Act.009:デンジャラス・テストⅦ~闇と結末~
起き上がったカオスの目が紅く光った。口元がゆっくりと歪む。
殺す。殺す。殺す。殺す。殺す殺す殺す殺す……
歪んだカオスの口元は、同一の言葉を形作り続ける。そして、それと共にカオスの周りに現れ始めた黒いオーラは次第に大きく、禍々しく、そして強くなっていった。
「!」
その異変に、有頂天だったガイガーも流石に気付き、その方向を振り向き、立ち上がったカオスの姿を目にした。『魔の六芒星』の一人である自分が殺すつもりでぶちのめしたのだから、生きているだけでも人間にしては上出来だと思っていたガイガーは、そんな自分にたくさんぶちのめされても尚、平然と立ち上がれるカオスに驚かされた。
が、それはすぐに嘲笑に変わる。
「あれだけ喰らっていながら立ち上がるとはな。随分とタフじゃないか。褒めてやるよ。だが、それだけに憐れだ。その分死ぬのに苦しむ羽目になるのだからな」
8割の嘲りと、1割5分の感心と、5分の同情を込めてガイガーは言った。だが、それはカオスの耳には届かなかった。カオスは黒いオーラを発しながら、先程まで形作っていた言葉を音にし始める。
「殺す。殺す。殺す。殺す。殺す殺す殺す殺す……」
「い、つ。つ?」
そんな中、周囲の異変に気付いたルナが目を覚ました。一つの邪悪な気配と、それ以上に邪悪な気配を感じたのだ。ルナは一つずつ記憶をハッキリさせていった。感じる邪悪な気配の内の一つは、さっき自分達をぶちのめしたガイガーのものであろう事は目を開かないでも分かる。だが、邪悪な者はそのガイガーの他にもう一人いるようだ。
誰だ? 新しい魔族がやって来てしまったのか?
ルナは恐怖心と少しの好奇心と共に目を開いた。
「え?」
すると、気絶していた自分を目覚めさせてしまう程の強大な邪悪な気配の先には、ガイガーの前に立っているカオスの姿だけがあった。カオスの後ろには岩の壁だけがある。客観的に見たならば、その邪悪な気配はカオスから発せられているものだと判断すべきだろうが。
ルナはそれを見ても尚、今自分が見ている光景を信じたくなかった。アレがカオスだとは思いたくなかった。上級魔族であるガイガー以上のどす黒い殺気を、全身から露わにするカオスが視線の先には居る。
それは余りにも禍々しく、恐ろしく、そして人間離れしていた。
「殺す。殺す。殺す。殺す……」
口元の吐血の跡を拭いもせず、カオスは忌まわしい言葉を呟き続ける。そして、咆哮する。
「かぁああああああああっ!」
それと共に、カオスの周りに充溢していた魔力の強さはそこからさらに上昇した。
これが敵の魔力だったら、逃げ出したくても腰を抜かして逃げられなくなるだろうな。
少し離れた場所で、カオスから発せられる魔力のプレッシャーを感じながら、ルナはそう思っていた。ルナとしては、それがカオスの魔力であったとしても、お手合わせは遠慮したかった。
「まさか、こんな風になるとはな」
ガイガーは少し前まで憎たらしい笑顔を浮かべていたが、カオスの魔力の上昇具合を感じて、冷静に真面目な顔に変わった。流石に、これは本腰を入れて相手をしなければヤバイと感じたのだ。
ガイガーは構えを取る。最早油断はない。嘲りもない。対等な者として彼は対峙しようとしていた。
「さっきまでとは大違いだ。鼠も追い詰めると猫をも噛む。お前等人間共の故事だが、そういったところか。だがなっ!」
ガイガーは魔力を充溢させる。そして、自分の周りに魔力で岩の刃を無数に生み出した。
「所詮、鼠は鼠でしかなく、人間は人間でしかない。それは事実だ。それを分からせてやろう」
ガイガーは右手をゆっくりと掲げた。すると、ガイガーの周りに浮遊していた岩の刃がガイガーの右手の周りに集まり始めた。
ある程度岩の刃が集まったことを確認すると、ガイガーはその右手を一気にカオスの方に向けた。そうするとその岩の刃達は、一斉に切っ先をカオスに向けてカオスの方に発射された。
