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10

 次の日からは木の上を走る訓練に加えて、昨日にやった投擲と狩りの訓練も一緒にやるようになった。


 朝に始まって木の上へ登って走り、昼には鹿を狩って食い、また夕暮れまで木に登り走る。


 一日の時間はその繰り返しだ。単調と言われればそれまでだけど、退屈に思うことはなかった。


 何日も、何日も繰り返して行なっていく内に、俺の体も必要な分だけ筋肉を鍛えあげられた。


 腕は前にも増して太くなり、腹筋も背筋も見違えるように大きくなった。


  何より太ももからふくらはぎにかけての筋肉のラインは見事で、アスリートのそれといっても問題はないように思えた。水辺に立って六つに割れた腹筋を見ると惚れ惚れする。


 なるほど。筋トレをするマッチョマンがよく鏡の前に立つのを見たが、これは確かに見たくなる。


 別にナルシズムに目覚めたわけではなかったが、それでも見違える肉体を手に入れたことに対する感動は大きかった。


 ただ、アリョーシのようにドラゴンに姿を変えることは無理だった。


 人間の血が入っているから仕方のないことだとアリョーシは言っていた。


 そう言われてしまえば、そうなんだという他ない。


 ただ、あの大きな翼で空を渡れたらと思うと、残念といえば残念だった。


 森の中で訓練に勤しむうちに食えるものと食えないものも実体験で覚えていった。


 何度か腹を下すこともあったが、それでも経験に基づいた知識を得るには必要なことだったと思う。


 生物を狩ることも覚えた。命を奪うことへの抵抗は未だあったが、それでも命への感謝をしつつ肉を食った。


 狩る中でも命への敬意を忘れない。これは俺が本来人間であり、獣になりきれない甘い部分なのかもしれない。


 一度このことをアリョーシにもいってはみたが、俺の言っていることが理解されていないのか。首を傾げて、しまいには「はいはい」と受け流されてしまった。


 きっとこの考えはアリョーシには理解されることはないだろう。


 人間の姿形をしていても、本来アリョーシはドラゴンであり獣だ。


 生きた動物を肉として捉え、腹減ったら捕まえて食う。他の動物とはアリョーシにとってはそれだけの存在にすぎないのだ。


 まぁ、人間も獣の一種類で今のご時世肉に対する敬意など持ち合わせる方が珍しいことかもしれない。


 アリョーシはアリョーシ。俺は俺だ。

 理解されなくても別にいい。


 思考は押し付けるものではなくて、大切に自分の中に持っておくものなのだから。それでいいんだ。


 ここでの生活にも慣れていくうちに、体もここの環境に慣れてくる。


 現代日本では使いもしなかった知識を得て、体つきも代わり、また自分を包む状況も変わった。


 俺が日本で生きていた頃には感じることのなかった、この退屈には程遠い刺激的だけど平和のひと時。これがきっとここで末長く続いていくのだろうと思った。


 だが、人生は思ったようにはいかない。誰もこの先に起こることなんて分かりはしない。


 どれだけ目標や計画を立てたって、トラブルが起こって台無しになるなんて珍しくない。


 ただ、トラブルが起こってもこの生活を守っていこうと思う。


 自分で自分を殺した我が儘な奴がいうことではないし、何もかもを投げ捨てた奴のいうことではない。

 

 ただ、これまでの失敗があり、なおかつ新たに手に入れた強靭な体があるのだから、今度こそうまくできるはずだ。

 

 そう。できるはずなんだ。

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