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2....

 ガブリエルと夕食を共にした後、早々に部屋に戻って再び作戦をねる。


 実際見た目が子供というのは、得にはならない。


 映画館とか、アミューズメントパークとかの割引があるくらいで、何かの情報を聞き出すのには苦労するだろう。

 

 まぁ、大人になったからと言って、信用をえるなり証拠を握るなりしなければ、確信的な情報なんて得られないんだろうけど。


 なんの肩書きもない。強いて言えばドラゴンと人とのハーフという物珍しい血筋と、人並み外れた身体能力を持っているだけ。


 財産なんてものはなく、また住所も森という、いかにも怪しげな所在地だ。


 どれだけいい子ぶっても、信用を得るのは難しいだろう。


 「……だめだ。こりゃ」


 ベッドに体を投げ出して、天井をあおぐ。


 白い天井に吊るされた豆電球。オレンジ色の光を放ち、部屋の中を暖かな暖色で包み込んでいる。


 昼間の衝撃と興奮からか、眠気が一向にやってこない。


 夜中は車の通りもなく、アパートの周辺も随分と静かなものだ。


 だからか、神経が研ぎ澄まされて、あらぬ考えが浮かんでくる。


 そのどれもがアリョーシに関するものばかりで、なおかつ後ろ向きなことだらけ。


 今頃殴られているんじゃないか。


 いじめらえているんじゃないか。


 何か下世話なことを強いられているんじゃないか。


 考えただけで気分が悪いし、ふつふつと怒りが湧いてくる。


 もし、そんな目にアリョーシを合わせていたら、必ずそいつらを……。


 「リュカ坊、もう寝たか」


 どす黒い感情がふつふつと湧き始めた時、扉の向こう側からガブリエルの声が聞こえた。


 「いえ、起きてます」


 俺がそう返事をすると、扉はゆっくりと開かれて、ガブリエルが中に入ってきた。


 シャワーを浴び終えたのか、紺のジャージをきて、首にはタオルをかけている。


 「なんだ、その。悪かったな」


 「何が?」 


 「アマンダにお前の素性を調べられたことだ。私が強く止めてれば、変に探られることもなかっただろう」


 「いや、別に俺は気にしてないですけど」


 「そうか、なら、いいんだが……」


 ガブリエルはポリポリとほほ掻きながら、取り繕うようにほほをゆがめる。


 ただそれだけを言うために、部屋に来たんだろうか。


 夕食の時もどこか俺によそよそしくて、会話もあまりなかった。


 元から夕食の時は静かなものだけど、今日はどこか遠慮がちだった印象がある。


 「他に、何かあるんですか?」


 「……リュカ坊は、本当にドラゴンの子供なのか?」 


 「そうですけど、アマンダさんから聞いたんでしょ?何を今更」


 「ああ、いや。その、なんだ。いまだにアマンダの言葉が信じられなくてな」


 「これなら、信じてもらえますか」


 そう言って、俺は腕にモヤを宿させる。


 もう慣れたものだけど、これを初めて目にしたガブリエルは、目を丸くして俺の腕をみていた。


 「……こいつは、驚いた」


 ガブリエルはそう言いながら、俺の方に近寄ってくる。


 そして、モヤを浮かべた俺の腕をしげしげと眺め始める。


 「触っても大丈夫ですよ」


 「そ、そうか」


 ガブリエルは恐る恐る俺の腕に手を伸ばす。彼女の指が俺の腕をつついてなでる。


 「大丈夫でしょう?」


 「ああ、不思議なものだ。これもドラゴンの力か」


 「俺はそう教わりました」


 散々ガブリエルに腕を触られて、少しくすぐったくなってきた。俺はモヤを腕から消して、膝の上に下ろす。


 「これで、俺がドラゴンの子だって信じてくれましたか?」


 「……少なくとも、人間じゃねぇことは分かったよ」


 興奮を冷ますように、ガブリエルは深く息を吐き出す。


 「ドラゴンの姿には、変われないんだったか?」 


 「ええ。残念ながら」


 「そうか。色々と事情があるんだろう。深くは聞かんさ」


 ガブリエルはそういうと、俺の隣に腰を下ろす。


 「なぜ、教えてくれなかった」


 「別に、聞かれなかったから。話さなくてもいいかと思ってました」


