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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter5:トラベル・パスBランク試験
102/183

Act.085:初戦Ⅴ~ケヴィン・アノス vs ルナ・カーマイン:中編(裏番組:カオス劇場④)~

☆対戦組み合わせ☆

 一回戦

 1:× ジェイク・D        vs Dr.ラークレイ        ◯

 2:× ナイヤ・ソヴィンスカヤ  vs リスティア・フォースリーゼ ◯

 3:  ケヴィン・アノス     vs ルナ・カーマイン

 4:  アッシュ         vs クライド

 5:  オーディン・サスグェール vs ベス

 6:  デオドラント・マスク   vs コルラ・モルコーネ

 7:  クロード・ユンハース   vs ガイル

 8:  アレックス・バーント   vs カオス・ハーティリー

 カオスの戦いでの爆発。

 それと同時刻、ルナ対ケヴィンの戦いにおいても小規模なものが連続的に起こっていた。リング上のあちらこちらで、地雷の爆破のような爆発が無数起こっていた。

 その原因はケヴィン。ケヴィンが魔法によって起こしていた。腕から炎系魔法を発し、リングの上で爆発させる。右、左、右、左、交互に発しながら、ルナにダメージを与えようと発射し続ける。何度も。何度も。何度でも。


「…………」


 ルナはそれを回避し続けていた。前の爆発、後ろの爆発、左の爆発、右の爆発、器用に避け続ける。その辺りは、カオス達とのトレーニングで鍛えられていた。

 ルナは全弾回避を成功させていた。ケヴィンによる無数の火炎魔法から、一切のダメージを受けずに済んでいた。ケヴィンの攻撃はなかなか素早いものであったが、比較的正直なもので、何処かのカオスのような性格の悪さがなく、読み易かったのだ。

 それはケヴィンを少なからず動揺させた。だが、ケヴィンは手を休めない。己の魔法と魔力に自信があったからだ。そして、今更この戦い方を無かったことには出来ない。


「まだまだ! まだまだだ!」


 ケヴィンは魔法を放ち続ける。上下左右、無差別攻撃と言っても過言でない程に。先程の触れることによって爆発を起こす魔法、一定時間経てば爆発する魔法、ただの炎の放射魔法、色々と取り混ぜながらルナにダメージを与えようと放ち続ける。

 それでもルナは避ける。避ける。避け続ける。ケヴィンの動き、魔力の探知、その動き方を冷静に判断して、そこからの完全回避を成功させていた。



『ケヴィン選手、猛攻です!』


 その試合を見て、実況は語る。


『ケヴィン選手の猛攻により、ルナ選手は防戦一方となっております。このままでは大ダメージは避けられないのか?』


 一度魔法を食らってしまえば、そこで動きが鈍くなり、隙が生まれる。そこに猛攻が束となって襲い掛かってきて、それが大ダメージとなる。

 実況はそのように考えていた。そして、それは解説者も同じだった。


『このまま続くと、ルナ選手はヤバイかもしれませんね』


 ヤバイか? ヤバイだろうなぁ。あのケヴィンって奴、強そうだしなぁ。

 控え室で観ていたアレックスも、ルナが心配になっていた。だが、同じ控え室で同じように観ていたクロードとオーディン、観客席で観ているマリアとリニアはそうとは思わなかった。クロードとリニア、二人はため息をつきながら同じようなことを口にした。

 このまま続くわけがないと。


「え?」


 クロードのその言葉を聞いたアレックスの頭には、ハテナマークがいっぱい浮かんでいた。アレックスの目には、この試合の今の状況はルナの圧倒的不利にしか見えなかった。だが、クロード達は違うように見ていた。それが訳分からずにいた。


「…………」


 ルナは爆発の中を逃れながら進む。場外負けにならぬよう、円を基本としながら。そのルナの表情は、非常に落ち着いたものだった。落ち着いて、自分の成すべきことをやろうとしていた。

 そんなルナの脳裏に、この試験前の特訓時の事がチラッと浮かび上がっていた。




 特訓の休憩時、食事中に、マリアは一つ提案した。


「カオスちゃんとルナちゃん、お互いの弱点を言い合ってみましょ~」

「何だ、そりゃ?」


 カオスはエビフライを食べている。それだけ。

 一方ルナは、その言葉からマリアの真意、成そうとすることを推測する。そして、答える。


「お互いの弱点を指摘し合い、それを克服して、双方の強化をしようということですか?」

「半分正解~♪」


 マリアはルナの答えに△を与える。間違ってはいないけれど、完全な正解ではない。


「確かにそういう面もあるけれど、それだけじゃないのよぅ。相手をきちんと観察をして、どんな時でも相手をよく理解出来るようにするの~。戦いにおいて、相手を知るのは初歩中の初歩だからね~」


 例え相手が初対面であっても、そういった能力を持ち、相手の性格や戦い方を把握し、それに合わせた戦い方をすれば、自分により有利な戦いを展開出来る。そして、例え力そのものでは相手に敵わなくても、何かしらの勝機が生まれる可能性が出る場合もある。

