Act.094:夜Ⅱ~1 → 2~
☆対戦組み合わせ☆
一回戦
1:× ジェイク・D vs Dr.ラークレイ ◯
2:× ナイヤ・ソヴィンスカヤ vs リスティア・フォースリーゼ ◯
3:× ケヴィン・アノス vs ルナ・カーマイン 〇
4:〇 アッシュ vs クライド ×
5:〇 オーディン・サスグェール vs ベス ×
6:〇 デオドラント・マスク vs コルラ・モルコーネ ×
7:〇 クロード・ユンハース vs ガイル ×
8:× アレックス・バーント vs カオス・ハーティリー 〇
二回戦<Bランク試験合格決定戦>
9: Dr.ラークレイ vs リスティア・フォースリーゼ
10: ルナ・カーマイン vs アッシュ
11: オーディン・サスグェール vs デオドラント・マスク
12: クロード・ユンハース vs カオス・ハーティリー
「だりぃ」
初戦を終えた試合会場のリングでは、初戦を勝ち抜いた選手を紹介しつつ、明日の予告を行っていた。カオスもその一人として、リングの上で観客に向けて紹介されていた。それが面倒臭かった。本音が漏れる程に。
そんなローテンションのカオスとは逆に、司会兼審判の女性は非常にハイテンションだ。ハイテンションに進行してゆく。
『さてさて、リングの上には明日の決定戦を控えている選手の皆さんが上がってまいりました。明日の対戦カードと共に、選手の皆さんをもう一度紹介してゆきましょう。まずは第1試合! Dr.ラークレイ対リスティア・フォースリーゼ!』
その声と共に、日が少々傾いているリングにスポットライトが当てられる。ライトは二つ、まずはDr.ラークレイとリスティアだ。その二人に当てられる。
その演出と共に、カオスとアレックスの試合終了で一度クールダウンした観客のテンションが、もう一度上がった。二人を応援している者もしていない者も、二人に声援を飛ばすのだ。明日の試合に、己のベストを尽くすように激励の声を飛ばすのだ。
その紹介は次へと移ってゆく。
『第2試合、ルナ・カーマイン対アッシュ!』
ルナ達を紹介して、さらに次へと移る。
『第3試合、オーディン・サスグェール対デオドラント・マスク!』
そして最後はカオス。
『第4試合、クロード・ユンハース対カオス・ハーティリー!』
選手紹介の間、選手の内の七人は凛とした表情で立っていた。その表情からは、明日の試合にかける意気込みや、その熱意がひしひしと感じられていた。
ただ一人、カオスだけは面倒臭そうにダラダラしていたが。
「…………」
その様をマリフェリアスは、特別観覧室で少々呆れながら見ていた。呆れていたのは、カオスのことではない。カオスがああなのは通常運転だし、今更どうでもいい。呆れていたのは、この試験の過剰演出についてだ。
国にとっても重要な騎士を選出する試験というのに、下らないショーと化してしまってる。そのように感じていた。そのマリフェリアスの後ろから、一人の男が彼女に声をかけた。
「下らないショーだと思っているな?」
「ええ、勿論思っているわよ」
マリフェリアスはその男、アーサーにハッキリとその考えを言う。
「ま、そう思うだろうな。しかし」
アーサーは少し笑う。
マリフェリアスは変わらない。ハッキリ言うところも、厭世的で、こういった所に無縁なところも、アーサーが子供の時から全く変わらない。それが少々嬉しかったのだ。
子供の頃のように、ただ一緒に過ごしていただけならばそれでいい。16年前のようにただ魔族と戦っていただけの時も、それでいい。だが、こうして国王となってしまったからには、そうはいかない。
「あれは我が国でも重要なビジネスなんだよ。その為に、ああやっているのも必要なのだ」
アーサーは言う。過剰演出も必要なのだと。
「その1、テレビ等のマスコミによる放映権が得られる。その2、祭とすることで、交通や商業施設等の経済の活性化を図ると共に、国民への娯楽の提供も可能となる。その3、各地から優秀な人材が発掘出来る。この祭はそんな一石三鳥の下に成り立っている。そのような国として美味しい話を、放っておく理由は何処にもないって話さ」
「ふぅ」
マリフェリアスは、溜め息をつく。昔からアーサーはそうだった。バトルジャンキーでありながらも、このような所で妙にしっかりしていた。
マリフェリアスが、こういうビジネスを快く思っていないのはアーサーも知っていた。だが、それはそれ。
「それより、夕食はまだだろう? 城のシェフに頼んでおいたから、ウチで食べていくといかないか?」
「そうね。坊やと一緒に食べるのも久し振りね。ま、いいわよ」
マリフェリアスはそう言って立ち上がる。そのマリフェリアスとミリィとメルティ、その三人をアーサーはエスコートする。その姿を見ながら、マリフェリアスは懐かしい気分に浸っていた。昔々、まだ共にあったことが鮮明に思い出されるのだ。
懐かしく、楽しい記憶。愛しく思えど、逆さに戻りはしない。ちょっと前までミリィやメルティよりもずっと小さかったアーサーが、このようにエスコートしているのだ。時はずっと流れ続けている。