無数の岩の刃が高速でカオスを襲った。そんなピンチな状況下で、カオスは笑っていた。嘲るように笑っていた。そんなカオスは、自分に向かってくる岩の刃を見ながら、右手をそっと横に出した。
「ブラックホール」
カオスがそう言うと、カオスの横に出した右手の上の空間に亀裂が入り、不気味な音を立てながら黒い闇がそこから姿を現した。その黒い闇は広がりながら、直径50cmくらいの円を形成した。すると、ガイガーからカオスに向かって発射された岩の刃達は、標的であるカオスから方向を急に変えて、その黒い闇の中へと全て吸い込まれていった。
「な、なななな、何だありゃ?」
自分の渾身の技をあっさりとどんどん吸い込んでいく黒い闇を見ながら、ガイガーは叫んだ。ルナも黙ってその光景を眺めていた。
アレは魔法なのだろうか? あたしは全く知らないけれど。
ルクレルコ魔導学院での実習でも、資料でも見た事が無い。ルナは一瞬、ただ自分が無知なだけなのだろうとも思っていた。だが、目の前で驚いているガイガーを見て、それは魔法に関しては人間以上のエキスパートである上級魔族でも知らないモノなのだと知った。
ああ、そう言えば。
ルナはそこで思い出した。前に学院の廊下でカオスに向かって魔法を撃ってしまった時、カオスの身を守る黒い壁が出現したことがあった。今回もそれと似たようなものだろうかと。
ただ、桁は違い過ぎるようではあるが。ルナがそう思っているその間に、ガイガーが放った魔法は全てブラックホールとやらに吸い込まれ、そして消えてなくなった。
「…………」
ガイガーにその吸い込まれていく様を、ただ眺めているしか出来なかった。
そしてそのすぐ後、轟音を立てながら飛んだ岩の刃の音までもが全て消え去り、そこにはまたガイガーが技を出す前と同様の静寂が訪れた。そして、その静寂と共にカオスの右手の上に出没した黒い闇はあっさりと消滅した。
偶然ではない。
ガイガーはその黒い闇の現象をそう判断した。カオスが魔法を使って、魔法攻撃を吸収する黒い闇を召還したのだ。そして、こちらが強力な魔法を繰り出したならば、向こうはいつでもそれを召喚するであろう。一回だけに違いないと楽天的に考えてはならない。そのように判断し、行動するのが賢明であると考えていた。
魔法は通用しないだろう。
あの黒い闇の現象から、ガイガーはそう捉えることにした。そして、得体の知れない魔法を使う相手に、こちらも魔法で対抗するのは得策ではないと考えた。
「ならば、もう一度ぶちのめして地獄の底に帰してやるまでだ」
そう言って格闘用の構えを取るガイガーの目に、カオスの顔のアップが映った。ガイガーの攻撃の後、カオスから攻撃を仕掛けたのだ。
速い!
カオスの動きを見て、ガイガーはそう感じた。だが、その時にはもう遅かった。カオスの拳が、ガイガーの顔面に炸裂した。爆発した炸裂弾のような破壊音と共に、ガイガーの身体は吹き飛ばされた。
「くはっ!」
ガイガーの髑髏型ヘルメットは大きくひび割れ、口から吐き出された血が放物線を描いた。ガイガーは受身を取ることも出来ず、そのまま地面にその身体を打ちつけた。が、それでも吹き飛ばされたガイガーの身体は止まらず、カオスのパンチの勢いのままに地面を転がり続けた。岩の地面を削りながらガイガーの身体は転がり続ける。そして、洞窟の壁にその身体が叩きつけられた時、やっとその進行は止まった。
その刹那、解き放たれたかのような大量の吐血。
「ぶはっ!」
自分の吐血の跡と土埃で汚れた顔と身体にむせ、ガイガーはさらに大きく吐血する。だが、それを拭いもせずにガイガーは視線をカオスへと戻す。少し身体を動かしただけで、身体が大きく痛むのを感じた。
あの人間のパンチ1発で、上級魔族の自分が大きく吹っ飛ばされた。なおかつ、大きなダメージを受けてしまった。普通の人間ではありえない。アレは普通の人間ではない。それどころか、アレは本当に人間なのか?
