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4.

 ドラゴンの名前はアリョーシ。彼らの言葉で春風という意味の言葉なのだそうだ。ドラゴンには火竜、水龍、土龍、風龍の四種族がいて、それぞれに関わり合いにならないように、互いに牽制しあって争いにならないようにしている。彼女の口から聞かされる常識は、まるで物語みたいだった。心踊らせ、夢中になって彼女の言葉に耳を傾ける。


 でも、最初から言葉が理解できたわけじゃない。日本語ともまた英語とも違う奇妙な言語が、俺の前に立ちはだかった。それでも持ち前の根気と、子供ながらの柔軟な脳みそをフルに使って、どうにかこうにか耳で聞いて、話すくらいはできるようになった。


「リュカ、ちょっとこっちにいらっしゃい」


 アリョーシが俺を呼んだ。リュカ、というのは俺の名前だ。意味は確か、北風とかそういう意味なんだそうだ。


「なに?」


「外に出てみる気、ある?」


 突然の提案だった。「えっ?」と言ったきりその場で固まってしまう。


「あなたももう立派に大きくなったし、そろそろ外に出てみるのもいいかと思って。気分が乗らないのなら、別にいいのよ。焦るようなことでもないから。どう? 行ってみる?」


「生きたいけど、何をするの?」


「それは言ってみてからのお楽しみ。大丈夫、そんなに危険なことじゃないわ。生きていくために、いずれは通らなくちゃならない道だから」


 そう言って詳しいことは教えてはくれなかった。アリョーシのことだから嘘を言っているわけじゃないだろう、とは思う。なんにせよこんな土と岩しかない洞窟にも飽きていたところだし、何より新鮮な空気を吸って、この世界というものを目にしたてみたかった。


「うん、行くよ。連れて行って」


「背中に乗りなさい。振り落とされないようにしっかり捕まっているのよ」


 そういうと、アリョーシはドラゴンの姿に変身して、俺を背中に乗せてくれる。うろこから突き出た突起にしっかりと捕まると、大きな翼がはためいて、ゆっくりと上昇を始めた。天井に開いた大きな穴。アリョーシはそこに顔を向けて、一気に飛び立つ。


 向かい風は凄まじく、急激な上昇に俺は必死で耐えていた。手を離せば無事では済まない。両手につからを込めて、か細い手を使ってしがみついた。


 ふっと、坂道をもうスピードで駆け上がった後に来る、あのふわっとした感覚。それを抜けるとさっきまでの風の勢いが嘘みたいになくなった。


 目を開く。飛び込んできたのは、まばゆいばかりの青と緑だった。

 広大な青空の下に、緑色の大地が広がっている。鳥たちがすぐ隣で列を作って飛んでいた。土の匂いのしない、爽やかな風が頬を撫で、肺いっぱいに入ってくる。


 そこには自然があった。大地があった。空があり、雲がある。そのありふれた自然なのだけど、それをみた時、なぜか心地のいい安心感が俺の心に浮かんでいた。

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