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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter5:トラベル・パスBランク試験
111/183

Connect13:初戦アフター~アレックスが思い知る現実~

☆対戦組み合わせ☆

 一回戦

 1:× ジェイク・D        vs Dr.ラークレイ        ◯

 2:× ナイヤ・ソヴィンスカヤ  vs リスティア・フォースリーゼ ◯

 3:× ケヴィン・アノス     vs ルナ・カーマイン      〇

 4:〇 アッシュ         vs クライド          ×

 5:〇 オーディン・サスグェール vs ベス            ×

 6:〇 デオドラント・マスク   vs コルラ・モルコーネ     ×

 7:〇 クロード・ユンハース   vs ガイル           ×

 8:× アレックス・バーント   vs カオス・ハーティリー    〇


 二回戦<Bランク試験合格決定戦>

 9:  Dr.ラークレイ       vs リスティア・フォースリーゼ

10:  ルナ・カーマイン     vs アッシュ

11:  オーディン・サスグェール vs デオドラント・マスク

12:  クロード・ユンハース   vs カオス・ハーティリー

 鳥が静かに飛んでいく。白い雲はゆっくりと流れてゆく。

 静寂、首都アレクサンドリア郊外では、そんな首都内部の喧騒とは無縁の場所があった。

 白き天井、ファンが静かにゆっくりと回る。最初はおぼろげに、しだいにハッキリとし始めた視界を確かめながら、アレックスは起き上がった。

 白い天井、白い壁、そしてベッド。病室内特有の静けさがアレックスを包んでいた。そんなアレックスの様子を見守っていた者が、横から声をかける。リニアだ。


「気が付いたか?」

「リニア先生」


 アレックスはその声、リニアの方を向く。

 今の自分と、途切れる記憶の前の自分では隔たりがあった。だが、この現状からアレックスはその隔たりの意味を悟る。


「俺は、負けたんですか?」


 打ち負かされ、気絶して、その末にこの病院まで運ばれた。そういう結末だ。

 リニアは頷く。


「ああ。ごく、あっさりとな」


 リニアはそのように言いながら、椅子から立ち上がる。残酷なようだが、それが現実だ。


「ちくしょう」


 アレックスは口惜しく思う。

 記憶の最後に残っているのは、カオスの拳一つ。つまり、自分はその1撃によって気を失ったことになる。それすなわち、それだけ差があるという訳だ。


「カオスの奴、あんな力が出せるのに、最初は手を抜いて馬鹿にしやがって」


 実力差があって負けるのならば、それはそれで仕方ない。カオスの才能に、まだ自分の努力が至らなかっただけなのだと思っただろう。だが、最初にカオスが自分に合わせるように手を抜いていたのが気に食わなかった。それならば、最初の1発でやられた方が良かったようにも思えたが。

 そう思うアレックスに、リニアは溜め息をつく。アレックスは甘いと。


「アレックス・バーント、お前は一つ勘違いをしている」

「え?」


 アレックスは目を丸くする。アレックスには何だか分かっていなかった。


「お前が試合の最後に1発食らって、その結果気絶したカオスのパンチだが、あれもまたあやつの本気ではない」


 手加減したパンチなのだとリニアは言う。つまり、手加減したパンチ一つでアレックスは負けたのであって、カオスは最初から最後まで本気を一切出さなかったことになる。


「な、なななな」


 アレックスは勘違いしていた。最後のパンチは、カオスの本気だと思っていたのだ。手を抜いて自分に合わせた戦いをしていたのだが、カオスが本気を出した途端に、自分はその1撃でやられてしまった。そのように思っていたのだ。

 アレックスは狼狽する。


「嘘?」

「を言ってどうする?」


 教師として、ここで気休めを言っても生徒の為にはならないとリニアは考えていた。アレックスは未熟なのだ。それを成長させる為には、ここで厳しくしなければならない。


「カオスがお前との戦いに本気を出さなかった理由は一つ。それは馬鹿にしてる訳でも、笑い者にする為でもない。ただ単に、カオスが本気を出して戦えば、お前が死ぬからだ」


 双方の本気を受け止められる土台があって、そこで初めて真剣勝負というものは成立する。だが、アレックスにはそのカオスの本気を受け止められるだけの度量はない。本気を出さないのが馬鹿にしていると言うならば、馬鹿にされても仕方ない程度のものしか持っていない。

 リニアは続ける。


「試合前、お前はカオスに『真剣勝負だから、絶対に手を抜くな』と言っていたが、今のお前にはそのような台詞を言う資格はない。そのレベルに達していない。それは覚えておけ」