そのことを、マリフェリアスは感じていた。
◆◇◆◇◆
「それにしても、下らねーショーって感じだったよなぁ。今日の試験」
日は完全に沈んで夜となり、カオス達は宿に戻っていた。そのテラスで、今日の試験を突破したカオスとルナは適当に話していた。
下らないショー。その言葉を聞いて、ルナはクスッと笑う。カオスからその言葉が出てくるとは思わなかったのだ。
「何言ってるんだか。アンタ、何だかんだ言ってノリノリだったじゃないの」
開会式では観客に手を振って、投げキッスをした。アレックスとの試合も、遊び心満点の試合をやっていた。明日のカード紹介の時はだらしなくしていたけど、退場する時はやっぱりおちゃらけていた。それらのカオスは、ルナにとっては水を得た魚のようにしか見えなかった。
しかし、カオスは手を横に振る。
「いやいや、あれはだな。踊る阿呆に、見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損、損、という高名な思想に基づいて」
「それ、絶対に違うと思う」
「そうか?」
「ま、いいわ」
とは言え、それはどうでもいい。カオスとルナ、どちらにとってもそれは話のマクラでしかない。その為、さっさと話を変える。
「それより、明日はどう? 自信はある?」
「さぁな。あのクロードとかいう奴が、どれ程の実力を隠し持っているのかさっぱり分かんねーからな。何とも言えねぇ」
自信があるとは言わない。全くない訳ではないが。ただ、試合というのは相手によってその結果は変わるものなので、どの程度実力をつければ絶対に勝てるという保証はない。相性もある。そう知っているからだ。
見栄も張らない。そうするメリットも何もないと分かっているからだ。
カオスは話を切り返す。
「それより自分の心配しろよ。お前の相手の、アッシュとか言う奴がどんな奴なのか知らねーけどよ」
知らない。それはルナも同じだった。
「今日の試合じゃ、イマイチ良く分からなかったのよねぇ」
「今日の試合見てないから、さっぱり分からねーし」
真面目になっているルナの後ろで、カオスがふざける。
ルナは自分の試合の後に、急いで控え室に戻ってアッシュの試合を観た。だが、それでも分からなかったのだ。アッシュは対クライドの試合で実力をキッチリ見せたとは思えなかった。なぜなら、その体をすっぽり覆っているフードが取れることすらなかったからだ。
一方、カオスはその観もしなかった。ルナの対戦相手のアッシュが戦ってる時は、控え室に居なかった。そして、自分の対戦相手のクロードの戦いは、自分の移動時間中にケリがついてしまった。クロードに関しては、仮に急いでその試合を観たとしても、そんな短時間で終わってしまうような試合では、そのアッシュのように何の参考にもならなかっただろう。
過程はどうであれ、カオスもルナも対戦相手のことは何も分からない。それは一緒だった。だから、二人が明日の試合でやるべきことも一緒であるとルナは知る。
「ま、何にしてもお互いベストを尽くすだけよね。って、人の話聞きなさいよ!」
カオスは既に別の方向を向いていた。近くの陰にサラとアメリアを見つけ、手を振っていた。カオスに気付かれた二人は、その招きに応じて物陰から出て来た。
「いえ、お邪魔虫かと思ってね」
アメリアは笑う。
「別に聞かれてまずいような話はしてねーよ」
そう言うカオスに、サラは訊ねる。
「どんな話をしていたんだ?」
「話?」
そう訊くサラに、カオスは答える。
「魔法なんかを使わずに、鼻くそをどれだけの距離飛ばせるのか議論してたんだ」
不正直に。
「って、そんな話するわけないでしょ! むしろ、そんな汚い話をしたら殴るわよ?」
そのカオスのデタラメな答に、ルナは激昂する。大不満だったのだ。そのような下らない話をするような人間だとは思われたくなかったのだ。
だが、勿論サラもアメリアもそんなことは知っている。ルナが否定しなくても、カオスの話がデタラメだとは分かっているのだ。
「で、何か用でもあったのか?」
そのカオスは話を変える。
「ああ。トランプでもするかと思ってね」
「いいぜ。やるか」
「そうね」
そうして、カオス達の夜は更けていった。明日はトラベル・パスBクラス試験の最終選考となる戦いがカオスとルナには控えていたのだが、特別なことは何もしない。元々カオスもルナもその試験に合格する事を目標とはしていないし、そんな一夜漬け的なものに意味はないと考えていた。負けたら、それはそれでいいのだ。
その程度のものだったので、特にこれといって緊張もなく、リラックスした気持ちのまま過ごせていた。
そこにマリア、リニア、アリステルが加わって楽しい夜となっていく。どうでもいいだろうが、そこにアレックスはいない。カオスにやられたアレックスは、一応大事をとって、明日までは一人で病院の中での様子見なのだった。
◆◇◆◇◆
「ちくしょう!」
夜、アレックスは突如そう叫んだ。また何か、楽しそうなことに自分だけは入れなかった気がしてならなかったのだ。