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5....

 リーコン社をでた俺とガブリエルは、車に乗り込み、駐車場を出る。


 得られた情報は限られていたが、けれど確実に進展はしている。


 男の名前と住所もわかった。今からは男、ラリー・ザモラの住むアパートへと向かう予定だ。


 名簿に書かれていたラリー・ザモアの住所は、エデンの中心から離れた郊外にある。


 高速道路で一時間ほど走らせて、下道におりて30分ほど。


 ガブリエルのアパートよりも遠く離れたその場所は、大きマンションの立ち並ぶ区画だ。


 道路の両脇にズラと並んだアパート群には、圧迫感と威圧感を覚える。


 車は路肩に止め、車を降りる。マンション群は高台に建てられており、そこへ向かうためには階段を上がらなくてはならない。


 階段の両側にはコンクリートでできた石垣があり、階段の中央にはさびた手すりがそなえつけられている。


 ガブリエルが先を行って、俺はその後をおう。階段は数段ごとに踊り場のような広い段が設けられていて、あげる足を少しだけ楽にさせてくれる。


 でも、中身は30を超えていても体は10代のそれ。疲れを感じることなく、膝に痛みを覚えることなく登り続ける。


 マンションの横壁には落書きやら広告のチラシやらが貼られている。


 遠くで見たときは建物の大きさに圧倒されていたけれど、近づいてみれば痛んでいるところが目立った。


 高層階からは枯れたシダが壁にそって垂れていて、外壁の塗装はところどころ剥がれ落ちている。


 ベランダも各部屋についているんだけど、洗濯物や観葉植物とか生活の色はない。


 あるのは枯れた植物に何やら投げ込まれたゴミばかり。とても人が生活をしているような雰囲気はなかった。


 俺たちが向かったのは、マンション群の東側。壁に薄く13と書かれたマンションだ。


 6階へ向かい、通路を進み階段から3部屋すぎると目的の部屋にたどり着いた。


 ガブリエルは手袋をつけたまま、インターホンを押す。


 ドアの奥から小さく呼び出し音が聞こえてくる。しかし、人の足音や物音はしない。どうやら留守のようだ。


 「入るぞ」


 「鍵はあるんですか」


 「ない。ないが、問題はないさ」


 ガブリエルはほくそ笑むと、義手の方でドアノブをしっかりと掴む。


 そして、徐々にノブを回転させていく。本来ならそんなことでドアは開くものじゃない。しっかりと施錠を施されていたら、なおさらだ。


 だが、ガブリエルの義手に握られたノブは、甲高い悲鳴をあげながら、彼女のひねる方向へとひねられていく。


 そして、盛大な音を立てて、ドアが開いた。


 というよりもほとんど大破したと言ってもいいかもしれない。


 ドアノブはそっくりそのまま取れてしまったし、ドア全体に大きなヒビができてしまった。


 「ほら、開いたぞ」


 悪びれもせず、ガブリエルはドアノブを掲げ持ったまま言った。


 「開いたっていうか、壊しましたよね」 


 「壊してはいない。このドアが勝手に壊れたんだ」


 ガブリエルは堂々とめちゃくちゃなことを言った。


 ここまでガブリエルがまともな人だと思っていたけど、それも少し改めないといけないかもしれない。


 もはや意味のなくなったドアノブは、通路に投げ落とされる。


 カランと乾いた音がなる。しかし、それも俺とガブリエルの靴音でかき消されてしまった。


 玄関を入ってすぐ右には靴箱があるが、そこには一足の靴もなくガランとしている。


 目もくれず細い通路を進みリビングへ。

 

 テーブルもテレビも、ソファも何もない。ガランとした部屋。


 質素を通り越して、もはや人が住んでいないのかとも思ってしまう有様だ。


 リビングに入って右手にはキッチンがあるが、そこにも冷蔵庫やレンジといた類のものはない。


 生活の跡そのものがない。しかし、実際ラリーという男の住所はここになっている。


 ガブリエルは他の部屋やクローゼットの中も調べてみるが、やはり人の痕跡は見当たらなかった。


 「こいつは、ダミーをつかまされたか」


 「ダミー?」 


 「偽の住所だ。名前だけここを使い、実際にここではないどこかに住んでいる。いや、住所だけじゃない。そもそも名前も偽られているかもしれないな。こりゃあ、一筋縄ではいかない」


