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Double Lotus  作者: 橘塞人
Chapter5:トラベル・パスBランク試験
101/183

Act.084:初戦Ⅳ~ケヴィン・アノス vs ルナ・カーマイン:前編(裏番組:カオス劇場③)~

☆対戦組み合わせ☆

 一回戦

 1:× ジェイク・D        vs Dr.ラークレイ        ◯

 2:× ナイヤ・ソヴィンスカヤ  vs リスティア・フォースリーゼ ◯

 3:  ケヴィン・アノス     vs ルナ・カーマイン

 4:  アッシュ         vs クライド

 5:  オーディン・サスグェール vs ベス

 6:  デオドラント・マスク   vs コルラ・モルコーネ

 7:  クロード・ユンハース   vs ガイル

 8:  アレックス・バーント   vs カオス・ハーティリー

 ルナ対ケヴィンの戦いは激しさを増していた。

 それぞれの技の激突によって、二人の体が飛ばされる。ルナもケヴィンも空中で体勢を直して綺麗に着地する。ダメージの無いように。追撃を食らわないように。

 そこからすぐさま再び相手に向かって攻撃を仕掛けてゆく。それまでの一連の戦いで、ルナはケヴィンのあることを薄々感じ取っていた。

 両者は再び激突する。ルナの攻撃をケヴィンが流し、ケヴィンの反撃をルナが同じように流す。その間に、ルナの中で予想から確信へと変わってゆく。

 ルナはケヴィンの攻撃を流した後、そこから懐に飛び込んでケヴィンのみぞおちに魔力の籠もった拳を叩きつける。カウンターだ。

 カウンターは見事にヒット。ケヴィンの体は、容易に飛ばされる。飛んで、リングの上に落ちる。少々ダウンにはなったけれど、場外ではない。勝敗は決まらない。だが、その間にルナの確信は決定へと変わる。

 ルナは思う。カオスとの組み手を比較しながら。

 ケヴィンの攻撃、力は、カオスと比べて非常に軽いと。彼の攻撃はマトモに食らったところで魔力がロクに通っておらず、殆どダメージにもならないと。

 組み手、とりあえず体術のみで言えば、ルナはケヴィンに負ける気がしなかった。だが、油断はしない。それだけの実力者ならば、このような場に二年連続で出て来れる訳がない。


「くっ」


 ケヴィンは立ち上がる。口惜しそうに。

ルナによるダメージは感じ続けていたが、戦いに支障をきたす程ではない。よって、戦いは続行で。だが、ケヴィンの心は動揺していた。ルナのような女性に会ったのは初めてだった。

 戦いにおいて、力を多く必要とする前衛は男が務め、その後衛を女が務める。絶対とは言わないが、大体の構図がそうであり、ケヴィンの中でもそうであった。自分より力のある女がいないと自惚れてはいなかったが、こうして目の前に敵として現われると、やはり戸惑いは隠せなかった。


「くそっ」


 女のくせに何て重い攻撃をするんだ。

 ケヴィンは口元に垂れた血を拭う。拳と拳の戦いでは、ルナに分があった。このまま普通にやっていれば、確実にルナの勝利となる。それは、ケヴィン自身が一番良く分かっていた。自分は負けると。

 だがこんな所、1回戦なんかで負ける訳にはいかない。終わる訳にはいかない。

 その想いが、ケヴィンを再び立ち上がらせた。闘志を昂ぶらせた。

 ケヴィンは昂ぶる。その様子を、控え室のクロードとオーディンは冷静に観ていた。


「攻撃が軽い。その弱点は克服されなかったようだな、ケヴィンは」


 オーディンはバッサリと切り捨てる。


「そのようだな。まあ、ケヴィンは努力家ではあるが、後衛向きの人間だ。筋肉、力がつけづらいという部分も多いのだろう。しかし」


 クロードはモニターに映っているケヴィンの目を見る。


「しかし、奴の目は、奴の顔はまだ諦めてはいない」


 ケヴィンの魔力は充溢している。自信を喪失した者、闘志をなくした者では、そうはいかない。まだ勝つ手法があると信じ、戦い抜く気なのだ。ケヴィンの動作は、口にせずともそれを物語っている。


「何か、とっておきのものでもあるのかね?」

「だろうな」



◆◇◆◇◆



 戦いは続く。カオスとグレン(偽)の戦いも続いていた。

 グレン(偽)の魔力の籠もった膝蹴りが、カオスに炸裂する。その蹴りはカオスの顎に当たり、カオスの体を大きく後方へ吹き飛ばした。

 カオスは蹴り飛ばされる。だが、飛ばされている最中でも、グレン(偽)から視線を外さない。そのようにしている。そして、そのようにされながらも、左手に魔力を集中させる。

