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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter5:トラベル・パスBランク試験
105/183

Act.088:初戦Ⅷ~カオス劇場⑦~

☆対戦組み合わせ☆

 一回戦

 1:× ジェイク・D        vs Dr.ラークレイ        ◯

 2:× ナイヤ・ソヴィンスカヤ  vs リスティア・フォースリーゼ ◯

 3:× ケヴィン・アノス     vs ルナ・カーマイン      〇

 4:  アッシュ         vs クライド

 5:  オーディン・サスグェール vs ベス

 6:  デオドラント・マスク   vs コルラ・モルコーネ

 7:  クロード・ユンハース   vs ガイル

 8:  アレックス・バーント   vs カオス・ハーティリー


 二回戦<Bランク試験合格決定戦>

 9:  Dr.ラークレイ       vs リスティア・フォースリーゼ

10:  ルナ・カーマイン     vs ?

11:  ?            vs ?

12:  ?            vs ?

「こいつで終わらせるとするか。クルーエル・ハンズ」


 カオスの左手の周りには、黒い炎のようなものが宿った。それは禍々しく、不気味なもののように見えた。それが、どのようにグレン(偽)を葬ろうとするのかは他所からはまだ見えない。

 闇魔法に触れたことそのものが非常に少なかったマリフェリアスにとって、カオスのその技はどういうものか分からないものだった。


「アレはどういう魔法なの?」


 マリフェリアスは隣のアリステルに訊ねる。だが、アリステルは詳しい説明はしない。


「まあ、見ておれば分かる」


 百聞は一見にしかず、である。今ここで色々な言葉を用いて説明しなくても、カオスがそれを実践という形で見せてくれる。ならば、ここで説明する必要はないし、それを見た方が分かりやすいのだ。


「それもそうか」


 マリフェリアスは納得して、再びカオスの方に視線を向けた。



◆◇◆◇◆



「!」


 そのカオスに向かい、気合いを入れたかのようにグレン(偽)は攻撃を仕掛けた。魔法、魔法、魔法、魔法。遠距離からの猛攻撃だ。それはこれまでにないレベルの激しさだった。

 右、左、右、左、グレン(偽)はさらに魔法を放っていく。が、その攻撃をカオスは全て回避していた。カオスとグレン(偽)の距離は、まだ相当離れている。グレン(偽)がカオスの左手による攻撃を食らう距離でもないが、それと同時にカオスがグレン(偽)の攻撃を食らう距離でもなかった。


「考えた?」


 その様を見て、マリフェリアスは一瞬そのように思った。グレン(偽)は考えて、このようにやっているのではないかと。あのカオスを近寄らせたくないのではないかと。だが、それをすぐさま自分で否定する。


「いや、おそらく本能のようなものか。あのカオスを近寄らせてはならない。生物としての本能が、そのように駆り立てているのだろう。しかし」


 その策はグレン(偽)側としては良くない。なぜなら、カオスを近付かせないその攻撃も、カオスに当てられなければ勝ちはないからだ。どのような生物にも、無限の魔力というものはない。それ故、普通はどちらかが力尽きれば終わりとなる。そうなると、避けるだけの人間より魔法を放ち続けてる方が先に力尽きるのが普通。1発1発のコストを下げれば良いのだろうが、ダメージを殆ど食わない攻撃だと、肉を切らせて骨を絶つ戦法での接近を許しかねない。さっきのタフさをみる限り、カオス相手に気を抜いた攻撃では肉も切れないのは明白だった。


「終わりかな?」


 マリフェリアスはそう判断した。この戦い、カオスが勝利を収めるだろうと。カオスがどのような行動に出るか分からない。ただ、このまま避け続けるだけでも勝てるだろう。そのように思っていた。

 そうなると、戦いは少々長引く。だが、そのようにはならなかった。戦いはすぐに終わる。


「ハッ」


 カオスはグレン(偽)の攻撃を避けながら笑う。勝ちは見えたのだ。グレン(偽)のやることは穴だらけ。隙だらけだ。

 俺を近付かせない、か。それはそれで良い手法だろう。魔力がそうやって無限に続くのであれば。なおかつ、ここが首都アレクサンドリアの内部であれば。その二つの条件を兼ね揃えなければ、この作戦は功を奏さない。

 無限の魔力はありえない。どのような生物にも、魔力の限界というものは存在する。そして、ここは首都アレクサンドリアの内部ではない。少し離れた砂漠地帯である。後者の条件を満たさなかったので、この戦いはすぐに終わらせることが出来る。

 カオスは企み、即実行に移す。

 グレン(偽)の攻撃による爆発の中を、カオスは攻撃を回避しながらグレン(偽)の位置を探る。魔力の波長、攻撃の方向、視覚、それらを駆使してグレン(偽)の位置を捕捉するのに成功した。


「あそこか」


 カオスはグレン(偽)の位置を正確に把握すると、左手のとは別に魔力を充溢させ始めた。そして、それを素早く発動させる。

 発動させた魔法は瞬間移動魔法(インスタンテ)

 終わりだ、馬鹿め……

 カオスは笑う。笑って、消える。


「消えた? いや」


 マリフェリアスはその発動を察知する。

 今カオスが発動させたのは瞬間移動魔法(インスタンテ)、それは一体何を意味するのか? 瞬間移動魔法(インスタンテ)には旅の補助魔法としての効能しかない。戦闘中に関して言えば、逃亡程度にしか使い道はない。