カオスの禍々しいオーラと、その絶大なパワーを目の当たりにして、そんな疑問がガイガーの中に浮かび始めていた。オーラの禍々しさは魔族である自分よりもさらに上回るとガイガー自身感じていた。だからこそ、そう疑問に思ったのだが。
そんな疑問をガイガーが抱き始めている事など意にも介さず、カオスは負傷したガイガーに歩いて近付いた。そして、その両手をグッと掴んだ。
「!」
カオスが自分の腕を掴んで、何をするつもりなのかガイガーには見当もつかなかった。だが、この至近距離であるという絶好のチャンスを逃すつもりは無かった。
ガイガーは自分のありったけの魔力を口の辺りに集中し、口を大きく開けてその魔力をカオスの方に向けて解き放った。
奥義・地熱爆撃砲。
そう名付けたその技は、ガイガーにとってはとっておきの必殺技だった。人間如き相手には勿体なくて使う気にはなれなかった大技だったのだが、四の五の言っていられる状況ではないと分かっていたので、迷わずにそれを発射したのだ。
ガイガーの口から出た魔力の光線は、周囲に閃光を放ちながら一直線に突き進んだ。洞窟の岩の壁をそのまま貫通してもなお、その光線は止まる事を知らなかった。光線は洞窟の外にまで突き抜け、青空の彼方へと消えた。
カオス!
ガイガーの攻撃を目の当たりにしながら何も出来なかったルナは、その安否をただ案じるだけだった。が、閃光と崩れる岩と粉塵のせいで、カオスの姿もガイガーの姿も見る事は出来なかった。
一方、気を失っていたアレックスも、崩れる岩の破片がいくつか頭に当たったことで、ようやく失っていた気を取り戻した。突如襲ってくる頭痛に少々苦しみながらも、アレックスは辺りを見渡す。岩の崩れが治まり、粉塵が地面へと落ちゆく中で、その視界に千鳥足のような足取りで立ち上がる、負傷したガイガーの姿を捉えた。依然として口から湯気のような物が出ていたので、技の時には気絶していたアレックスにも、今のはガイガーによる攻撃だということは理解出来ていた。
その一方でカオスは視界に映らなかった。禍々しい気配も感じられない。その状況下から、ガイガーはカオスを自分の奥義によって消し去ったものと解釈する。
「死んだか。油断したな、馬鹿め」
ガイガーに笑顔が戻る。そして、ルナの顔に不安の色が一層濃くなっていった。ルナも、カオスが殺されてしまったのではないかと思っていた。
だがそんなルナを他所に、今までのいきさつを全く知らないアレックスはただ酷く負傷しているガイガーの姿を見て驚いていた。
そんな2人の思惑を全く気に留めず、己の勝利を信じたガイガーは満足そうな笑顔を見せる。
「所詮は愚かな人間だったか。だが、その人間風情がこの私に奥義を出させる程に追い詰めるとはな。そ
の礼だ。名はカオスとかいったか。貴様の名前は永久に忘れないでいてやろう」
自分を負傷させ、奥義まで出させたカオスを、一応そう褒めてガイガーは血と汚れだらけの姿で勝利の余韻に浸る。
そんなガイガーの目の前に、一筋の黒い空間の亀裂が走った。その空間はすぐに広がり、その中に居る人物、カオスの姿をガイガーに見せた。
「な、何だと!」
黒い闇の中から出て来るカオスの負傷の具合は、ガイガーが奥義を出す前と変わらない。それすなわち、ガイガーが至近距離で出したあの奥義を、カオスは素早くあの闇の中に入って回避したということに他ならない。
「クククク」
闇の空間から出たカオスは、勝手にぬか喜びしていたガイガーを嘲笑う。その姿を見てアレックスは驚きの余り大きく口を開けて思考を失い、ルナはまた真剣な表情に戻った。
ガイガーは死んだと思ったカオスが無事に戻り、驚き慌てはしたが、カオスが生きているという事実は曲げようがないので、また再び戦闘態勢に戻った。
