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ファイルを開いてみれば、箇条書きに名前と住所。それに顔写真が書かれている。
一つのページに5人の社員が並んでいる。年齢もバラバラで読み仮名順に若い方から古い方という順番の並びだ。
だが社員の一人一人を詳しく見ていく必要はない。顔写真を斜めよみにしてどんどんとページをめくっていく。
一つ目のファイルを読み終わり、次のファイルを手に取る。
そして、それも読み終われば、その次のファイルへ。
分厚さと量もあってそこそこの時間もとったが、それでもこのファイルたちの中にあの男の影があるのだと、目を皿にして読み続ける。
ガブリエルの方に気が回ることはなかったけれど、ちらと横目に見たときに、俺と同じようにページを繰っていた。
特徴は事前に伝えていたし、きっと探してくれているんだろうと思う。
時間がどれほど経ったのかはわからない。それぐらい集中していたんだと思う。
「……いた」
ガブリエルの口から待望の言葉が聞こえてきた。
「どれです?」
俺はファイルを閉じて、ガブリエルの脇から彼女の持つファイルを覗く。
そこには5人の男女の顔が並んでいる。その中にあの男の顔がいた。
「名前は、ラリー・ザモア。南出身。今は、エデンのアパートに居住。年齢38」
項目に書かれた文言を、ガブリエルがつらつらと呼んで行く。
表紙を見ると、警備部門と書かれていた。
「警備部門か。まぁ表向きそうなっているんだろうが、ただの警備員が森の中でドラゴン狩りをするはずもねぇ」
ガブリエルはスマホで写真を撮ると、ファイルをそっと閉じる。
「これで用はすんだな。早いとこ、ここを立ち去ろうじゃないか」
そういうとガブリエルは立ち上がって、部屋の扉を叩く。
「終わりましたか」
アンドロイドが扉を開けざまに言う。
「ああ、資料をありがとう。戻しておいてくれ」
「かしこまりました」
アンドロイドはガブリエルにぺこりと頭を下げると、カートを連れて円卓へと近寄ってくる。
「坊や、お父さんは見つかった?」
「うん」
「そう。よかったわね」
アンドロイドは目を細めて、微笑みかけてくれる。子供という見た目から、やはり大人たちも含め、対応が優しい。
変に怪しまれないということといい、子供という見た目の少ない利点の一つだろう。
手早くファイルをカートに乗せていき、バランスをとる。
円卓に広げられていたファイルの数々は、ものの数分程度ですべて カートの上に積み重ねられた。
「如何いたしますか。この子の父親にお会いになりますか」
アンドロイドは体をガブリエルに向けて言う。
「いいや。今日はこのまま帰ることにするよ。今度この子の母親との間で面談を持たせる。その折には、また協力してもらかもしれない」
「かしこまりました。では、そのようにいたしましょう。男性の方には、そのことをお伝えした方がよろしいでしょうか?」
「いや、こちらか連絡は入れる。それには及ばないさ」
「かしこまりました」
アンドロイドはガブリエルの言葉を了承し、カートとともに部屋を後にする。
しかし、その途中カートの一番上に置かれたファイルが、動いた振動で下に落ちてしまった。
パサリと背中からファイルが落ちて、はらりとページが開く。
アンドロイドはかがんでファイルを拾い上げようとする。
「あら……?」
アンドロイドの声だ。
「どうかしましたか?」
俺は何かあったのかと、気になって聞いてみる。けれどアンドロイドは首を軽く振った。
「いえ、なんでもありません。お気になさらずに」
そういうわりには、しきりにページをめくり、何かを探している。
無機質なその顔にも、焦りというものが浮かんでいるようにも見えた。
「あの……。失礼かもしれませんが、お二人はページを破いたりはしませんでしたか?」
「そんなことをした覚えは……」
俺はちらりとガブリエルを見る。彼女もまた身に覚えがないようで、肩をすくめながら首を振った。
「ページがどうかしたのか」
ガブリエルはアンドロイドに聞く。
「一ページだけないようなのです」
「どのファイルだ」
「殉職者のファイルです」
そんなファイルがあったのか。全てのファイルを見る前にガブリエルが見つけていたから、気づかなかった。
「殉職者?この企業に殉職なんてものがあったのか」
「ドラゴンに関する研究も犠牲はつきものですから。研究当初はドラゴンの生態を知るために色々と無茶をしていたのです。そのせいで幾人もの研究者が犠牲になりました。彼らの犠牲を忘れぬように、慰霊碑とともにこうして名前を残して保存しております」
「なるほど。必要なら、自警団でも調べてみるが。どうする」
「ありがとうございます。もし、見つからなかった場合には、お願いいたします。亡くなったとはいえど、個人の情報を漏洩してはリーコンの名を貶めてしまいますから」