 「……そうか」


 俺の答えにふっと頬を歪めて、ガブリエルは笑う。


 「森生まれというのも、これでようやく合点がいったな。ドラゴンが街で暮らすわけがねぇ」


 「まぁ、そうですね」


 アリョーシは昔この街で暮らしていたことがあったらしいけれど、それは言わないでおこう。


 アリョーシのことを余計に話して、興味を持たれたりしても面倒だ。


 「アマンダから、お前が捜査に関与しないよう見張ってくれと頼まれた」


 「そう、なんですか」


 どきりとした。


 なるべく顔を変えないように気をつけたけれど、もしかしたら驚きが顔に出ていたかもしれない。


 幸い、ガブリエルは俺の方を見てはいなかったから、きっと気づかれてはいないと思う。


 アマンダから告げ口をするなんて、やけに入念だ。いつもガブリエルの目が光ってちゃ、勝手はできない。


 「アマンダの心配も無理はないだろう。お前が勝手をして、危険な目にあうのを嫌っているんだ」


 「邪魔されたくないんでしょうね」


 「それもあるが、一番は心配だろう。下手に怪我をされても困る」


 「でも、怪我を恐れてちゃ、助けられるものも、助けられません」


 「それもそうかもしれないが、体をはるのは自警団(私たち)の役目だ。子供(ガキ)がわざわざ(タッパ)をはる必要はねぇ。親御さんに傷物の体を見せてぇのか?」


 「戻ってこなければ、それもできないですよ」


 「まぁ、確かにそうだな」


 ガブリエルは面倒臭そうに髪をかいて、ため息を一つもらす。


 「……本当なら、私がお前を説得するところだが、そういうのは、私は得意じゃない。殴って説き伏せられるんなら、それをしてやってもいいが、ガキをなぶる趣味もねぇ」


 ガブリエルの言葉に少し背筋がぞっとする。


 もしあの義手でぶん殴られたら。そう考えただけで冷や汗が出てくる。


 「アマンダは私にお前を見張っていろとは言った。だが、お前の行動を制限しろとは言わなかった」


 「……えっ?」


 「私の目が光っている限りは、お前を見張っていることになるし。なんなら私とともにリーコン社にかちこみかけたとしても、それは見張っていることになる」


 「それって、捜査に加えてくれるってことですか?」 


 「いいや。私はお前の監視を任されて、捜査からは外されてるからそれはできない。たとえ参加していても、民間人を捜査に加えるわけにはいかない」


 肩をすくめながら、ガブリエルは言った。やっぱりそう簡単に中を見せるわけがないか。


 わかりきっていたことだけど、ガブリエルの物言いに少しだけ期待してしまった。


 「部屋でずっとお前を縛り付けてるのも、それをじっと見てんのもつまらねぇし。ましてや隙をみて、お前が部屋から抜け出してしまうことの方が面倒だしな。まぁ、暇ついでにリュカ坊に付き合ってやる。私の肩書きも存分に使ってやってくれ」


 「……ありがとうございます」


 「感謝される覚えはないさ」


 そう言うと、ガブリエルは立ち上がり、部屋をでる。


 「今日はもう寝ろ。明日には早速リーコンに調査に向かおう。アマンダ達が来る前に、調べないと変に絡まれる」


 「そうですね。よろしくお願いします」


 俺はベッドに座りながら、ガブリエルに軽く頭を下げる。


 「よせよ。もう寝ろ」


 ガブリエルがどんな顔をしているのかわからなかった。彼女の言葉の後、扉の閉まる音が聞こえてきた。


 俺は顔を上げて、ガブリエルの消えた扉を見た。


 願ってもない助力に感謝をするが、その反面でどこへなりともガブリエルがつきまとうことになる。


 気にしなければいつも変わらないけれど、監視という名前がつけばそれはいつもとは大きく変わる。


 日常にあって非日常になる。


 けれど、ガブリエルの肩書きは魅力的だ。彼女を存分に使えるのであれば、子供でありながら、情報を手に入れることができるだろう。


 考えを巡らせるのは、一旦終わりにしよう。あとのことは明日になってから考えればいい。


 俺は毛布を被りベッドに横になる。頭の中をからにして目を閉じれば、闇が俺を飲み込んで、深い眠りへと誘ってくれた。

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