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10....

 「あの近辺のチップは調べたのか?」


 歩きながらガブリエルは背後にいるゼレカに聞いてみた。エデンに住む人間には大抵チップが埋め込まれている。チップが壊れたり、人間が死んでいるかしない限りはチップからは位置情報が発信される。

 

 もしあの男にチップを埋め込であれば、現在の居場所も特定でき、そうなれば無駄に時間を使うことなくすぐに捕まえられるはずだ。


 「もちろん。あの近辺の全員。全ての人間とアンドロイドの顔と照合させた。でも、特定はできなかった。たぶん、移民かチップを埋め込まれていなホームレスの仕業なのだと思う」


 だが思ったような答えは帰ってこなかった。そして事は面倒な方向に転がる。


 そうなればあの近辺一帯をしらみつぶしに探すほかない。空き家から公園の遊具の中。果ては橋の下まで。ホームレスに移民は住居となりそうな場所であれば何処へだって居を構える。


 住所の登録なんてないし誰が住んでいるのかもわからない。それを調べようと言うのだから苦労を考えるときりがない。


 そのため頼りになるのは男のホームレス仲間か移民仲間だ。人間どこかで暮らすためには大なり小なりコミュニティに属しているもの。よそ者であれば目立つし、長く住んでいるものなら当然顔は知られているはずだ。

 

 すぐに見つかればいいが、その全てをこれから当たらなければならないと思うとため息もでる。だがそれ以外に方法がない以上やらないわけにはいかない。


 「お前は防犯カメラで男を探せ」 


 「私の役目はあなたの監視なんだけど?」


 「一緒に来る以上は手伝ってもらわなければ困る。それに部長もお前を使うなとは一言も言っていない」


 「面倒くさい」


 今になってゼレカの面倒くさがりが出た。半ば殴りつけてやりたいという衝動がガブリエルの脳を駆け抜けるが、どうにか押さえつけてゼレカの言い分を聞きながす。


 「とにかくやれ。後でデザートでもなんでも奢ってやる」


 「やる」


 デザートと聞いた途端目が変わって従順になりやがった。現金な奴だ。だが、こういう素直なところがあるから扱いやすい。


 やることが決まればあとはリュカを拾って向かうだけ。彼女たちの足は自然と控え室へと向かう。


 「ここで待っていろ」


 ゼレカにそう言うとガブリエルは自動扉を開けて中に入る。すると奇妙な光景に出くわした。


 「や……やめ……」


 悶え苦しむリュカの声。


 「ほら、さっさと喋っちゃいなさい」


 ニヤリと笑ったままアマンダが言う。彼女の手はリュカの脇に伸びていて、ワシャワシャと指を動かしてくすぐっている。アマンダの指が動くたびにリュカが身悶えして体をくねらせる。


 「……何をやってんだ。お前ら」


 ガブリエルは呆れ、思わずため息がこぼれた。


 「あら? もう終わったの」


 アマンダはガブリエルの方へ顔を向ける。それと同時に彼女の指がリュカから離れた。力なくソファに倒れたリュカはピクリと体をはねさせると、まるで生娘みたいに自分で自分を抱きしめた。


 「何やってんだよ。お前」


 「何って。取り調べよ。リュカ君とあなたが何を調べていたか聞き出そうと思って」


 「だからってリュカ坊をいじめてやるなよ。見ろ。恨めしそうにお前を睨んでいるじゃねぇか」


 ガブリエルに言われて、アマンダがひょいとリュカの方へ視線を向ける。確かに体を抱きながら、きっとアマンダを睨んでいる。だが、まだ子供だからか。その目に力はなく怖さはこれっぽちも感じられなかった。


 「けどリュカ君ああ見えて口が固いのよ。くすぐりには結構自信があったんだけど、結局耐え抜かれちゃった」


 肩をすくめて気落ちした風にアマンダが言う。しかしおどけた調子が目立ったから、不思議と気落ちしているようには見えない。


 「さて、それじゃ私は行くわ。犯人探しがんばってね。陰ながら応援しているから」


 ぐっと背筋を伸ばすとガブリエルの脇を抜けて部屋を後にする。


 「……あら、あなたいたの」


 廊下にはゼレカが立っているはずだ。おそらくは彼女に向けての言葉だ他のだろうが、アマンダの声色が一瞬だけ変わった。


 気のせいと言ってもよかったぐらいの変化だ。だが、アマンダの声にわずかな敵意が宿ったようにガブリエルには聞こえた。


 「……」


 ゼレカは何も言わなかった。いつものことだ。アマンダとはあまり喋らないし。アマンダも用事以外はゼレカと話したりはしない。仕事上の関係。それ以外になんら繋がりはない。


 アマンダは数秒の間ゼレカを見つめていたが、すぐに視線を外して廊下の作へと歩いて行った。


 「なんだあいつ。知っててリュカ坊をからかってやがったのか」


 ガブリエルはそう言いながら、部屋から出てきた。その後ろにはリュカがうつむきながらついてきている。


 「……どうした」


 アマンダが去った方をゼレカはじっと見つめていた。何をそんなに見つめることがあるのかと思ったが、ゼレカは「別に」と言うだけでそれ以上何も言わなかった。


 別にと言うのだから特に何もないんだろう。気にならないといえば嘘になるが、今優先すべきことは別にある。

 

 リュカとゼレカを伴ってガブリエルはエレベーターへと向かう。腕時計を見れば午後三時。男が電話をかけてきてからすでに二時間が過ぎている。


 二時間もあればエデンの中何処へでも行ける。男の行動範囲が広くなっていくほどに探すのも困難を極めていく。


 若干の望みがつながることを祈りつつ。ガブリエルたちを乗せたエレベーターは静かに降り始めた。

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