震わせていた。
「そう。その情報は、確かなのね?」
彼女の持っていたオレンジジュースの入っていたグラスがひび割れ、砕け散る。それを見て、配下である中級魔族二人は恐怖を感じていた。目の前にいるのは小さな少女の見た目で、年齢もそのままなのだが、力も立場も遥かに上である。そして、厄介なことに性根が非常に真っ直ぐで、かつ面倒なことに非常に短気な性格をしているのだ。
中級魔族達は情報を隠すとさらなる怒りを自分に向けられると分かっていたので、自分が使役蟲から得たその情報を包み隠さず報告する。
「は、はい。使役蟲の報告によると間違いないと。ガイガー様は亡くなられてしまったそうです!」
金髪の上級魔族は立ち上がる。怒りで全身を震わせながら、拳を強く握る。
「人間がっ!」
そして、地団太を踏む。
「ムカツク! ムカツク!! ムカツクーーーーッ! 何処のどいつが殺ったのか知らないけど、絶対に探し出してブッ殺ーすっ! 二人共行くよっ! さっさとそいつの居場所を案内しなさいっ!」
「フローリィ」
怒りで我を忘れているだろう彼女に、後ろから冷静なトーンで声をかけられた。銀の仮面の上級魔族、ロージアだ。
「フローリィ、ちょっと落ち着きなさいな」
「これが落ち着けるか! あたしは仲間を殺されて黙っていられるような冷酷な魔族じゃないわ!」
フローリィの言っていることに間違いは無い。ロージアはそう分かっていた。ただ、現実的でもない。彼女をそのまま人間界に行かせても、彼女はそこでどうにも出来ないこともロージアには分かっていた。
ロージアは諭す。
「でも、フローリィ。貴女、ガイガー君を殺したのが誰かも分からなければ、何処に居るかも分からないでしょう? 人間界に行ったところでどう探すつもりなのよ?」
「うっ」
フローリィは勢いで言っているだけである。ガイガーとは左程仲良くはなかった。物の貸し借り程度はあったので悪くはなかったが、それだけである。ただ、仲間を殺された。じゃあ、仇討ちをしないとダメだねというシンプルな思考回路での言動だった。
ただ、そのシンプルなままに行動しかねないのが厄介だった。
「いい? フローリィ」
ロージアは姉のような優しい口調でフローリィを諭す。
「貴女に言っても無駄かもしれないけど、怒った時こそ氷の心よ。怒りを心の奥に静めて、努めて冷静に振舞うの。そうしないと、つまらない所で足元をすくわれてしまうわよ」
「…………」
ロージアの言うことは正しい。フローリィもそれは分かっていた。だから、ロージアに対して八つ当たりもせずに黙ってその話を聞いていた。歯を食いしばりながらではあるが。
「ふぅーーーー」
フローリィは大きく息を吐いた。そして、いつもと同じ表情に戻った。それを見て、ロージアは仮面の中で満足そうに笑う。
「そう、それでいいのよフローリィ。じゃ、教えられるわね」
「え? 何を?」
「ガイガー君を殺したのはどういう人間なのか分かったのよ。ピンポイントで正確という訳じゃないけどね。ホントはそれを教えてあげに来たのよ」
「え、ホント?」
フローリィは期待に目を輝かせ、嬉しそうに笑う。
「ええ、そうよ。ガイガー君の死を見た使役蟲は、私の配下だからね。とりあえず、これがその使役蟲の記録した魔法画像よ」
ロージアはフローリィにその画像を手渡した。フローリィはその画像を笑顔で受け取り、間を置かずすぐにその画像に写っている人間を見た。すると、その顔は笑顔からみるみるうちに険しいものに変化していった。
「こいつが?」
ガイガーを殺したの?
そう訊きたいだろうとロージアは理解し、首を縦に振る。
「ええ、そうよ」
「ただのガキじゃないの」
紙に写された金髪の少年を見ながら、その金髪の少女は信じられないような顔をした。そう言う自分の姿は頭に入れていないらしい。ウェーブのかかった金髪をツインテールに結わえ、ゴシック調のドレスを着た、身長150cm未満でローティーンにしか見えない自分の姿は。
本当はハイティーンなのに、とそんな閑話休題はどうでもいいとして。
「まあ、何かあるんでしょうけどね。で、居場所は分かるの?」
「それは分からないわ」
ロージアは即答する。使役蟲はガイガーの死を確認後、カオス達を追跡しないでガイガーの死を城に伝えることを優先して、魔界にあるアビス城に戻ってしまったからだ。もっとも、下級魔族である使役蟲の知能はその程度なので、あまり応用は利かせられない。それは分かっていたので、フローリィも怒らず仕方なさそうに溜め息をついただけだった。
そんな残念そうなフローリィに、ロージアは一つヒントを提供した。
「でも、手がかりはあるわよ」
「え?」
フローリィは嬉しそうに振り返る。
「調べによると、ガイガー君が殺されたあの洞窟はね、あの日は人間達がトラベル・パスとかいう試験の実地試験をやっていたらしいのよ」
そこまで言うと、フローリィにも察しがついた。
「成程。そのテストの受験者や試験官等、その関係者の中にこの画像の奴は居るのね」
「そういうこと」
フローリィとロージアは笑顔を見せあった。ロージアは仮面だったが。
人間界全体の中から一人の男を探し出すのは殆ど不可能だが、テストの関係者の中からだけなら、不可能ではない。それだけで、ぐっと犯人に近付いたことになったからだ。
フローリィは笑う。満面の笑みを見せる。
「よっしゃあ! 殺す。ブッ殺ーす!」
「十二分に気をつけるのよ」
その日上級魔族で、なおかつ魔王アビス軍の幹部、『魔の六芒星』の一人であるフローリィが部下である二人の中級魔族を引き連れてアビス城を出発した。
目指すは人間界。そして、ターゲットはガイガーを殺した金髪の少年。つまり、カオスだ。
そんなカオスは知らない。
自分が魔王アビスの一派にターゲットにされてしまったことを……
やはり短いです。……他と比べれば(笑)。