 マリアはそう解説する。体を鍛えるのは戦いにおいて非常に大切だが、頭脳を鍛えるのも怠ってはいけない。その双方の相互作用によって、強さというものは決められる。


「では、まずはカオスちゃんから~」


 マリアはカオスに話を振る。


「って、俺からかよ?」

「そうよ~。ルナちゃんの弱点を指摘してあげて~♪」

「ルナの弱点? 弱点ねぇ。そうだなぁ」


 カオスはルナの顔をチラッと見て、腕を組みながら考える。ちょいと考えて、その答を導き出す。


「短気、だな。すぐカッカするトコ」

「短気?」

「ああ、怒りは冷静な判断力を奪っちまうからな」


 それで強大な力を出す可能性もあるだろう。ただ、それはあくまでも諸刃の刃。そのように考えた。暴走した牛も、捌ききれてしまえば恐れるに足らず。我を忘れた者もしかり。

 ルナの気が短いのは、これまでの言動からすれば一目瞭然だ。


「そうね~」


 マリアもそのカオスの意見に賛同する。


「どんなに腹が立っていても~、どこかしらクールでいられたら、自分を見失わないで済むわ~」

「クール?」


 ルナは繰り返す。そして、訊ねる。


「クールですか? マリア先生」


 って、俺が言い出したんだから、俺に訊けよ。

 カオスはそう思うけれど、ハッキリと口にはしない。面倒臭いからだ。抗議も説明も、そのどちらもが。

 そんなカオスを分かってか分からないでか、マリアはそのまま自然な様子でルナに対して解答する。


「そうね~。完全に慣れるまでは、常にそう気を付けておいた方がいいわ~」


 だから、それは俺に言わせろよ。

 カオスは思った。面倒臭いことはしたくなかったが、シメくらいは自分の手でやっておきたかったのだ。カッコイイから。


「クール」


 ルナは繰り返す。今度は疑問ではない。自分の中に噛み締めているのだ。それを噛み締め、自分の中に消化する。それが出来れば、自分はもっと強くなれるであろう。そのように感じてだった。



 クール。



 その言葉が、ケヴィンと戦闘中のルナの脳裏にも何度も繰り返されていた。その為、激しい爆炎の中でもルナは自分を見失わないでいられ続けた。

 クール、クール。

 ルナはケヴィンの猛攻を掻い潜りながら、その様子を見定める。そのルナの冷静な目に、爆炎の向こう側の魔法を放ち続けているケヴィンの姿が映った。攻撃し続けているので、真正面に向かってしまうと危険になる。だが、それを除いてしまえば、隙だらけだ。

 クール、クール、クール……

 ルナはケヴィンに気付かれないように素早く右手に魔力を充溢させる。そして、その右手に宿った炎魔法を一つ、放出系魔法にしてケヴィンに向けて放った。

 クールに!



◆◇◆◇◆



 首都アレクサンドリア外部の砂漠地帯の上空は、爆発の煙によって茶色く濁っていた。


「手応えあったぜ」


 ホワイトホールを成功させ、グレン(偽)にその技を直撃させたカオスは、その達成感に笑う。普通ならば、グレン(偽)はそれで大ダメージだ。その爆発煙の中、大怪我を負っているに違いない。


「ふふふ」


 そのカオスを見て、マリフェリアスは笑う。上空を見て、グレン(偽)の魔力を探知すれば分かる。これはグレン(偽)とグレン(本物)は同じ。こういうケースでも同じと分かったからだ。

 爆発煙は晴れていく。風と共にそれが消えていった時、カオスもそれに気付かされる。


「え?」


 カオスの目に、上空のグレン(偽)の姿が映る。


「何!」


 上空の爆発煙の中から現れたグレン(偽)の服は、爆発の影響を受けて所々切れたりほつれたりして、ボロボロになっていた。だが、肝心のその中のグレン(偽)そのものは、全く傷を負っていなかった。かすり傷も、切り傷も、どんな怪我さえも負っていない、無傷の状態だった。

 まるで爆発や技を直撃そのものがなかったかのように。


「む、無傷? んな、馬鹿な!」


 カオスには信じ難かった。技をマトモに食らって無傷、それは物理的にありえない。そのように感じていたが。

 マリフェリアスは驚きもしない。彼女の中では当然のこと。

 マリフェリアスは言う。


「そりゃ、そうだ」

「なぬ?」

「カオス、さっきのアンタの攻撃は、あくまでもグレン(偽)の魔力と技を返しただけのもの。自分の魔力で自分は傷付かない。そんなもの、一流の魔導師ならば可能。出来ること。私にしても、グレンにしてもね。だから、今のグレン(偽)も無傷という訳よ」

「きったねぇー」


 カオスは驚愕する。そして、叫ぶ。それは今まで、考えたこともなかった。

 これが可能だと言うならば、魔法によるあらゆるリスクが回避される。今のように大技を返されるしっぺ返しの類が無効になるだけでなく、放出系の魔法で自分にも危害が加わる可能性も回避される。それを身につけ、防御だけでなく攻撃においても繰り出せる手法を大幅に増やすことが可能となる。それは、戦いにおいて大きなアドバンテージ。

 という所まで考えが至ったところで、カオスは思い、洩らす。


「ああ、そりゃあいいな。いずれゲットしておこう」


 自分にもあれば、それでいい。そうしたいな、とカオスは思っていた。

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