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ガブリエルのことだから、一人で路地に入ってしまったのか。それとも路地とはまた別の場所へ行ってしまったのか。
ガブリエルがなぜそこからいなくなったのか。その答えを知る唯一の人間はガブリエルしかいない。
心配はもちろんあった。もし一人で路地へと入ったとしたら追いかけなくてはならない。
ガブリエルの信頼を破る結果にはなるが、一人では行かないという言葉を破ったから責められるいわれはない。
もし窮地に立っていたとしたら、戦闘はできないが彼女を担いで離れることぐらいはできる。
しかし俺の足は路地へは向かなかった。
それはガブリエルがもしも路地ではない別のどこかへと向かった可能性を考えたからだ。
ガブリエルと俺のこれまでの行動が筒抜けになっているという仮説はさっきガブリエルの口から聞いた。
けどそれをやったのがガブリエルという可能性もなくはない。
考えたくもない可能性だけど否定できる材料は今はない。疑心暗鬼は際限がないが考えずにはいられない。
ガブリエルへの信頼と不信感に板挟みになった結果。一旦は車に戻って応援の人たちが来るのを待つことにする。
今できる一番最善の方法だ。いや、最善であるとそう願いたい。
快速を飛ばしたこともあって車近くの屋上には数分のうちに着くことができた。
あたりを見渡して人影がないことを確認すると、屋上から飛び降りる。
モヤを腕から出して着地の衝撃を和らげる。そしてすぐに体重を移動させ車の影に入る。
運転席側から車の中を覗くと、助手席にはゼレカが座っている。
しかし、こめかみにつけていたコードはすでに外していて前を向いていた。
もうカメラを見る意味もないからだろうか。そんな風に思って後部座席にちらっと目を写した時だ。
見知らぬ男がそこに座っていた。
黒いスーツに白のワイシャツ。それだけを見ればサラリーマンの風体なのだが、どうもカタギではなさそうだ。
男の握った拳銃が座席越しにゼレカの頭に向けられていたのを見つけたからだ。
やばいと思って後ろに一歩交代した時、俺の後頭部に硬いものが当たった。
「乗れ」
ドスの聞いた男の声が背後から聞こえてくる。その硬い何かを想像することは難しくない。
すぐにかちゃりと何かを下ろす音が聞こえたから、これはもう間違いようがない。
腕をゆっくりと上にあげながら、答え合わせにちらっと背後を見る。やっぱり拳銃だ。
ぴったりと俺の頭に狙いを定めて男が立っていた。十中八九車に乗っている男の仲間だろう。
俺はなるべく男を刺激しないように、運転席から後部座席の方へ移動する。
そしてドアをゆっくりと開ける。車の中に乗り込むまで行けばよかったが、首筋に走った鈍痛によって俺は前のめりに倒れてしまう。
きっと背後の男が銃底で思い切り殴りつけてきたに違いない。
革張りの冷たく滑らかな感触を頬に感じる。起き上がろうと腕に力を込めるが、もう一発後頭部にもらって今度こそ座席に倒れて動けなくなった。
ドアを閉める音が聞こえてくる。虚ろになる意識の中で車が動き出した。
どこへ向かうのか。俺とゼレカを連れて何をしようというのか。それは分からない。
なんとか男たちを観察して手がかりの一つでも見つけられればよかったが、俺の意識は限界を迎えた。
情けない話だが、こうなってしまえば自分でもどうにもならない。
意識が途絶える瞬間まで諦めがついて回った。