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6........

 アーロンからの尋問、もとい事情を聞いたことで得られたものは俺たちの期待通りの内容だった。


 俺たちがベランダから飛び降りた後、確かにロベルトはアーロンの元を訪れた。なんでもホテル内で起きた騒ぎでアーロンの身に何か起きてはいないかと心配して駆けつけたらしい。


 なんとも社長思いの優しい部下だ。そんな奴がアリョーシをさらったと聞かされても初めは否定から入るのも頷ける。アリョーシの名前と、実際に会ったという証言がなければ、きっと信じてはくれなかっただろう


 アーロンはアリョーシのことを持ち出して、ロベルトに突きつけた。

 それが功を奏してロベルトは驚いた様子でアリョーシにユミル共々会わせることを約束した。


 話をかいつまみ重要なことだけを取り上げれば、なんて素晴らしい成果だろう。俺たちのたてた計画通りにことが運び、アリョーシにもぐんと近づいた。諸手をあげて、大いに拍手を送りたくなる。


 ただ、残念なことに掻い摘まずに話の全体をみると、素直に喜ぶことができないのだが。


 この説明の中での疑問はいくつかあった。


 一つ、どうしてロベルトはアリョーシに会うことを了承したのか。

 

 これについては部下が内密に調べた結果によるものだとアーロンは説明したようだが、あの男が素直に理解するはずがない。


 口を漏らさぬように箝口令が敷かれていてもおかしくはないし、その後の調査で一体誰が漏らしたのかも検討がつくはずだ。


 そしてその槍玉に挙げられるのが、スパイとして使われていたアマンダであることは、多分間違いない。何より俺に会う前に、すでに喧嘩を売っているのだからまず疑われるだろう。


 そしてもう一つ、なぜ、ユミルまでも招待することにしたのか。


 たとえ同じ部屋に居合わせたとしても、わざわざ一緒に案内する必要なんてないはずだ。口封じのために金を握らせるか、その場で殺してしまえばいい。


 なのにロベルトはそれをせずに、アーロン共々わざわざアリョーシの元へ案内するなんてことを確約した。

 奴の言葉通りに提案を鵜呑みにするには無理があるし、どう捉えても何かあるに決まっている。


 ロベルトの胸の内が分かればそれを理解するのに苦労はないのだろうけど。あいにくと不明のままだ。

 ユミルがロベルトと組して何かを企んでいるとも考えられたけれど、それも知り得ないだろう。


 ユミルに訴えたところで知らぬ存ぜぬを貫き通すだろうし、現にアマンダとガブリエルが詰め寄っていたけど、作り笑みを顔に貼り付けて、巧みに言葉をいなして見せていた。


 ユミルが駄目ならばアーロンならばとちょっとの期待があったのだけど、こっちも何も分からないの一点張りで、大きく当てが外れる結果となった。


 残されたのはロベルトの得体の知れない招待と、敷き詰められた罠へのあまりある警戒だ。


 こっちの作戦に引っかかってくれたと思えば簡単だが、どうにもそう思えない。それよりもあっちの手のひらの上で馬鹿踊りをしているような気がしてならない。


 なんだか見えないところでロベルトが笑っている様子が見て取れた。まあ、それはあくまで想像の世界での話だけだけど。


 「ここまで聴かせておいてあれだけど、リュカくんはどう思う」


 顎をさすりながら下手に頭を使っていると、アマンダが俺の顔を覗いてきた。


 「どうって、きな臭くてたまりませんよ。手ぐすね引いて待っているに決まってます」


 「だよねえ。あからさまに誘っているわよねえ」


 腕枕を背もたれに沿ってうんと背筋を伸ばす。


 「だからってみすみすこの機会を逃すって手もないだろ。あっちがわざわざ乗り気になってくれたんだ。好意に甘えて連れて行ってもらった方がいいだろうさ」


 「ガブリエル、それはあまりに無警戒すぎるわよ。一歩間違えれば社長やユミルさんをみすみす殺させてしまうかも知れないんだから……ああ、ごめんなさい。他意はないから気にしないでくださいな」


 アマンダはそういうものの、言葉の矛先にいるユミルとアーロンは苦い顔をして見つめている。

 

 死ぬという可能性はあることは本人たちの方が分かっているのだから、気にするなと言われても無理があるだろう。


 「ちなみにいつ連れて行くって言っていたんですか?」


 「三日後の夜に、だそうよ。ですよね?」


 「あ、ああ。まあ」


 アーロンの口から歯切れの悪い言葉が聞こえてきた。


 「だ、そうよ」


 「今日を入れてあと三日ですか」


 「ええ。三日。でも、あともうじきあと二日になりそうよ」


 アマンダが腕時計を眺めると、どこからか鐘の音が聞こえてきた。


 教会や施設にあるようなどデカイやつじゃない。もっと可愛げのある、鳩が飛び出てきそうな感じの鐘だ。 

 この部屋のどこかに振り子式の時計でもあるんだろう。


 鐘の音はゆっくりとそして同じリズムで音を響かせて、十一回鐘が鳴ると音が止まった。


 「午後十一時」


 ゼレカの口がご丁寧に時間を知らせてくれた。

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