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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter5:トラベル・パスBランク試験
109/183

Act.092:初戦ⅩⅡ~アレックス・バーント vs カオス・ハーティリー(前編)~

☆対戦組み合わせ☆

 一回戦

 1:× ジェイク・D        vs Dr.ラークレイ        ◯

 2:× ナイヤ・ソヴィンスカヤ  vs リスティア・フォースリーゼ ◯

 3:× ケヴィン・アノス     vs ルナ・カーマイン      〇

 4:〇 アッシュ         vs クライド          ×

 5:〇 オーディン・サスグェール vs ベス            ×

 6:〇 デオドラント・マスク   vs コルラ・モルコーネ     ×

 7:〇 クロード・ユンハース   vs ガイル           ×

 8:  アレックス・バーント   vs カオス・ハーティリー

 カオスとアレックスの試合が始まった。審判の合図と共に大きな歓声が上がったが、観客はすぐに試合へ集中しようと静かになる。その為、大きな歓声の後には水を打ったような静けさがやって来た。

 その中、カオスとアレックスは互いに視線を交わすだけ。すぐには動かなかった。カオスは動かず、自然体なままでアレックスの様子を観察。アレックスは前後左右に少しずつ動きながら、カオスの隙を探そうとしていた。

 見付かりはしなかったが。もとい、アレックスは見付けられるような観察眼を持ち合わせてはいなかったのだが。

 カオスは軽く溜め息一つ。


「どうした、アレックス? かかってこいよ。リングの上で、暇な熊みてーにウロチョロしてたってしょーがねぇだろ?」

「ハッ、上等!」


 勿論アレックスとて、こんな場所にただウロチョロする為にやって来たのではない。戦いに来たのだ。アレックスはすぐに臨戦態勢になり、素早く構えを取る。そして強く地を蹴り、カオスへとかかってゆく。


「うらぁああああっ!」


 アレックスはカオスへと向かう。適当な間合いで体を翻しながらの肘打ちだ。

 その動きを、カオスは冷静に見定めていた。素早くアレックスの肘の流れを変え、威力を殺す。そこから隙が生まれたアレックスの横腹へ、カオスは膝蹴りを繰り出す。

 が、それはアレックスも読んでいた。アレックスは、左手のひらで防いだ。痺れるような衝撃がアレックスの手を襲ったが、それを忘れるようにアレックスはその手で拳を繰り出す。

 カオスはそれをあしらい、そこからまた反撃する。カオス対アレックスの試合は、そんな拳と拳の肉弾戦から始まった。


「…………」


 その試合の様子を、1回戦を突破したDr.ラークレイも見守っていた。が、戦いぶりを見ながら首を傾げていた。疑問に思っていたのだ。

 カオス・ハーティリー、新人でありながら予選終了時の評価がAで興味を持って見ていたが、この程度の実力しかないのか?

 今の動き等では、A評価に値しないと思っていた。あれならば、自身が倒したジェイク・Dの方が強いようにも思えていた。だが、そのDr.ラークレイは気付いていない。戦ってる本人のアレックスも気付いていない。最初にカオスは、アレックスの動きに合わせていたのだが、徐々にその動きにスピードやキレを増していることに。

 数十秒後、アレックスの胴へカオスの拳が入る。顎にアッパーが入り、アレックスは後方に傾く。その隙を逃さず、カオスはアレックスの腹部に蹴りを入れ、大きく吹っ飛ばす。


「ぐああああっ!」


 アレックスは受身もロクにとれず、リング上に背中を強打する。だが、ダウンまではしない。背中と腹部に残る痛みに耐えながらも、カウントを取られる前にアレックスは立ち上がる。


「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ!」


 アレックスの息は切れ、表情は驚愕に満ちていた。額の汗を拭いながら、信じられないものを見るような目でカオスを見ていた。

 強い。

 対戦してみて、アレックスは思い知らされる。自分の思っていたよりも強いとは周りから聞かされて、知っていた。油断しないようにベストを尽くそうと考えていた。そして、今尽くしている。だが、それでもこの状況だ。

