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16..

 車に乗りこみ、アマンダは再び道路を走って行く。


 「お昼にしましょうか」


 アマンダはそう言ったきり、どこへ向かうとも教えてくれなかった。俺の知らない道をひた走って、どこともしれない場所に向かって行く。


 不安はなかったけれど、せめて場所を教えてくれてもいいのに。なんて思ったりもしていた。けれど、窓を流れる景色に見とれているうちに、そんなことも忘れてしまった。


 エデンの発展した街並みから、下町のような古くもいい雰囲気の街並みに移り変わっていく。


 コンクリで作られた灰色の建物が並び、軒先からは看板が顔をだしている。


 電飾をこれでもかと盛り込んだものや、シンプルに布に文字で店名をもの。時計が組み込まれたものまで。店の色を出したさまざまな看板が並んでいる。


 また、建物から建物へ橋渡しにたるんだロープがいくつも渡されている。車輪をつけた人形が旗を振りながらロープの上を進んでいく。


 車を駐車場に止め、いざ歩いてみると、より雰囲気を堪能できた。


 並ぶ建物は飲食店が多いようで、店と店が向かい合い、その間に人々の歩く広い歩道が伸びている。


 店構えも車の中から見えた以上に様々なものがあった。ショーウィンドウには麺類からごはんもののメニューが並び、中には豚の丸焼きなどなかなかワイルドな料理のサンプルも展示されている。


 また、見たこともないツノの生えた魚の活け造りや、目が沢山ついたトカゲの天日干しなど、なんだかよくわからない生き物を扱っている店もあった。


 俺は店構えに目移りしながら、アマンダに手を引かれてとある店の中にはった。


 そこは看板から壁まで真っ赤に色づいた店だった。『しんでん』と書かれた布がひらひらと軒先で揺れている。


 暖簾をくぐり、アマンダと俺は店の中に入る。すると中から威勢のいい「いらっしゃい」という声が聞こえてきた。


 見れば店内には4人がけのテーブルが3席とカウンター席が4席。わりかし少ない。


 カウンターを見れば、キッチンが併設されていた。そこには二人の男女がいた。白い割烹着をきた男性に対して、女性はエプロン姿だ。


 「いつもの二つ、お願い」


 「あいよ」


 男性は快活にそう答えると、後ろで下ごしらえに勤しんでいた女性へ目配せをする。アマンダの言い方からして、随分と通い慣れた店なんだろう。


 「ほら、座りなさい」


 アマンダに手を引かれてテーブル席に案内された。


 そこからじゃキッチンの作業は見えなかった。でも、男性が何かを包丁で切っているようで、トントンと小気味いい音が奏でられている。


 その後ろでは、女性が油に何かを落としたようで、ジュワァっといい音が聞こえてくる。心なしか、いい匂いが漂ってきた。


 「ほら、お冷」


 アマンダはコップにビッチャーの冷水を注ぎ、俺に渡してくれる。


 「ありがとうございます」


 そう言いながら、俺はコップを傾け、水を喉にとおしていく。冷えた水は乾いた体には心地よく、喉を鳴らせば胃袋に染み渡る。


 「おいしそうに飲むわね」


 アマンダは微笑みながら冷水に口をつける。

 ほとんど飲み終えてしまったところで、俺はコップをおいた。


 「でも、いいんですかね」


 「ん?何が」


 「リーコンのツアーですよ。あんな簡単に会社の中を見せていいんでしょうか」


 「ドラゴンの姿を多くの人たちの目に残しておきたいんだそうよ。特に、未来ある若者には熱心には」


 「へぇ。そうなんですか」


 「自分たちのやっていることを見て、少しでもドラゴンに興味を持ってくれたら。そして、ドラゴン保護の活動に興味を持ってくれたらいい。社長さんだったかしら、テレビの取材でそんなことを言ってたわね」


 お冷を飲み終り、アマンダはおかわりにビッチャーから水を注いでいく。


 「宣伝効果かはわからないけど、最近じゃ若者の志望する企業No.1なんて言われているらしいわよ」


 「ドラゴンが少なくなったのって、そもそもどうしてですか?」


 「人間バカが乱獲したせいよ」


 考えても見なかった事実、けれどどこか納得してしまう事実に、俺は言葉を失った。


 「昔は今みたいに法整備も進んでいなかったからねぇ。道楽半分、コレクション半分に狩る連中が多かったのよ。まぁ、中には誇りのためとか、強さのためとか。形もなにもないただの自己満足のためにドラゴンを狩ってたやつもいたようだけどね」


 「でも、ドラゴンてそんな簡単に殺せないんじゃ」


 「人間、バカなことにはよくお金を使うみたいでね。骸骨化したドラゴンの死体から牙をとって、それを使って特製の弾丸を作ったのよ。ドラゴンの皮って普通の弾丸じゃ貫けないからってね。たしか、これくらいだったかしら」


 人差し指と親指の間に空間を作り、サイズ感を俺に見せてくれる。


 「これがまた良くできていてね。岩みたいなドラゴンの皮膚も簡単に貫通するようになったわけよ」

 

 アマンダは水を一口にふくみ、乾いた口の中を癒す。


 「ドラゴンを狩るごとに弾丸が何発も作れたから、ハンターが急増してね。それで、どんどんドラゴンの数は減っていた。もちろん、今はこの弾丸も製造も所持も禁止されるようなったけど。そうした頃には、もうドラゴンを見かけることもなくなってたわね」


 「そう、だったんですか……」


 「それを可哀想に思ったのかは知らないけど、リーコンの社長様がドラゴンの種を残そうといま活動してるんだけどね。人間の手で滅ぼしかけながら、今度は再生させようとしてるんだから。考えてみれば身勝手よね。まぁ、やらないよりはましだとは思うけど」


 頬杖をつきながら、アマンダは退屈そうに話していた。


 「お待たせしました」


 「お、きたわね」


 タイミングよく女性がトレイに料理を乗せて、運んできた。


 茶碗にのった白米に大皿いっぱいの鳥の唐揚げと刻んだキャベツ。それに付け合わせのつけものにみそ汁。からあげ定食のようだ。香ばしい匂いが鼻をくすぐってくる。


 「ほら、あなたも食べなさい」


 テーブルのはし立てからはしをとると、アマンダは迷うことなく料理を口に運んでいく。


 「ごゆっくりどうぞ」


 女性は微笑みながらそういうと、トレイを抱え持ってキッチンへと戻っていった。


 俺もアマンダに見習って料理に手をつけていく。どれもこれも見た目も味も最高だ。


 唐揚げの衣は香ばしいし、中から鳥肉の肉汁が染み出して、かめばかむほど味がでる。


 キャベツを口に放り込めば、キャベツの甘みとシャキシャキとした食感が、唐揚げの塩気と肉汁でいっぱいの口の中をリセットしてくれる。


 きっと、アマンダから話を聞くまでは、もっと食事を堪能できただろうと思う。


 何にも気にすることなく、からあげをがっつけただろう。


 聞かなきゃよかった。との思いと、聞いておいてよかった。との思いが頭の中で渦巻いている。


 両方のことをそれぞれに考えられるほど、俺の頭はよくできていない。


 思考のせいで肝心の料理の味が気にならなくなった頃、気づけば皿の上に料理はなくなっていた。

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