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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter5:トラベル・パスBランク試験
110/183

Act.093:初戦ⅩⅢ~アレックス・バーント vs カオス・ハーティリー(後編)~

☆対戦組み合わせ☆

 一回戦

 1:× ジェイク・D        vs Dr.ラークレイ        ◯

 2:× ナイヤ・ソヴィンスカヤ  vs リスティア・フォースリーゼ ◯

 3:× ケヴィン・アノス     vs ルナ・カーマイン      〇

 4:〇 アッシュ         vs クライド          ×

 5:〇 オーディン・サスグェール vs ベス            ×

 6:〇 デオドラント・マスク   vs コルラ・モルコーネ     ×

 7:〇 クロード・ユンハース   vs ガイル           ×

 8:  アレックス・バーント   vs カオス・ハーティリー

「じゃ、そろそろ勝たせてもらうぞ」

「ぐっ!」


 まずい。まずい。まずい!

 アレックスは後がないと気付いていた。拳と拳の戦いで敵わず、魔法での対決に切り替えた。だが、それすら簡単にあしらわれた。智謀を巡らせた戦いはカオスの18番で、やろうとしても駄目だろう。

 要するに、アレックスにとっては絶体絶命だ。


「くそ!」


 こうなってしまったら、もう残りはただ一つ。

 アレックスの頭には最終手段、必殺技が浮かんでいた。本戦とは言え、初戦でそれを使ってしまうのは、彼としては非常に不本意だったけれど、他にどうしようもなかったのだ。


「はああああああああっ!」


 アレックスは両手を広げ、魔力を充溢させ始める。全身に力を入れ、その魔力をさらに上げていく。筋肉は膨張し、その力を誇示せんとする。そしてそれが、これから出そうとしているのが、彼にとってはとっておきのものであると語る。


「くおおおおおおおおっ!」


 膨らんだ魔力を纏った両手を、その魔力が失われないようにゆっくりと前方へと向ける。その両手を併せて、その魔力も一緒にさせる。

 放出系魔法か。

 カオスはその動きからアレックスの繰り出す魔法の系統を読み取っていた。読み取りながら、本戦前に係員が行った試合とリングについての説明を思い出していた。

 それは、このリング上でどのような戦いを繰り広げても観客の安全は守られるという内容。観客席と会場の間には、壁状の透明な結界が張られてある。それがどのような魔法攻撃も吸収し、どのような物理攻撃もはじき返すのだ。だから、観客は気にせずに戦って構わない。そのように係員は言っていた。

 その為、ここでアレックスの必殺技を避けても構わない。それは分かっていた。だが、その方法を選択しないカオスが、そこにいた。

 アレックスは近くに住んでいる。だから、そのようなセコイ勝ち方をしたら、それこそ一生グチグチ鬱陶しく言われ続ける可能性がある。それは嫌だ。ならば、それを却下して、完膚なきまでに圧勝すればいい。避けても問題ないが、避けなくても問題はなさそうだ。

 カオスはそう踏んでいた。その頃になると、やっとアレックスの必殺技の準備が整うようになった。


「いくぜ、カオースッ!」


 力の籠もった手のひらを向け、アレックスは叫ぶ。気合い十分だ。


「はいはい。来るがいいさ」


 手に少し力を入れるが、カオスは叫ばない。気合いは全く入っていない。

 そのカオスの様子はいつも通り。珍しくも何ともない。ただ、アレックスがこれから繰り出す技を避けるつもりが全くないのは、アレックスにも気付いていた。

 それで、ニヤッと笑う。力と力の純粋な勝負、それこそがアレックスの望んでいた勝負だった。


「食らえぇええええっ!」


 そして、放出。


「アレックス・ジオザーマル・キャノーンッ!!」


 その叫びと共に、アレックスの手のひらからカオスに向けて熱光線が発射される。地熱を模したエネルギー波だ。それは一直線に、カオスにダメージを与えようと襲い掛かる。

 今までの攻撃よりは、少しはマシかな?

 そうは思ったけれど、カオスはそれよりもその技の名前がダサいなぁと思って、気になっていたのだ。どうでもいいけれど。

 そんなアレックスの必殺技が、カオスに襲い掛かる。地熱を模したエネルギー波が、一直線に襲い掛かる。

 それを見て、カオスは動かない。そのエネルギー波の攻撃範囲から動こうとしない。その動きから、玄人から素人に至るまで観ている者全て、カオスはその技を回避する気さえないと理解した。


「避けないつもりね」


 避けてしまえば、楽にこの試合を終わらせられる。それにも関わらず、そのような面倒をカオスがする理由は分からない。だが、それでもカオスが負ける気はしないでいた。その攻撃が、例えカオスに当たっても。

 攻撃がカオスに当たる。それを確信したアレックスは、一人喜びの表情を見せた。


「よっしゃ! 当たった!」


 俺の勝ちだ!

