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15..

 車はビル群も中を走り、モノレールの下をくぐる。昼間ともあってスーツ姿の男性や、大学生のような若者が歩道を歩く姿がある。


 信号待ちをしていると、嫌でも人々の往来は目に入ってくる。


 誰もかれもが自分の向かうべき場所へと向かって歩く。


 肩と肩がぶつかろうとも、会釈一つで全てをすませ、早足で雑踏の中に混じって消える。


 世界がちがっても、日本もここもまるで変わらない。


 窓枠に肘をかけながら、俺はそんなたいしたことのない感想をもらす。


 青になったところで、アマンダの車は再び走り出す。


 つかの間の人間観察は中断され、流れる景色の中に人間の姿が線となって消えていく。


 自警団の本部から約一時間。車はとあるビルの前に止まった。


 路肩に止めて、車を降りる。時間指定の駐車スペースのため、アマンダは駐車券を切っておく。


 「ここが、リーコン・ロジステック社よ」


 見上げれば見上げるほど高い。60階とか、そのぐらいありそうだ。


 全面ガラス張りで、窓の奥には人の姿がちらほらと見える。


 ビルの形は周りに比べてちょっとことなっていて、中腹あたりで少し細くなり、先端のあたりに展望台のような、円盤状の階層がある。


 あたりは四角形のいかにもビルって感じの建物のなかで、このビルだけは風景になじまず、ういているように見えた。


 「それじゃ、行きましょうか」


 アマンダはそう言うと、俺の手を引いてビルへと向かっていく。


 「え、ちょっと」


 俺の戸惑いなんてなんて知りもしないで、アマンダの足は階段を上っていく。


 ビルの入り口には、社名の書かれたプレートが、石の彫刻にはめ込まれている。


 中に入ってみると広々としたフロアが迎えてくれた。


 ガラス窓から日差しが差し込んでいて、すごく明るい。


 上を見上げてみれば3階まで吹き抜けで、廊下を進む会社員の姿ちらほらと見える。


 天井にはホログラフィックなのか、ドラゴンが空を旋回したり、縦横無尽に飛んでいく姿が映し出されていた。


 驚いたのが、そのドラゴンは天井だけでなく、フロアにも降りて来て、仲間同士の喧嘩を始めた。


 違いに炎を吐いたり、尻尾で胴体を狙ったり、大迫力の戦闘が人の行き交うフロアの中で展開される。


 やがて、トドメの一撃に喉にくいついたドラゴンが、敵のドラゴンを持ち上げながら飛び立ち、ビルの壁面めがけて飛び立つ。壁に激突すると、二匹のドラゴンは霧散した。


 「……すげぇ」


 俺はただただ見とれていた。何がどうなって、そうなっているのか。全く見当がつかない。だが、だからこそこんなに魅了されるのかもしれない。


 ただ、フロアにいた会社員たちは慣れたものなのか、大した反応なんてしないで、スタスタとフロアを進んでいく。


 「ほら、ついて来なさい」


 映像に魅了されてほおけて動けなくなっていた俺を、アマンダが手を引いてフロアの中心へと向かう。


 そこには、受付のカウンターがあって、二人のアンドロイドが待機していた。


 白の光沢のある表面と関節部分の黒い箇所。大家さんと同じようなタイプのアンドロイドだ。胸には黒く11という数字が刻印されている。


 人工知能というのが発展してつくられたんだろうけど、中身の仕組みなんてこれっぽっちもわかりゃしない。きっと大学や何かで詳しく学んで来たような人なら、嬉々として説明してくれるんだろう。


 ただ、説明を受けたところで、俺の頭で理解できるかは疑問だ。


 「おはようございます。ようこそ、リーコン・ロジステックへ」


 女性の声でアンドロイドが言う。そして、アマンダと俺に向かって頭を下げる。


 「今日はどういったご用件でしょうか」


 「この建物を見て回りたいんだけど、いいかしら」


 アマンダの言葉に耳を疑った。そんな簡単に企業内を見て回れるはずがないだろう。ここは遊園地じゃないんだから。


 「かしこまりました。見学をご希望ですね。大人一名様、子供一名様でよろしいでしょうか」


 だから、アンドロイドが当たり前に答えたことに驚いた。


 「ええ。構わないわ」


 俺のことを置き去りにして、アマンダはアンドロイドと話を進めていく。


 「では、空き状況を確認いたしますので。少々お待ちください」


 そう言うと、アンドロイドは手を空中へと上げる。


 何をするのかと俺は見ていると、アンドロイド手を当てた場所に薄いスクリーンが浮かび上がった。


 そこには、なにやら◯と×が記された項目が並んでいる。


 「えっと……。申し訳ありません。本日のツアーは満員になっております。明日以降でしたら、空きがあるのですが。いかがいたしましょうか」


 「じゃあ、明日の分。お願いするわ」


 「かしこまりました」


 そう言うと、アンドロイドは浮き上がった画面を横に払うような動作を見せる。


 すると、画面が移りかわり、今度はキーボードの画面が現れた。慣れた手つきで入力していくと、空間に文字が浮かび上がる。


 「では、チケットの発行をしますね」


 入力が終わると、手で画面を下げる動作を行なう。すると、画面が下へスクロールされ、消え去った。


 カウンターにあるプリンターが、ごとごとと音を立てはじめる。


 そして、ゆっくりと吐き出される紙をとり、アマンダへ手渡した。


「明日の午後1時半よりツアーがありますので、10分前にはここにいらしてください。はい、坊やも」


 そういってアンドロイドは俺にもチケットをくれる。


 どうやら微笑みかけてくれているようで、赤い目が細くなる。


 俺はチケットを受け取る。そこには日付と、ドラゴンが火を吹いているポップな絵が書かれていた。


 「このチケットって……?」


 「これは、ここの見学者に渡される整理券よ。これがあればリーコン・ロジステック内部を見学できるの。まぁ、企業秘密に関わるようなところには、連れていってはあげられないけどね。でも、ドラゴンを見ることができるわよ。楽しみにしてるといいわ」


 そういってアンドロイドの手が俺の頭に伸びる。無機質で温かみも何もない手だったけれど、優しく俺の頭をなでてくれる。


 でも、こんな簡単に会社の中を見れるとは思いもよらなかったから、俺は唖然としたまま、アンドロイドの優しさに気が回らなかった。


 「ほら、行くわよ」


 そういってアマンダは再び俺の手を引いて歩きだす。


 「お二人の一日がよき日なりますように祈っております。また明日のご来訪をおまちしております」


 カウンターからアンドロイドの声が聞こえて来た。そっちに目を向けると、アンドロイドは俺たちに向けて深々と頭を下げていた。

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