 ここまで強いとは思わなかった。

 そのように驚き、戸惑っているアレックスはまだ気付いていない。カオスは自分の目の前で涼しい表情をしている。息も切らしていなければ、汗一つかいていないことに。


「…………」


 その試合の様子を控え室のルナは冷静に見定めていた。


「どうですか、2人の調子は?」


 ルナにリスティアは訊ねる。あまり二人を知らないリスティアには、まだ二人がどれ位やるのか分からなかった。ただ、漠然とカオスやルナは良い実力を持っていると感じるだけだ。

 そんなリスティアに、ルナは正直に答える。

「二人共、調子は悪くないと思う。ただ…」

 一息分置いてから、ルナは付け加える。


「アレックスとは一緒にトレーニングしてないから、正直どこまでやれるかは分からない。でも、少なくともカオスに関しては全然本気を出していない。完全な手抜きモードだね」


 ルナは言う。少しずつ動きのスピードやキレを上げはしているが、それでも本気の時の足元にも及ばない。パワーに関しては、全くと言っていい程に出していない。言ってみれば、赤子を相手しているようだと。

 その言葉をクロードはチラリと聞いて、妙に納得していた。この程度でしかない相手とは、最初から思っていなかった。おそらく、友人という事で酷い怪我をさせないように遠慮しているのだと踏んだのだ。

 その遠慮されているアレックスは、戸惑っていた。今の完全手抜きモードのカオスが本気であると思っているのだが、それでも今の体術での勝負では勝てる気がしないでいた。アレックスは思う。

 動きの点で違い過ぎる。パワーはこちらの方が上かもしれないが、そうだとしても当たらなければ意味が無い。どんどん攻めていって、体力を奪っていく手段もなくはないが、連日の遅刻の罰則でグラウンドを走らされているカオスは、結構持久力もついている筈だ。むしろ、こちらの方が先にへばってしまいそうだ。

 ならば、別の方向性で攻めるのが吉であるとアレックスは考えた。別の方向性、魔法である。


「はっ!」


 アレックスは魔力を充溢させ始める。その内に秘めていた魔力を身に纏い、力を大幅にアップさせていた。

 その様を、カオスは黙って見ていた。その隙だらけのアレックスに、攻撃をしかけても文句を言われる筋合いはないが、そうすると後々になってグチグチ言われそうな気もするのでしなかったのだ。

 その代わり、カオスはアレックスの魔力をじっくりと見定める。そのようにしながら少し驚いていた。アレックスの奴、魔法を使えたんだと。そこで、アレックスの魔法を見た経験がなかったのに気付かされた。

 そのアレックスの魔法は、カオスにとって愕きの代物だった。そう、悪い意味で。

 魔力の絶対量、強さは、とてもガッカリ。お世辞にも強いとは言えない。カオスが予選で破った、もしくは見てきた予選敗退の連中にもアレックスより強そうな者は何人もいた。だが、アレックスはここに居る。嗚呼、アレックスは本当にここまで運で来てしまったのだ。

 そのように辛辣にカオスが思っているとは露知らず、アレックスは身に纏った魔力を左手に集中し始める。そこを起点として何かしらの攻撃をするつもりなのだろう。だが、カオスは何もしない。待っている。


「…………」


 カオスは随分長い間待たされたような気がしていた。普通の時間に換算したらあっと言う間だろうが、魔法の発動時間としては長過ぎる。実戦ならば、その間に殺されている。

 アレックスの野郎、ロクにトレーニングしてねぇな。

 カオスはそのように思う。努力不足が目に見えていた。魔力そのものも強くない上、集中力すらない。前者は才能云々かもしれないが、後者に関しては努力と経験だ。そんな点からも、カオスの目にはアレックスは努力していないように映っていた。

 それはそれとして、カオスは待っている。待ってやってんだから、さっさとしろよ、この肉ダルマ、と言ってやりたい位待たされたような気がしたその時、アレックスの魔法は完成した。


「よぉし、食らえっ!」


 アレックスは左手をカオスに向かって突き出す。左手に集中された魔力は岩を具現化して、カオスに向かって襲い掛かる。直径50cm程度の岩だ。

 普通の視点からすれば、それだけでも結構凄いのかもしれない。その大きさの岩を真っ直ぐに飛ばしているのだから。当たれば、怪我くらいするだろう。

 だが魔法としてみれば、それだけでしかない。非常につまらないものだ。カオスはそう思う。

 魔力がコーティングされてるとは言え、ただ岩を具現化して飛ばしただけか。あれだけ待たせたってのにつまんねーな。

そう思いながら、カオスは左手に魔力を集中させる。その刹那、カオスの左手が黒く光る。そして、その次の瞬間にはカオスの左手にはしっかりと魔法剣が握られていた。

 速い!

