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9....

 「なるほど。ドラゴンと人の間にできた子供。確かにリーコンが聞けば小躍りしてその子供を研究イジるだろうな。お前が過剰にリーコンへの繋がりを意識することも頷ける」


 ガブリエルがことの詳細を伝えると、レイモンドは数度頷くとこう言ってきた。


 「分かっていただけたようで何よりです」


 「その少年のことを知っているのは、他に誰がいる」


 「私とアマンダ。ゼレカ。それと私のアパートに住む大家とその息子です」


 「そのうちドラゴンと人間の子供という事実を知っている者は」


 「私とアマンダだけです」


 「ならいい。無駄に大勢が知っていると情報の管理は面倒だ。お前はわかっていると思うが、くれぐれも言いふらすような真似をするなよ」


 釘をさすようにレイモンドは言う。そんなこと言われなくても分かっている。子供を危険な目から守らなくて何が自警団だ。使えぬ肩書きは肥溜めにでも捨ててやればいい。

 心の中で感情が少しだけ波打つがそれを表には出さず、冷静に「分かりました」と答えておく。


 「それで、調べた結果何が分かった」


 「まだ何も。子供の母親を連れ去ったと思われる男の名前と住所が分かったのですが、それもダミーだったようで危うく死にかけました」


 「アパートの爆破というのはそれか」


 レイモンドは腕を組みうんと唸る。思考を巡らせているようだったが、あいにくとガブリエルには彼の心中を察することはできない。


 「部長に電話をかけてきた人物ですが、発信先を調べて見てはどうでしょう。その近辺の防犯カメラがその人物を捉えているかもしれませんし」


 「言われなくてもすでに調べさせてある。結果は今日中に出るはずだ」


 「さすが、仕事がお早い」


 「ぼうっと座っているだけが取り柄ではないからな」


 単なる感想として言っただけだが、レイモンドはガブリエルの言葉を皮肉と受け取ったらしい。眉根を寄せてガブリエルを睨む。


 「ちなみにだが、そのダミーの資料は今手元にあるか?」


 「ええ。こちらに」


 ガブリエルは自信のスマホを取り出すと、写真のフォルダを呼び起こし今朝取ったばかりの資料写真をレイモンドに見せる。


 「ラリー・ザモアという男です。詳細はそこに書かれている通り。ですが、住所もダミーだとすれば、名前や出身地もアテにすることはできないでしょう」


 レイモンドは注意深くガブリエルのスマホを見つめると、すっと彼女に返す。


 「次にアテはあるのか?」


 「部長から何か情報を引き出せないかと思ってたんですがね。まぁ、分からないって言われるとは思ってもみませんでしたけど」


 「呼び出されておいて、なお聞き出す魂胆があったとは。なかなかキモが座っているな」


 「そうでなきゃ、こんな仕事やってませんよ。もうこれでいいですか? ようがないのなら退出させてもらいますけど」


 「心配しなくとも要件はまだ終わっていない」


 「これ以上何があると?」


 「リーコンに嘘をついて情報を開示させただろ」


 ああ、やっぱり覚えていたか。ガブリエルは苦々しげに頬を歪める。

 これまでの会話でだいぶ濁していたからもう忘れているのでは、と淡い期待を持っていたのだが。どうやらその期待は妄想でしたなかったようだ。


 「あれは、仕方なかったことで……」


 「言い訳で事実が変わるわけではない。それはお前もわかっているだろう?」  

 