「チッ。生きてたというなら仕方ない。今度は」
この拳で何百回とぶちのめしてやろう、と言おうとした時にガイガーは自分の身体の異変に気付いた。格闘用の構えを取る時に、自分の目の前にいつも見える筈の腕が無かったのだ。
「え?」
良く見ると、自分の両手が肘から手首の中間地点辺りで引き千切れて無くなっていたのだ。そんなガイガーを眺めながら、カオスは愉快そうに笑う。
「クククク、探し物はこれか?」
そう言いながら、カオスは後ろ手に隠していた物を前に晒す。すると、そのカオスの両手には千切れて見当たらなくなったガイガーの両手が握られていた。そして、その両手をカオスは笑いながらガイガーに軽く投げてぶつける。両手を失ったガイガーは、受け取ることも出来ず、ただ地面に無様に横たわる自分の両手を眺めているだけだった。
よく見れば、ガイガーのちぎれた両腕の先からも大量の血が流れていた。
「な、手、テ、てぇええええっ?」
ガイガーは驚愕する。カオスの両手にその両腕が納められているということは、先程カオスがガイガーの両腕を掴んでから、ガイガーが奥義を炸裂するまでの短い間に、そのパワーでもって容易く引き千切っていたということなのだ。
「な、な、ななななななななっ!」
ガイガーは両腕の傷跡から吹き出る血を見ながら恐怖する。両手を失い、魔力もさっきの奥義でほとんど尽きた上、効果があるとは思えない。今まで人間に対して絶対的な強者となっていた自分が、一転してその命を搾取される側に転じてしまったのだ。
もう既にガイガーは瀕死。カオスを倒す術はない。それどころか一矢報いる術もない。そして当然、逃げる術もない。
「あはははははははは!」
カオスはそんな怯えるガイガーを大笑いする。絶望するガイガーを嗤う。
「な、ちょ、ちょっと待て。あ、あ、ああああっ!」
千切れた両腕の傷跡を掲げ、ガイガーはもう戦えないことを、少し待ってもらいたいことをカオスに向かってアピールする。
カオスはそんなガイガーを待たなかった。容赦しなかった。カオスは自分の右手をガイガーの顔面に繰り出し、髑髏型ヘルメットの目の部分の隙間から人差し指と薬指をガイガーの両目に突き刺した。
不気味な音を立ててガイガーの両方の眼球は潰れ、その所からは潰れた眼球の白い汁が飛び出し、耳からも大量の血が吹き出た。
カオスは突き刺した右手を引き抜きながら、死刑宣告をガイガーに贈る。
「もういい。消えろ。死ね」
カオスは左手を突き出し、そこから魔力を放出した。
爆裂音と共にガイガーの身体は閃光に包まれ、黒焦げになり、細かく千切れながら、終には何も残らなくなった。そのガイガーが消え去った跡を眺めながら、カオスは嘲笑する。
「ケッ、雑魚が」
カオスは静寂だけが残った崩れた岩の後に、そう吐き捨てる。そんなカオスに、やっと立ち上がったルナが不安な面持ちで話しかける。
「カ、カオス?」
目の前に居るのは、カオスに見える。けれど、このカオスの雰囲気はいつものカオスではない。もしかしたら、今までのカオスはもう何処にも居ないのかもしれない。
そんな不安がルナの中にあった。
カオスはルナの声を聞いて、はっとルナの方を振り向いた。カオスの紅い目が、少しずつ元の碧眼に戻り始めた。
「ル?」
カオスは呟くようにそう言って、すぐに気を失って倒れた。
「カオスッ!」
ルナとアレックスは、身体が痛むのもさっきまでのカオスの異常な様子も忘れて、倒れたカオスの方に駆け寄った。アレックスよりもカオスに近い場所に居たルナが、いち早くカオスの所に辿り着いてカオスの様子を見る。そして、安心する。