 すると、カオスの左手近辺が一気に闇に包まれる。


「アレか」


 何をするか、トレーニングをずっと見てきていたアリステルは、カオスがどのような技を繰り出すのか既に理解していた。そして、それは当たる。


「ダーク・マシンガン」


 アリステルが予想したとおりの技が放たれる。

 ダーク・マシンガン、カオスの放った黒い魔力が無数の小さな破片に分かれ、それが散弾銃の玉のようになって相手に襲い掛かる。

 それがグレン(偽)に向かい襲ってゆく。地面を抉り、爆発する。岩石を砕き、爆発する。辺り一面を破壊し尽くし始めた。

 その技がグレン(偽)を捉えた。かのように見えた。が、捉えたように見えたのはグレン(偽)の残像。グレン(偽)はその技から素早く回避し、逃れる。


「チッ」


 避けたか。

 手応えのなさから、カオスはグレン(偽)にノーダメージと理解した。だが、悔しがってはいられない。これで駄目だったならば、次だ。次で倒せば良い。カオスは逃れたグレン(偽)の位置を探る。

 そのグレン(偽)の位置は、カオスの真上、遥か上空だった。グレン(偽)はそこで素早く魔力を充溢させ、腕に集中させ、カオス目がけて放つ。


『ブラスト・オブ・デストラクション』


 グレンの必殺技の一つであった。それを放ったのだ。まだ戦いの序盤で。


「嘘、もうそんな技を?」


 マリフェリアスは驚いた。が、アリステルは驚かなかった。

 この戦いを始める前、マリフェリアスは魔獣の卵(改造ヴァージョン)は使う者の記憶の中の魔物の力をコピーする。ただし、それはあくまでも力や魔力だけで、知力はコピー出来ないと言った。それすなわち、知力や策謀といった点に欠けるということ。

 つまり、このグレン(偽)には知性が無いので、戦いの運び方も考えなければ、魔力の使い惜しみもしない。つまり、何をするか分かったものではないのだ。


「しまった!」


 その技の発動を見て、カオスは叫ぶ。それは間違いなく自分に当たる。技の発動後の硬直もあるので、避けるのは難しい。そして、当たれば大ダメージであろう。

 その構図が、素早くカオスの頭の中で描き出されたのだった。

 グレン(偽)による、セオリー無視の突然の必殺技。強大な魔力の奔流が、太い光の槍となってカオスを襲う。それはマリフェリアス等観客にとっても、カオスにとっても予想だにしないことであった。

 まずかったりするか?

 その戦いを仕掛けたマリフェリアスは、チラッとそのように思ったりしていた。が、それはあっさり杞憂に終わる。


「な~んてな♪」


 カオスはペロッと舌を出す。舌を出して、嘲笑する。このような突然の大技に対する対処は、既に出来上がっているのだ。問題ない。


「え?」


 そのカオスの態度に、今度はマリフェリアスが驚く番だった。カオスが無意味な演技をするのは性格通りで驚きもしなかったが、そのような対処方法がカオスにあるとは思えなかった。

 強大な光の奔流が、太い光の槍となってカオスを襲う。それは一直線に、カオス目がけて高速で突き進む。

 カオスはそれに対し、左手を真っ直ぐ横に掲げて、そこに素早く魔力を充溢させる。


「ブラックホール」


 カオスは唱える。

 すると、そこからただの魔力の塊でしかなかったカオスの充溢された左手の部分の魔力が変化を見せる。一瞬黒く変色を見せた後、それはカオスの左手を離れ、すぐ隣の空間に場所を移す。

 空間の破壊。

 カオスの左側に置かれた魔力は、そこで空間を壊して、一つの穴を穿った。光に溢れた真昼の砂漠地帯に、一点の墨を落としたかのように、そこに闇の穴を作り出したのだ。

 ブラックホール。闇の穴。全てを吸い尽くす地獄の穴。

 カオスが作り出したブラックホールは、グレン(偽)の放った必殺技を吸い込み始めた。その吸引力を利用し、グレン(偽)の技の軌道を捻じ曲げて、カオスに向けられたものからブラックホール向きへと変えて吸い込んだ。

 その闇の穴に際限は無い。グレン(偽)の放った光の槍は、全て吸い尽くされていった。


「ブラックホール? あんなのが使えたの、あの子は? 軌道曲げて吸い込んでるじゃないの」

「左様」


 アリステルは抑揚無しにそう答える。そして、それが分かっているからこそ、アリステルは心配の欠片もしなかったのだ。カオスがその技を放つのは、アリステルから見れば当たり前だった。