「…………」


 リニアの言葉が本当かどうか、アレックスには分からなかった。教師でもあり、騎士の資格も持っている者の言葉に偽りはないとは思うが、それでも何処かしら疑っていたい自分がいた。

 ただ、それがどちらにしても、敗れて満身創痍状態の自分に比べ、勝ったカオスは息一つ切らさず、汗もかかない余裕の状態であったと記憶している。それ相応の実力の差があるのは、否定しようのない事実だ。

 つまり、カオスに完敗してしまったのだ。


「リニア先生」


 アレックスはうな垂れる。


「何だ?」

「どんなに努力しても、才能のある奴には勝てないのですか? 努力なんかしなくても、才能のある奴はそれだけで凄くなれるものなんですか?」

「何馬鹿を言っている? どのような才能にしろ、努力なしに開花する才能などないぞ」

「で、でも、俺はあんなに努力したのに!」


 カオスの何倍も努力を重ねて、この試験に臨んできた。この試合で、努力に勝る才能はないと見せ付けてやろうと思っていた。しかし、その結果は自分の惨敗であった。努力では才能には勝てないと返り討ちにあってしまったのだ。

 そのアレックスの言葉に、リニアは溜め息をつく。少々呆れていた。まだまだ甘いのだ。と言うよりも、友人のくせにカオスのことをちっとも分かっていない。呆れたくもなる。

 リニアは分かっている。カオスに比べてアレックスに才能が足らないだけでなく、努力も足らないと。


「言っておくが、学院の授業や補習でやったこと、課したことをこなした程度では、努力をしたとは言えないぞ。相対的にな」

「え?」

「カオスは、ルナと共にそれ以上の鍛錬をこの試験以前から積み重ねてきていた。例えば、私は毎日3km走るように課してきたが、カオスは10km走っている。マリアの走るペースでな」

「…………」


 アレックスは絶句する。カオスはトレーニングの類を一切していないものだと思い込んでいたのだ。


「筋力トレーニングや魔法鍛錬、組み手等も含めて、カオスの重ねてきた鍛錬は、どれも学院でするそれを大きく凌駕するものとなっている。だからカオスとルナ、二人がこの試験に向けた補習に出なくても良かったのは、放っておかれた訳でも何でもない。あの二人、特にカオスに関してはあの程度の鍛錬ではやっても意味がないからだ」


 それだからこそ、カオスとルナはマリアに任せ、学院での補習を遥かに上回るコースを受けさせることに同意したのだ。それを受けた人間に努力で勝とうとするならば、それ以上の鍛錬を積んだ上で、それをきっちりと身につけなければならない。

 リニアは言う。


「それに満たない努力では、相対的に言って努力した内に入らない。アレックス、お前はカオスと比べて才能だけでなく、努力も足らない。だから今回の結果、敗戦は、必然の結果だったんだよ」


 そう締めくくり、リニアは静かに病室から去っていく。後は、アレックス自身が変わろうと決意し、行動に移さなければならないことだ。


「…………」


 リニアが去り、アレックス一人になった病室は、音一つない静けさに包まれていた。

 アレックスはショックを受けていた。カオスが努力をしているとは夢にも思わなかったからだ。ルナは真面目にトレーニングを積み、カオスはその近くでだらけているだけかと思っていたのだ。だがリニアの言う通り、真面目が服を着て歩いているようなルナのトレーニングを、カオスが共にやっていたのだとしたら……

 リニアの言う通り、努力も足らないこととなる。にわかには信じられないが、自身の努力をカオスは話さない性格だというのを、アレックスは嫌という程に知っていた。思い返してみればここ数ヶ月、今までカオスにトレーニングをするよう口を酸っぱくしていたルナが、そう言わなくなっていた。つまりはそういうことなのだ。リニアの言葉は、紛れもない事実なのだ。

 それすなわち、自分は何もかもカオスに敗れていたのだ。才能も、努力も、何もかも全て。

 それを周りは知っていた。ルナやリスティア、コルラなんかも気付いていた。それなのに、自分だけが自信満々に胸を張っている大馬鹿、みっともないピエロだった。


「ちくしょう!」


 アレックスは悔しがる。カオスでも、誰に対してでもない。自分の未熟さ、愚かさに。

 だから、変わろうと決意する。努力を積み重ねていって、いつかはカオスと肩を並べられるようになろうと力を注いでいこうと誓うのだ。

 その悔しがる声、決意の声。

 病室の外、リニアはそのアレックスの声を耳に入れて、安心したような表情で試験会場の方に戻っていった。

 アレックスは大丈夫。結果としてカオスと肩を並べられようになるかどうかは分からない。分からないけれど、例えそれが叶わなくても、アレックスは明日歩むべき道を違えたりはしないだろう。

 それがリニアには見えていた。

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