「寝てるだけか」
倒れたカオスは安らかな寝息を立てて眠っていた。その寝顔はいつものカオスで、少し前までの鬼神のような禍々しい雰囲気は感じられない。
やはり、カオスはカオスか。
そう思い、ルナとアレックスは笑った。
「さて!」
アレックスは気合いを入れ、暢気に眠るカオスを背負った。そして、また歩き始める。
「ゴールまで行くとするか」
「そうだね」
ルナも落ちたままのカオスの剣を拾い、それを鞘に収めてまたゴールに向かって歩き始めていた。三人の後には、崩れた岩と粉塵だけが残っていた。
だが、彼等は知らない。その様子を、一匹の使役蟲が一部始終見ていたことを。
◆◇◆◇◆
ルクレルコ・タウンから少し離れた場所にある岩山の中腹、トラベル・パスCランク二次試験会場のスタート地点とは逆側のゴール地点。そこはざわめきに包まれていた。
魔王アビス軍の幹部、『魔の六芒星』の一人であるガイガーが突然出現した。だが、それに伴う避難がほぼ終了し、ほとんどの受験者がゴール地点まで到着してきていた。そして最後の受験者のチームが、怪しいマスクをした試験官の先導でゴール地点付近まで辿り着いていた。カオスとルナ、そしてアレックスだ。三人は皆負傷していたのだが、カオスが眠っていてそれをアレックスが背負っていることを除けば、特に問題は無い様子だった。
これで、最後だ。死者を一人も出さずに試験を終えることが出来る。
怪しいマスクを被った試験官は、そう思って少し安堵の表情を浮かべた。試験会場に魔王アビス軍の幹部、『魔の六芒星』の一人であるガイガーが現れたので焦り、不安に駆られたが、その姿はいつの間にかどのカメラにも見えなくなり、受験者もこれが済めば全員生還したことになる。後はそういう専門の者に任せればいいのであって、彼にはもう取るべき責任も、やるべきことも、何一つとして無い。
その安堵な様子でルナ達は訊かれた。魔王アビス軍の幹部、『魔の六芒星』の一人であるガイガーに会いはしなかったのかと。
「いいえ」
「本当か?」
「ええ。そんな災害のような魔族にもし会おうものなら、此処にこうして無事に来れたりはしないでしょう?」
「ま、まあ。それもそうか」
ルナは偽り、そしてその偽りを試験管は疑いもしなかった。それだけカオスがガイガーを倒したというのは異質なのだとルナは分かっていた。だから、隠すのだ。変な所を探られない方が良いと。そして、最強を目指そうとしないカオスの望みもまたそれに沿っていると分かっていた。
とは言うものの、あっさり信じる試験管には拍子抜けであった。そして、そんな試験官の後姿を見ながら、ルナは少しだけ笑った。試験官は、まだガイガーの死を知らない。それでもああやって安堵の表情を浮かべられるのだから、根は随分と楽観的なのだろう。そう思っていた。
そう。試験官は知らない。それどころか、ルナとアレックス以外は誰も知らない。
なぜなら、カオスやルナ達を見ていた監視カメラ代わりの擬似生物は、いの一番に三つ全てガイガーの攻撃によってカオスの覚醒以前に壊されてしまったので、カオスによるガイガーの惨殺のシーンは誰にも見られていない。だから、彼等がそれを知る由は何処にも存在しないのだ。
そうこうしている内に、ルナ達はゴール地点に到着した。怪しいマスクを被った試験官は、ルナ達三人の方を振り返って開口一番に言いたいことを切り出した。
「まあ、色々とありはしたが、結果は変わらない。カオス・ハーティリー、ルナ・カーマインに、アレックス・バーント。トラベル・パスCランク試験、三人共合格だ。おめでとう!」
周りから、最後の合格者達に割れんばかりの拍手が起こった。
日は、随分と西に傾いていた。