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3....

 翌日。朝食を済ませたあと、早速ガブリエルの車に乗り込んで、リーコン社へと向かった。


 今日の目的は、ガブリエルの顔を肩書きを使って、リーコン・ロジステックスの従業員名簿を手に入れること。


 昨日、男の顔は間違いなく見たけど、もしかすれば見間違いという可能性もないこともない。


 名簿には大抵顔写真と住所氏名に性別などなど。種類にはよるが、社員についてのプロフィールが書かれているはず。ならば顔と名前を確認ついでに確かめればいい。


 渋滞も少ない時間帯。車の通行はスムーズで、予定よりも早くリーコン社の前に到着した。


 駐車場に車を止めて、ガブリエルと俺は会社の中へと入っていく。


 「ここで待っていろ」


 フロアの中にあるベンチを指差して、ガブリエルが言う。


 どうしてだと俺が問う前に、彼女はスタスタと受付の方へ歩いていく。


 もちろんついて行こうとしたけど、ガブリエルは来るなと言わんばかりににらんできた。


 それまで見たことのないガブリエルの鋭い目つきに、俺はその場にたちすくんだまま、動けなくなった。


 俺が動かないのを見て、ガブリエルは満足したらしい。俺から視線をきって、そのまま受付にむかっていく。


 ガブリエルが遠ざかっていくことで、緊張も次第にとけていく。


 けれど、彼女の後を追って同じ目にあうのは嫌だと、その場でガブリエルの背中を追っていく。


 ガブリエルは受付の前に立つと、アンドロイドと何やら話し始める。


 俺の場所からでは話の内容まではわからないけれど、アンドロイドは相槌を打ちながら、時折俺の方に視線を向けてくる。


 十分ほどガブリエルが受付で粘っていると、アンドロイドはこくりとうなずいて、エレベーターの方を手でさした。


 ガブリエルはこくりと頷くと、俺の方へ戻ってきた。


 「名簿、見せてくれるってさ」


 その言葉を俺の求めていたものだった。


 「受付のひとになんて言ったんですか」


 「失踪した父親がここにいたのを、昨日お前が見かけた。本物かどうか知りたいから、ここの名簿は見て欲しい。母親からの申し出があって調査に来た。どうか、協力して欲しい。……要約すればしたらこんな感じだ」


 なるほど、だからアンドロイドが俺をみたわけか。


 さしさわりのない、かといって嘘っぽくも聞こえない嘘。


 それに加えてガブリエルの肩書きを見せられれば、真実味は増すだろう。


 嘘を使ってということに、少し後ろめたさは感じるけれど、背に腹はかえられない。


 ガブリエルの後に続いて、エレベーターに乗り込む。


 指定された階は60階。ぐんぐんと登り、パネルの数字がみるみると加算されていく。


 ものの数分で60階にたどり着き、自動扉が開かれる。


 エレベーターフロアの床にはグレーの絨毯が敷かれ、壁は緑の下地にツタと葉っぱが描かれた壁紙で統一されている。


 エレベーターの正面には通路が伸びていて、通路の奥には両開きの扉があった。


 ガブリエルは迷うことなくそちらに向かい、扉に手をかけて開く。


 中は広々とした部屋になっている。大きな円卓が部屋の中央に据えられ、机の縁にそうように椅子がずらりと並んでいる。


 椅子のどれもが革張りで、素人目でも高そうだという印象を持った。


 けれど、そんな感想も、目の前に広がる景色に全て奪われる。


 一枚ガラスの大きな窓。そこからはエデンの街並みが一望できた。


 ビルの窓から飛び出す広告。


 ビルの間を進むモノレール。


 凸凹とし高さの違う街の建物。


 ヘリの中からとは違う、高所からの風景に、俺は思わず息を飲んでしまった。


 窓辺によって恐る恐る下を覗いてみる。


 そこには豆粒ほどの人間とアンドロイドが通りを歩く姿があった。


 窓はちょうどビルの正面を見ているようで、下から見上げた時に見えた展望台は、どうやらこの部屋のようだ。


 「名簿は運んでいくから、ここで待っていろってさ」


 ガブリエルの声が後ろから聞こえてくる。


 目をそっちに向けると、どかっと椅子に座り、足をドカッとテーブルの上に投げ出していた。


 「行儀が悪いんじゃないですか。それは」


 「反面教師ってやつだ。私はこうするが、お前はこうなるんじゃないぞ」

 

 両腕を組んで後頭部にまわし、背もたれ深くに体を預ける。


 「もうしばらくすれば持ってくるはずだ。それまでゆっくり待とうじゃないか」


 それにしたって、くつろぎすぎじゃないか。とか考えていると、扉からノック音が聞こえてくる。


 「どうぞ」


 部屋の主人になったかのように、ガブリエルが扉に向けて言葉を放つ。


 「失礼します」


 扉から入ってきたのは、アンドロイドと資料を乗せたカートが一台。


 アンドロイドが部屋の中に進んでいくと、その後ろからカートが自動的に後を追っていく。


 ロボットか何かだとは思うけど、わざわざ訪ねるのも面倒だし、そんな目的でここを訪れたわけではない。


 窓辺から離れて、ガブリエルの隣の席に腰をすえる。


 カートには20を超えるバインダーファイルが乗せられていた。

 

 アンドロイドはカートから手にとって、ガブリエルの前に積み重ねていく。


 「こちらが全従業員の名簿になります。表面にはそれぞれの部署が書かれていますので、判別にお使いください。……坊やのお父さんが見つかるといいわね」


 アンドロイドが俺に視線を向けて、そう言ってくる。俺は軽く会釈をしたくらいで、変に表情をかえることはなかった。


 変に動揺とか、言葉を使って怪しまれるわけにはいかない。


 資料を全てテーブルに置くと、「外でお待ちしております」と言って部屋を出ていく。


 「さて、やるかね」


 ガブリエルは足を下ろして、背筋を伸ばし、早速資料の一つを手に取る。


 俺も彼女に続いて、目の前に積まれた資料を読みにかかった。

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