 カオスが圧している現在、ここで逃げるという選択肢は普通ありえない。

 一瞬、マリフェリアスはそのように思考を繰り広げたが、それはカオスの瞬間移動魔法(インスタンテ)の終着地の判明で明らかになる。

 終着地、それはグレン(偽)の背後であった。グレン(偽)の、すぐ後ろにカオスは現れた。


「そ、そうか! 近距離で使えば!」


 基本的に行った経験の無い場所には行けないのが瞬間移動魔法(インスタンテ)。ただ、その理由は行き先の明確なイメージを術者が持てないからである。逆に言うと、行ったことが無い場所でも、明確なイメージさえ持てれば行けるということである。今回はその事例。


「消えろ」


 せっかく取ったグレン(偽)の背後。隙だらけの背中。そのチャンスをカオスが逃す筈がない。カオスは黒い焔を纏った左の手刀をグレン(偽)に振り翳す。

 避ける間も無く、それはグレン(偽)に当たる。



 ボッ。



 鈍い音が、辺りに響き渡る。その音と共に、カオスの手刀の軌道に沿って、グレン(偽)の上半身と下半身が真っ二つに分断されているのが目に見えた。辺りの肉と骨は砕け、粉々となって散ってゆく。

 グレン(偽)は、その形状を保ち続けていられなくなっていた。元の無機質な姿に戻され、その動きを失う。即死であった。


「成程」


 マリフェリアスはそれを見て納得した。どのような技なのか理解したのだ。

 カオスはその魔力を左手に集中させて、攻撃力を倍増させた。より多くの魔力を左手に集中させるだけでなく、その攻撃をショートレンジに徹して、魔力の一極集中化を図り、かつその攻撃力を莫大なものとしたのだ。

 その効果は見ての通り。グレン(偽)の体は、手刀一撃によって難なく切り裂かれた。正に、それはカオスにとっての『必殺』技であろう。こういう技は、使い手によって威力の差が激しいものである。だが、それをカオスはここまで昇華させてきた。もしカオスと戦うのならば、この技は非常に警戒しなければならないものの一つとなるだろう。


「まあ、それはそれとして」


 良くここまで鍛え上げてきたものだ。非常にストイックに鍛錬を積み、努力を重ねてきた痕跡が見える戦いをカオスは見せてくれた。それは大いに讃えるべきだった。

 マリフェリアスはそのように思った。が、口にはしない。言葉にしない。やはり、マリフェリアスの素直じゃないところは筋金入りだった。


「よっと」


 それはそれとして、グレン(偽)をクルーエル・ハンズで葬り去ったカオスは、その上空から上手く体勢を整えながら綺麗に着地した。その着地の姿からは、疲弊感といったものは大して感じられなかった。むしろ、ある程度の余裕さえも感じられた。


「よし」


 戦いの終わったカオスは、元のカオスに戻る。


「昼飯だ」


 ハンバーガー食うぞ、とカオスは付け足す。戦いを終えたカオスは、非常識な程にいつも通りだった。そこからは、先の激闘やグレン(偽)を葬った際の破壊力までもが嘘のようだった。

 分かってはいたが、予想通りでもあったが、それでもマリフェリアスは呆れる。


「アンタ、頭にくる位リラックスしてるわね~。もう試合なのに」


 緊張でガチガチになるとは思わなかったけど。


「自然体って言ったろ? どんな時も普段通りだってな」

「ま、いいか」


 マリフェリアスはそこで終わりにする。あれこれつっこむことはあったような気はしていたが、どうでも良くなった。面倒臭くなったのだ。

 そうやって、カオス達は自然体のまま試合会場へと戻っていった。手にはしっかりとハンバーガーを持って。



◆◇◆◇◆



 その頃魔界、魔王アビス城では、密かに準備が進められていた。騒ぎを大きくしないように魔の六芒星を含む一部の部下が東奔西走し、その準備を整える。その準備が終わり、また乱れの無い水面のような静寂に戻った時、その中の二人は玉座へと向かう。

 その玉座で長い黒髪の男、ラスターは報告する。


「出発時刻となりました」

「準備は出来たかい?」


 ノエルも口を出す。部下二人のお迎えを受けて金髪の魔王、アビスは視線をゆっくりと二人に向ける。その表情は落ち着いていて感情的になっておらず、理性的な面持ちのように見えた。暴走するようには見えない。


「当然だ。出来ていない訳がなかろう」


 アビスはその表情と同じ落ち着いた口調で、そう返事をしながら立ち上がった。心は落ち着いている。だが、この時が訪れるのを16年も待っていたのだ。準備など、とうに整っている。落ち着いた素振りはしているが、逸る心を抑えるので精一杯だった。

 前回はそれで失敗した。だから、今回はその轍は踏まない。そのように細心の注意を払うのだ。

 そのアビスに、ノエルは届けられた現地の現在の状況を報告する。


「じゃあ、行こうか。ロージアはとっくに向こうに着いてるらしいからね」

「だろうな」


 アビスは驚かない。ロージアに偵察を頼んだのは他ならぬアビス自身であるし、ロージアならその位はやるだろうと信じて依頼したのだ。それが成功しているということは、アビスにとっては別に驚きでも何でもない。

 ロージアが成功している。ならば、君主たる自分がすべきこともアビスは分かっている。ロージアが作った土台をきちんと使い、今回のミッションを成功させるのみだ。


「よし。行くぞ」


 アビスはノエルとラスターに命じる。


「今度こそ前回の雪辱を晴らし、そして失ってしまったものを取り戻すのだ」


 アビスは、部下二人のみをつれて秘密裏にアビス城を出立した。目的地は人間界。それがミッションAとCの実行開始であった。

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