 ポリポリと頭をかいて 、ガブリエルが面倒臭そうにいった。


 「ああ、くそ。全部一から調べ直しだな。何もないとわかった以上、ここに長々といる意味もない。リュカ坊、いくぞ」


 「は、はい」


 ガブリエルは早々に来た道へ引き返していく。俺もすぐに彼女の後を追ったが、何かの物音が聞こえて来た。


 「待ってください」 


 俺は思わずガブリエルを呼び止める。


 「どうかしたか」


 ガブリエルは玄関に半分足を出していたけど、俺の声を聞きつけて、すぐに戻って来てくれる。


 「何か聞こえませんか?」 


 「……? 何も聞こえないが」


 「シッ」


 俺は人差し指を唇の前に立たせて、ガブリエルの言葉を封じる。


 そうしなければ、このかすかな物音を聞き逃しそうだったから。


 その音はリビングの中から聞こえてくる。


 注意深く音を追っていくと、どうやら俺の足元からその音が聞こえているらしい。


 フローリングの床を目で追っていくと、一箇所だけ、他と比べて新しいように見えた。


 俺は新しい床と古い床の境に爪を差し込み、切り裂いていく。


 たとえ人間のなりをしていても、ドラゴンの爪は固く、この程度のものであれば容易に斬り裂ける。


 四角く切り裂いた後、床を持ち上げてみる。


 そこには緩衝材がしきつめられていて、中心に透明のプラスチックボックスがはめ込まれていた。


 それだけならただの箱が詰められていた。ということですまされたのだが、問題だったのは、箱の中身だ。


 赤や青、黒といった色とりどりの線が金属の物体に接続されていた。


 金属の近くには白い粘土状の固形物がある。


 それに何より目についたのは赤く数字が表示されたパネル。


 パネルは刻々と数を刻み、赤いランプが点灯している。


 「爆弾……!?」


 そう思った時には俺の体は瞬時に動いた。


 解除なんてできないし、投げるなんてもってのほかだ。


 だから、俺はガブリエルの体を持ち上げて、全力をもってその部屋を走りでた。 


 「お、おい……! 下ろせ!」


 肩に担いだガブリエルから、要望が聞こえてくる。


 が、それを叶えるのはもう少し安全なところにでてからだろう。


 部屋を出て通路の欄干に足をかけて踏み込む。


 すると俺とガブリエルの体は宙に投げ出される。


 その途端。耳をつんざく爆裂音がマンションに轟いた。


 轟音とともに先ほどまでいた部屋は木っ端微塵い吹き飛び、外壁や鉄骨が飛ばされていく。


 それに何より、強烈な風と熱が背後から追いかけてくる。炎の熱とはまた違う、異様な熱さ。


 瞬間的に襲って来る熱から、逃れるべく、重力にしたがって落下していく。


 俺はガブリエルを担ぎながらも、どうにか態勢を整えて、腕にモヤを纏わせる。


 片腕でどうにかバランスを保つ。そして地面が近づいて来た瞬間、足を踏ん張り、ガブリエルを抱えながら着地を決める。


 足が痺れて痛むが、じっとしているわけにはいかない。


 上からは今も外壁が降ってくるし、ここにいれば下敷きになることは間違いがない。


 さらに足に力を込めて、地面を蹴る。


 先ほどまで、俺がいた場所には外壁が落下して、盛大に土煙を舞い上げた。 


 どうにか落ち着けるところまで来た時、ようやく胸をなでおろす。


 「おい、いい加減下ろせ」


 ガブリエルのからの文句が聞こえて来る。


 「ああ、すみません」


 俺は慌てながら、そして丁寧にガブリエルを肩から下ろす。


 「全く、そんな馬鹿力を隠し持っていたとはな」 


ガブリエルはそんなことを言いながら、服についたホコリを払う。


 「まぁ、それもドラゴンの血によるものなんだろ。助かったよ。怪我はないか?」 


 「ええ。大丈夫です。でも……」


 俺はガブリエルから、炎上するマンションの部屋に視線を向ける。


 「防犯のために仕掛けていたのか、それとも どこかで見ていて爆弾のスイッチを入れたのか。どちらにしても、ここに長居はできないな。どこに犯人たちの目が光っているかわかったものじゃない。消防に連絡しておいて、早い所ここを離れるぞ」


 ガブリエルはそういって、早足でその場を離れていく。


 俺もすぐにその後をおうが、初めて聞いた爆発音がいつまでも耳の中に残っていた。

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