 アリステルは言う。


「アレは、カオスが一番ものにしておきたかった技の一つじゃ。何でも、対ガイガー戦の時に無意識に放ったものらしいがのう」




『戦いにおいて、力に対して力で向かう。それも必要だ。つか、基本だ』


 カオスは語る。


『だが、それにも限度があるし、キリもねー。大体、そればっかじゃ作戦も何もありゃしねぇ。だから、直線的な技だけじゃなくて、ああいった技もあった方が可能性が広がっていいんじゃねーかって思うんだよ』




「だそうだ」


 特訓中のカオスの言葉を引用して、アリステルはそのようにマリフェリアスに説明した。力の大小の差だけでない、多角的な戦いの出来るようにカオスは望んでいると。そして、それがカオスには合っていると。


「成程ねぇ」


 マリフェリアスは納得する。お世辞にも直情的とは言えないカオスの性格を考えれば、そのように戦っていくのが性に合っていると分かっていた。

 と、そんな説明したり納得したりしている間に、カオスのブラックホールによるグレン(偽)の技の吸収は終わろうとしていた。グレン(偽)の放った光の槍を吸収しつくし、役目を終えたブラックホールはその姿を小さくしてゆき、そして消えてなくなった。


「終わったか」


 左手に魔力の負荷がかからなくなったのを感じ、カオスはその方向にチラッと視線を向ける。そこに自分の生み出した不自然な空間の亀裂は無く、ただ普通の景色の連続が続いているだけだった。ブラックホールは成功し、その役目を終えて、消えてなくなった。

 カオスはその視線をグレン(偽)に戻す。技を放ったグレン(偽)は、技が消えてなくなった後も上空で待機し続けていた。


「チッ」


 カオスは舌打ちする。グレン(偽)の反応がつまらないのだ。一言で言えばノーリアクション。何もなかった。

 頭がないんじゃ、アレでショックを受けたのかどうかも分からねーな。口も利かないし、表情も無い。つか、あの野郎、さっきから空飛んでるじゃねーか。どうでもいいけど。

 ま、それはそれとして。

 カオスは思考を止める。それはここですべきではない。グレン(偽)がショックを受けたかどうかは分からない。


「だが、俺の出し物はまだ終わってねーぞ」


 カオスは右手をブラックホールの時と同じように真っ直ぐ横に掲げて、そこに魔力を充溢させる。


「ホワイトホール」


 カオスは唱える。

 すると、そこからただの魔力の塊でしかなかったカオスの充溢された右手の部分の魔力が変化を見せる。一瞬白く変色を見せた後、それはカオスの左手を離れ、すぐ隣の空間に場所を移す。

 空間の破壊。

 カオスの右側に置かれた魔力は、そこで空間を壊して、一つの穴を穿った。光に溢れた真昼の砂漠地帯に、一滴のミルクを落としたかのように、そこに一つの白い穴を作り出した。


「行け!」


 すると、その白い穴に光が生まれ、そこからグレン(偽)に向けて放たれる。強大な魔力の奔流が、光の槍となってグレン(偽)を襲う。素早く。的確に。

 それは避ける間も無く、グレン(偽)を貫いた。魔力の奔流に巻き込まれ、グレン(偽)はそのエネルギー波に飲み込まれる。エネルギー波は対象物を巻き込み、そこで大爆発を起こした。


『ブラスト・オブ・デストラクション』


 それは、その技の効果である。カオスはその効果を見ながら笑う。


「今度は手応えあったぜ」


 成功である。


「ブラックホールで吸収したグレンの技を、ホワイトホールとかいうもので吐き出して、しっぺ返しのように返したわけね」


 マリフェリアスは一連の動作からそのように判断する。カオスのホワイトホールから出たのは、カオスの魔力ではなくてグレン(偽)の魔力。その技の形態が同じだけでなく、効果も同じ、エネルギー源はグレン(偽)のもの。

 ならば、そのように判断するのが普通であった。


「うむ」


 アリステルとしても、隠しておくようなものではないので素直に教える。


「吐き出せるのは最後の一つのみじゃがな」

「ふっ。カオスらしい手抜きね」


 まあ、これだけでも良くやったと言ってもいいかな?

 マリフェリアスは今回のカオスの戦いについてそのように評価する。駄目なところは駄目と言うが、認めるところは認める。もっとも、認める方は口にしないけれど。

 ただ……

 爆発の残骸を見ながら、マリフェリアスは少し笑う。楽しみはまだ続く。

 爆発に巻き込まれたグレン(偽)の魔力は衰えていない。体力も衰えていない。それを、マリフェリアスはいち早く感じていた。カオスのホワイトホールの特性からすれば、グレン(偽)がそうなるのは、過去の戦いの経験から既に分かっていた。

 ブラスト・オブ・デストラクションによる爆発、それは全く無意味なものとなるのだと。

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