 「……まぁ確かに」


 「懲戒処分は勘弁してやるが、給料はしょっぴいてやるからから覚悟しておけ」


 「……承知しました」


 力なく形ばかりの敬礼を送り、ガブリエルはレイモンドに背中を向ける。

 すると部屋に電気が戻り、レイモンドはブラインドをあげる。今度こそ話はおしまいのようだ。


 「電話の主。特定できたら連絡いただけますか」


 くるりと踵を返してガブリエルが言う。この約束をつけておくのをすっかり忘れていた。


 「ああ。だが、連絡するまでもないとは思うが」


 レイモンドはそう言うと、腕に巻いた時計を見る。すると、部屋の扉が叩かれた。


 「時間通りだ。入れ」


 レイモンドの言葉の後に扉はゆっくりと開かれる。部屋に入ってきたのは、ゼレカだ。

 何故彼女がここにいる。という疑問はガブリエルの頭には浮かんでこない。


 ゼレカは刑事部の中でも情報解析を担当する係に配属されている。もし解析が終了して彼女に持ってこさせたのであれば、何も不自然はない。


 現場働きとは打って変わって滅多にビルの外には出ないため、こうして面と向かって顔をあわせるのも、思えば久しぶりなきがする。最後にあったのはリュカと初めてあった日以来だろうか。


 ゼレカは血色の悪い顔をガブリエルに向けるが、特に言葉をかけてくることはしなかった。


 「電話は市内の公衆電話からかけられていました」


 「場所は?」


 「ガブリエルが訪れたアパートから、十メートルほど離れた場所からです。近くに防犯カメラがあったので一応は特定しましたけど、ご覧になられますか?」


 「ああ」


 レイモンドの返答にゼレカは小さく頷くと、腕に抱えていたタブレット端末を彼に差し出す。じっと目を落としてレイモンドはタブレットを眺めていたが、視線を外してガブリエルの方にタブレットを投げた。


 受け取った彼女はレイモンドと同様にタブレットに目を落とす。


 そこには人気のない寂れた通りが写っていた。


 道路はひび割れ空き家なのか入り口にいたが貼り付けられた建物が目立つ。人の姿もなく時折ビニール袋が風に舞って飛ばされていく。


 閑散とした光景だったが、そこを歩く一人の男に目がいった。


 襟を立てたトレンチコートにハンチング帽。まるであたりを気にするかのようにキョロキョロと様子を伺っている。

 いかにも怪しげな男だが、映像の中の男に職質をかけるなんて技術はないのだから、今は無意味な洞察だろう。


 男は住居の壁につけられた公衆電話の前に立つ。ポケットから小銭を何枚か取り出すと震える手で投入口に入れていく。


 垣間見えた手はどうやら義手。それも長い間変えていないものらしい。小指の関節がかけ、表面をカバーしていたメッキは剥げている。


 男は受話器を取り、番号を入力していく。それが終わると受話器とは別の手で紙を一枚取り出した。


 映像からは文面を読み取ることはできないが、男はチラチラとその紙を見ながらどこかへと電話をかけているらしい。


 映像の端には電子文字で午後一時十五分と表示されている。


 「部長、電話がかかってきたのはいつでしょうか?」 


 「午後一時十五分だ」


 時間はぴったり。どうやらこの男で間違いがなさそうだ。


 電話を終えると受話器を戻し、元の道を引き返していく。その時、カメラは男の顔を捉えた。


 首まで蓄えられたヒゲ。顔には汚れと思われる黒いシミがついている。薄汚いと言う言葉がピタリと合いそうな風体の男だった。


 「こいつを調べてきます」


 タブレットをゼレカに返すとガブリエルは今度こそ部屋を後にしようと踵を返す。


 「ゼレカも連れて行け」


 「……は?」


 だがレイモンドの提案によって、彼女の足はピタリと止まってしまった。


 「何故です」


 「お前の監視役だ。また無茶をされてはかなわんからな」


 「よろしく」


 クマの浮いたゼレカの目がガブリエルを見る。


 相変わらず考えていることが読めない。

 ガブリエルの知るゼレカなら面倒くさいとかいって断りそうなものなのに。まさか今頃になって点数稼ぎなんて真似をしているのだろうか。


 ゼレカの目をのぞいてみるが、曇った黒い瞳が見えるだけ。感情なんてものは分からないし、考えていることもやっぱり分からない。


 面倒くさいとガブリエルは髪をかく。こんなところで時間を食っているわけにはいかないし、ここは渋々であるが飲み込んでおくほかないだろう。


 レイモンドへの返事をせずにガブリエルは部屋を出る。彼女の後をゼレカの足音が追いかけてきた。

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