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6...

 参加者は俺とアマンダを入れて、見た限り15人ほど。それも親子連れがほとんどで、子供達が浮き足立っている。


 俺はチケットを握りしめ、受付のアンドロイドに渡す。


 すると、アンドロイドは俺を覚えていたようで、


 「昨日の坊やね。今日は楽しんでいってね」 


 なんて声をかけてくれる。


 チケットの半券を受け取りながら、俺は軽い会釈をアンドロイドに返す。


 そして、人の流れに合わせてエレベーターに乗り込んだ。


 アマンダは俺の隣に立って、他の大人たちにぶつからないように引き寄せてくれる。


 おかげでギュウギュウ詰めになったけれど、けられる心配はなかった。


 エレベーターの扉が閉まると、ツアー客を乗せて下へと降りていく。


 1を示していた電光パネルはマイナス表示に代わり、1、2と階数を刻んでいく。


 そして−8まで来た時、静かに停止し自動扉が静かにひらかれる。


 目の前で出迎えてくれたのは、大きな翼を広げたドラゴンの模型だ。


 赤黒い鱗。両足に生えた鋭い爪。大きく開かれた口の中には牙が光っている。

 

 獲物に今に飛びかかろうとするさまを躍動感たっぷりに表現されている。


 「みなさま、フロア中央へお集まりください」


 あらかじめ待機していたアンドロイドが、エレベーターを降りた参加者たちへ声をかけてくる。


 アンドロイドの言葉にしたがって、参加者たちはフロアの中央へと進んでいく。


 「今日はツアーに参加していただき、まことにありがとうございます。私、P-530S。『マリア』と申します。ツアー中ご不明な点がございましたら、私にお声をかけてください」


 マリアの名乗るアンドロイドはそういうと深々と頭を下げる。


 「つきましては、これから皆様にこのタグを配布させていただきます。これはツアー参加者であることを証明するものとなっていますので、くれぐれもなくさぬようにお願いいたします」


 マリアの言葉の後、束になったタグを一つ一つ配っていく。俺の手元にもタグがきた。


 表面には番号とともに『ツアー中』という文字が印字されている。俺の番号は12。ケツから数える方が早い。


 タグの裏にはピンがついていて、服のところに引っ掛けられるようになっている。


 俺は胸ポケットの硬い部分にピンをつけて、タグを引っ掛ける。


 「では、タグをつけられた方から私について来てください」


 手を上げて、マリアは廊下へ進んでいく。その後を追って、参加者たちはゆっくりと歩き始めた。


 俺もそのあとに続こう足を踏み出す。


 と、背後でエレベーターの開く音が聞こえたから、何気なくそっちを見た。


 そこには、どういうわけかエレベーターに乗り込むアマンダの姿があった。


 「アマンダさん、どこいくんですか?」


 「調査よ、調査。リュカ君はそのままツアーを楽しんで来なさい」


 じゃあねと軽く手を振ると、アマンダを乗せたエレベーターは動き出してしまう。


 止めようかとも思ったけれど、アマンダはツアーよりも頭はドラゴン(アリョーシ)の密漁にかんしての調査に傾いている。ここはアマンダに任せておいても大丈夫だろう。


 「坊や、どうしたの?」


 俺がエレベーターの前に突っ立っていると、心配したスタッフの女性が俺に声をかけて来た


 「あ、いえ。なんでもありません」 


 「そう。迷子なるといけないから、私についてきて」


 「はい」


 いつまでもここにいても仕方がないと、俺は女性に先導を任せて廊下を進むことにした。


 LEDのライトが天井から降り注ぎ、白い光が廊下を明るく照らしている。


 両側は黄土色の壁で、細長い胴体の龍の絵が延々と続いている。


 両側にはスライド式の扉が並んでいる。


 女性はそれらの扉へは目を向けることなく、黙々と廊下を進んでいく。


 ツアーの参加者は、左側にできた大きなガラス窓のそばに立っていた。


 皆んなガラスの向こう側を夢中で見ている。俺が到着したことにも気がついていない様子だ。


 「ほら、君も見てみなさい」


 そう言って女性は俺をガラス窓の近くへ誘う。


 女性の誘いを受けて、窓際によってガラスの向こう側をのぞいてみる。


 そこは研究施設のようだ。


 広々とした室内には、白衣を着て口にはマスクをつけた男女が行き来している。


 仕事中のようでタブレット片手に何やら話し込んでいたり、またデスクに向かって何かを打ち込んでいたりとせわしない。


 なんについての研究をしているのか。それは部屋の壁に並んだ容器の中を見ればすぐにわかった。


 透明なガラス容器が部屋に5つ。その中には巨大な卵が置いてある。


 ダチョウよりもう少し大きいくらいだろうか。


 研究者たちは卵を見て、タブレットに書き込んだり。また、時には容器の中から取り出して卵を触診してみたりと、しきりに卵の状態を確かめている。


 「ここはドラゴンの人口孵化室になります」


 マリアが言う。


 リーコンの社長さんが言っていた、ドラゴンの人工生育。それはこの部屋から始まっているらしい。


 子どもたちのように、ガラスにへばりついて中を見るわけではなかったけれど、それでも夢中になって部屋の隅々を目でおった。


 「人口受精の方法は未だ確立された段階ではありませんので、詳しくお伝えすることができません」


 「こうして卵があるのだから、確立されたとは言えないのかね」

 

 マリアの言葉に、一人の男性が質問をする。


 「成功はしました。しかし、それが他の龍種でも成功するかは、まだ実験できておりません。ここにいる卵たちは、全て火龍種の卵です。ご存知かもわかりませんが、ドラゴンには火龍の他にも、水龍、土龍、風龍と種族種がおります。それらすべての生育の方法は同一ではなく、また受精の条件、環境による飼育の変化。まだまだ多くの問題があるのです。今は研究者一同、この問題に着手しているところです」

 

 「ほぉ。それは頼もしいな」

 

 感服するように、男性はため息とともにそう言った。本当のところは、マリアの言っていることが理解できていないんじゃないかと、俺は個人的に思う。知ったかぶって、さも知的ですよと言いたげな見栄っ張り。そんなところが人間の男にはある。


 「この卵はいつかえるの?」


 「名前はなんていうの」


 「男の子、それとも女の子?」


 ガラス窓にへばりついた子供達が、次々にマリアに向かって質問を投げる。


 「ドラゴンの卵は不定期で、一ヶ月ほどでかえるものもあれば、数年、あるいは数百年とかかるものもあります。ですから、一概にこの時期にかえると言い切るには難しいですね。名前ですが、残念ながら名前はありません。よかったら、あなたたちがつけてあげてください。オスもメスもいます。今並んでいる容器の中では、左から3つまでがオス。残り二つがメスになります」


 いっせいに投げられた質問に、マリアは一つずつ丁寧に答えてくれる。人間だったら順番にとか言って整理したがるが、そこはさすがアンドロイドといったところだろうか。


 「卵の親は、どこにいるんですか」


 俺も子供に混じって、そう聞いてみる。


 「これから会えますよ。では、次の場所へ参りますのでついて来てください」


 時間を置いたあとにマリアはそう言うと、再び廊下を進んでいく。


 それにしたがって大人たちは子どもを連れて歩き出す。子どもたちはしきりに後ろを振り返って、ガラスの向こうの卵を見ようとしていた。


 けれど、やはり大人の力に勝てるはずもなく、引きずられながら先へと進んでいく。


 俺も彼らの後を追って、廊下を進んだ。

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