 アレックスは確信し、有頂天になった。だが、そうはいかない。

 カオスはアレックスのエネルギー波が目の前に来ると、そこで素早く右手に魔力を充溢させた。そうしながら、そこで拳を作る。


「はぁぁぁぁぁぁぁ」


 しっかり腰を落とすと、その拳をアッパーにしてアレックスのエネルギー波にぶつけた。

 ドカン。拳とエネルギー波はぶつかりあう。そこで双方の押し合いによる攻防が始まるのが常だが、それは起こらない。カオスの拳によって、アレックスのエネルギー波はあっさりと上空へと飛ばされる。そして、消えていった。

 その様を、アレックスは茫然自失の表情で見ていた。


「な……」


 アレックスはショックで、声も出せない。

 これは自分にとって最強の攻撃である。当たれば、それで勝利を手に出来ると信じて疑わなかった。だが、そうはいかなかった。カオスはそれを、たった1発殴っただけで捌いたのだ。

 それすなわち、アレックスの渾身の一撃よりもカオスのパンチ一発の方が優れているとなる。

 その事実が、アレックスに多大なショックを与えていた。


『今のはアレックス選手、渾身の一撃でしたよね?』


 魔力の増減等はサッパリ分からないが、素人である実況アナウンサーにもアレックスが満身創痍であること、カオスが余裕綽綽であることは分かっていた。

 それは間違っていない。素人ではない解説のデケムは頷く。


『ええ。もう、彼には余力はほとんど残されていません。さっきの一撃に殆ど全ての魔力を使い果たしてしまったようです』

『そ、それを、どうしてパンチ一つだけで?』


 そんな攻撃ならば、それ相応のもので対応しない限りどうしようもない。そのように彼は思っていた。だからこそ、そこには何らかのカラクリがあるのではないかと思っていたのだが。

 そこに特別なカラクリはないと解説のデケムは言う。


『難しいものは何も無いですよ。ただ単に、それ程にまで実力差があるだけです。同学年ではありますが、カオス選手にとってみれば、アレックス選手のレベルはお話にならないレベルでしかないのでしょう』

『うわぁ、それはキッツイですね』

『でも、そういう世界ですから』


 二人の試合を、報道連中はそのように報道していた。

 一方、観客席でマリアはずっと満面の微笑みのままに観戦していた。アレックスを敵視していない事は隣のリニアにも分かっていたが、どちらかの味方かと問われれば、マリアは即答でカオスと答える事は分かっていた。カオスとの対比が誰であっても。

 教師としては、呆れるべきだろう。注意を促すべきところだろう。だが、それがマリアなのだから仕方ない。教師である前に過保護な姉なのだ。

 リニアは諦めていた。諦め、試合中のリングの方に視点を戻す。そこでは、カオスとアレックスが対峙し続けていた。その試合の行く末は、既に誰の目にも明らかではあるが。


「ふぅ」


 圧倒的に優勢な立場のカオスは溜め息をつく。クソ真面目なアレックスの性格からすれば、もっとやるかと思っていたのだが、結果は予想以上の期待外れだった。ガッカリである。


「出し物はもう、終わりか? じゃ、そろそろ俺が勝たせてもらうぞ」


 カオスは自分の勝ちを宣告する。


「打つ手、なしだな。チェックメイトだ」


 クロードはモニターを観ながらつまらなそうに言い捨てる。この試合、カオスが勝つのは分かっていたし、対戦する明日も楽しみにしていた。その理由もあってか、この試合で何かしら実力の片鱗でも見せてくれたら良いと思っていたのだが、それは叶わなかった。実力の欠片も見せない、手抜き全開モードのままで終わろうとしていた。

 そして、アレックスにはもう打つ手はない。それはクロードだけでなく、誰の目にも明らかであった。


「く、く、くくくく」


 アレックスも感じる。その上で、その絶望感にさいなまれていた。

 体術で敵わない。魔法でも敵わない。戦術でも敵わない。体力も魔力も大きく減ってしまった。自分がカオスに対して勝っている部分で攻めればいいのだが、その部分を見付けることが出来なかったのだ。

 参りました。

 そう言えば済むが、それは男として出来ないとアレックスは考えていた。


「くっそーーーーっ!」


 アレックスは最後の力を全身に乗せて、カオスに向かって突っ込んでいく。突撃だ。


「うおおおおおおおお!」


 その様を、カオスは冷静な目で見ていた。ゆっくりと右の拳を引きながら、左手でアレックスの捨て身の攻撃をあっさりと捌く。その直後に、引いていた右の拳をアレックスにお見舞いするのだ。

 右の拳。

 その試合、アレックスが最後に見たのはそんなカオスの拳であった。


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