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幸せのカタチ

「はやくサナも結婚しなよ~もう30になるんだよ? もういい歳なんだから」

 彼女――ミサキ――はアイスコーヒーを回しながらそう言った。

「う、うん。そうだね。でもいい人がいなくて……」

「サナもうちょっと服とかに気を使ったら? 素材はいいんだから。ブランドとか知らないでしょ、ほらコレいくらだと思う?」

 ミサキは自分の着ている服を見せびらかす。

「えっと、1万円?」

「4万だよ4万っこれくらいの服着れば絶対いいってサナもお金あるんでしょ? 買ってみなよ」

「そうだね。今度見てみるよ」

 私はできるだけの愛想を振る舞いて答えてみせた。

 と、ミサキのスマホが鳴る。

「あ、ごめん旦那からだ。電話してくるね」

 断りを入れてから席を立つ。

『は? 良いって言ったじゃん。みーちゃんどうすんの、は? ふざけんなよっ――』

 なにやらもめている声がここまで聞こえてくる。

 しばらくしてから、席に戻ってくる。

「ごめん、サナ。子供見なくちゃいけないことになって帰らなきゃ」

「あ、分かった。じゃあ行こうか」

 と言った瞬間、ミサキはさっさと荷物をまとめて席を立つ。

「ごめ、ちょっとトイレ。先行ってていいよ」

 そそくさとトイレに入ってしまう。

 このパターンか、と内心ため息をついた。

 

 私は彼女がトイレに行っている間に会計を済ませて、入口の端で待っていた。

 見計らったように彼女が戻ってくる。

「ごめん、おまたせ。お会計は?」

「済ませたよ」

「あ、マジ? いくら?」

 といいつつも財布を出そうとはしない。

「いいよ。たまに会ったんだし」

「そう? ありがと」

 その言葉を待っていたように返答すると、先に店から出てしまう。

 

「うわぁ、もう冬じゃん。寒っ。じゃあ、あたしはここでまた話そうね」

「うん、じゃあまた」

 私が返事をする前にもう、帰路についていた。

 

 白い息を吐きながら、マフラーに顔をうずめる。

 曇天の空、もう本格的な冬がやって来る。

 

 私は電車に乗って家に向かう。

 電車内は年末セール合戦のチラシばかり。心なしかカップルも多い。

 スマホを取り出してツイッターでもみようかとすると、母から通知が。


「いつ帰ってくるん?」


 と入っていた。

 私は「忙しいから分からない」とそっけなく返すとすぐさま「たまには帰ってきなさい」と送られてきてそれから返信はしなかった。

 窓に私の顔が反射して映る。

 分厚い黒縁メガネ。切り揃えられたボブカット。

 とくに華もない平凡な格好。身につけているのはだいたいユニクロかGUだ。ミサキが着てた4万もする服なんて興味ない。

 メガネも高校の時からフレームだけ使い続けてる。お父さんからもらったやつだから捨てたくないし。

 

 

 耳にイヤホンを差し込み、新作のOPソングを流す。

 そしてタイムラインを遡り始めた。

 

 

 なぜあんな人と会うことになったのか。

 自分でもよくわかっていない。

 高校くらいの時に知り合った人。たまに話すくらいで、フェイスブックつてでメッセージが飛んできて気がついたら会うことになっていた。

 

 結局は旦那の愚痴を言ってご飯奢らせて帰っていった。

 なんて無駄な時間を過ごしてしまったのだろう、と今更ながら後悔する。

 

「ただいま」

 

 だれもいないアパートの一室。

 壁にはポスター。棚にはフィギュアといわゆるオタク趣味全開な部屋だと我ながら思う。

 

 でも、これでいいんだ。

 誰かを呼ぶわけじゃないし。

 

 年末は家に帰ることもしない。

 どうせ、帰ったら母にいつ結婚するんだとか延々と聞かされるハメになる。

 お父さんが死んでから寂しいのは分かってるけど、私にその意思はない。

 

 こうして好きなものに囲まれて過ごしていく。

 でも、不安がないわけじゃない。一生こうしていくのかと言われたらNOと答える。

 

 でもさ、欲しいモノって求めるほど手に入らないってことあるじゃん。物欲センサーが働くみたいにさ。

 ミサキだってなりゆきでそうなっただけでしょ。聞いたところデキ婚らしいし。 

 別にデキ婚が悪いってことじゃないの。なんの意思もないまま流されていくのが嫌いなの。

 

 あなたのものさしで私を計らないで。

 

 そう私は声を大にして叫びたい。

 

 私には私の幸せがあるんだから。

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