 試合を見ていたDr.ラークレイは、剣の生成のスピードに舌を巻いた。アレックスの岩を創るスピードとカオスの剣を創るスピード、それを比べただけでこの試合結果はおのずと見えてしまう程の差がそこにはあった。

 そのカオスは、意図的に刃をその剣に創らなかった。斬り合いではないからだ。その剣の柄に右手を加えてしっかりと握り、腰を落としてしっかりと踏み込む。


「4番ピッチャー、カオス・ハーティリー」


 グリップをしっかり握って脇を締めてバット、もとい剣を振り抜く。野球ボールよりも格段に大きな岩にはジャストミートし、カオスはその岩を上空に向けて打ち返す。魔力が籠められているのか、その大きな岩は大きく飛んでいった。


「打ちました。これは大きい、これは大きい! 外野、見送った!」


 おふざけモード全開のカオスは、自分で実況しながらホームランバッターがするそれのように魔法剣を投げ捨てる。投げ捨てられたそれは、カオスからの魔力の供給を失ってその姿を消した。

 それには目もくれず、カオスは飛んで行った岩を見送りながらアレックスの周りをひし形状に軽く走り出す。きちんとファースト、セカンド、サード、ホームの順にベースを踏まなければアウトになるからだ。そうしながら、アレックスの岩が上空に姿を消して見えなくなって、ホームランを宣告する。


「ホームラン♪」


 ダイヤモンド(擬似)を回っていたカオスは、ホームランを打ったバッターのそれのように両手をあげておどけてみせる。すぐにホーム(擬似)に戻って、1点だ。野球の試合ではないので、それはないが。

 そんな小芝居が終わり、カオスはアレックスの方に向き直る。その馬鹿馬鹿しい小芝居と、簡単に打ち返されたショックで、アレックスは茫然自失していたが、ホーム(擬似)に戻ったカオスを見て気を取り直す。

 アレックスは魔力の籠もった右手を岩の消えていった上空に向けて掲げる。そして、その右手を引いたり伸ばしたりしてみせた。


「何やってんだ、アレックス? UFOでも呼んでるのか?」


 カオスは訊ねる。アレックスからしてみれば何かしらの意味があるのだろうが、カオスには怪しい踊りにしか見えなかった。きっと何らかの儀式なのだろう。恐らくマッチョ教団的な。

 そんなカオスに、アレックスは焦り気味で、そして少々苛立ち気味に答える。


「そんなもの呼んでない! ただ、あの岩には俺の魔力が籠められてるから、こうすればコントロールも出来るんだよ! て言うか、ちっとも戻ってこねーしぃっ!」


 アレックスの岩は上空彼方に消えていった。カオスの魔法剣も、手を離れればすぐに消える運命となる。飛ばした岩と魔法剣が同じとはカオスも思っていないが、魔法で創られた物が創造主の支配下を離れればその運命は同じとは思っていた。

 だから……


「もう、手遅れじゃねぇか?」

「!」


 アレックスは上空に右手を掲げたまま固まった。

 焦っていて忘れていたのだが、カオスの言う通りだった。アレックスの魔法の岩のコントロール可能範囲は10m。それ以上は、アレックスの動きを指示する魔力を飛ばせない。岩は上空に向かって消えた。もう、影も形もないだろう。

確かに、手遅れだ。


「ふう」


 カオスは溜め息をつく。飽きてきたのだ。これ以上続けても、面白くはなりそうにないと知った。

 なので淡々と、しかし無慈悲に告げる。


「じゃ、そろそろ勝たせてもらうぞ」


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