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 『リーコン・ロジステック社はセーブ・ドラゴンプロジェクトを立ち上げから20年近くになりますが、今も建設的な支援を続けています。そして、今年。ドラゴン救済の道に新たな光が射し込みました。これについてはリーコン社の社長でいらっしゃいます、アーロン・ロドリゲス氏から直接お話を伺ってみたいと思います』


 男性キャスターの向かい側には、一人の男性が座っていた。


 茶色のジャケットに白のシャツ。琥珀のループタイを首元から垂らした初老の男性だ。

 髪も髭も白く色づいて、顔は年相応にシワが浮かんでいる。


 丸メガネの奥から見える柔和な瞳がカメラ越しに俺を見ているような気がした。


 『アーロンさん。今回ドラゴンの人工繁殖に成功されたとか』


 『ええ。まぁ』


 頭を掻きながら照れ臭そうに応えた。でも、どこか誇らしげにも見えた。


 アーロンの反応を待っていたかのように、キャスターの二人は感嘆の声をあげる。


 『詳しい研究内容はまだ発表はできませんが、現在二頭の子供のドラゴンを飼育しております。まだ幼体で外に出せる状態にはありませんけれども、今後は徐々に自然に慣れさせ、最終的には自然界に放龍したいと考えております』


 『ドラゴン減少への歯止めがかかるかもしれませんね』


 『そう簡単に事が進んでいけばいいのですがね。まず人の手でドラゴンを育てる初めての試みですし、果たして人間の手で育ったドラゴンが自然界で生きていけるのか。という点も不明のままです。それに狩りや攻撃の手段をどう覚えさせていくのかといった点もまだ確固とした手段がないのが現状です。他にも課題や問題はありますが、それだだけを語るだけで一時間は軽く超えてしまうので、ここは我慢しておきましょう』


 『しかしこれまで数多くの保護動物を人の手で育て、自然界へと送り出してきた実績を持っています。今でも動物保護施設で絶滅危惧種の交配によって子孫を反映させる手伝いをしている。となれば、ドラゴンも可能ではないかと考えてしまうのですが、いかがでしょうか』


 『確かにドラゴンも動物ではありますが、他の動物の生態系からかけ離れ、ドラゴンは独自の生態系を作り上げている。そのためどの動物の常識もドラゴンの前では何の役にも立たないのです。それに先にも言ったように、ドラゴンを人間の手で育てるために解決しなければいけない関門が数多くある。とても愛玩動物(ペット)と同じように育てられるものではないのです』


 『なるほど』


 神妙な面持ちで男のキャスターが答える。


 『ただ、これはまだ始まったばかりの研究です。問題や課題があって当然なのです。もしかすれば研究を進めていくうちに幼いドラゴンをむざむざと殺してしまうかもしれません。ですが、やらなければ現状は変わらないでしょう』


 『相当な覚悟をしていらっしゃるのですね』


 『そうでなければ、このプロジェクトに大枚を叩いたりはしていませんよ』


 アーロンは微笑みながらキャスターたちに言う。

 真剣に耳を傾けていたキャスターも、アーロンの柔和な顔つきを見て少し緊張がほぐれたようだ。


 『でもね。これは私の使命だと思っているんですよ。ドラゴンという種族を絶やすことなく、私の死んだ後もドラゴンという種族を絶やす事なくこの世界にあり続けさせること。そして、それを遠くから見守っていくことがね。それに私は実現できることにしか金を叩いていないのです。このプロジェクトは必ず成功します』


 『私たちも成功をお祈りします。……アーロン氏には後ほどの特集でさらに話を伺いたいと思います。続いてのニュースです』


 ドラゴンについてはここで一旦区切りをつけたようだ。

 キャスターは原稿をめくり次の話題に切り替える。


 「どうした。神妙な顔をして」


 キッチンからガブリエルがやってきた。


 「何か面白いもんでもやってたか」


 そう言うと、ガブリエルはテレビ画面を覗き込む。


 「何だ。ただのニュースじゃないか」


 「点けたらやってただけですよ」


 「そうか」


 ガブリエルは元から興味もなかったんだろう。俺の言葉を聞くだけ聞けば、パンパンになったゴミ袋を玄関の脇に置きに行ってしまう。


 「さて、飯にするかね。だが、その前に風呂の用意もしなくちゃな」


 「そんな、手伝いますよ」


 「いいから。坊やはそこに座って待ってな。何、すぐに終わるさ」


 ガブリエルは肩を回してコリをほぐすと、コートをソファの上に投げて奥の扉へと行ってしまった。


 再び取り残された俺は、ソファから立ち上がり、窓辺に歩み寄る。 

 

 窓から見えるのは店のロゴが入った看板。

 それと遠くに見える飛び出す広告。

 映画でしか見たことのないような街並みは俺の目を楽しませてくれたし、旅行の時のように気分が昂揚した。


 でも、どんなに楽しい気分の中でも、アリョーシのことは決して忘れない。


 なんのために森を出た。なんのために夜を駆け抜けた。こんな旅行気分を味わうためだったのか。

 そうじゃないだろう。アリョーシを助ける。ただそれだけのために出てきたのだろう。


 もう一度思い出さなければ、きっとこのまま楽しむだけになる。それでは、それでは何も意味はないんだ。


 「……忘れるな。忘れるな」


 小さな声で、俺はつぶやいた。誰にも聞かせる必要のない。俺だけの決意だ。


 これだけ大きな都市だ。もしかすれば情報を持っている人がいるかもしれない。

 ガブリエルも俺に協力してくれるようだし、頼りながら情報を集めていけばアリョーシに繋がるかもしれない。


 しかしそれは希望で形作った妄想でしたかない。かもしれないという期待は簡単に裏切られるし、簡単に壊れてしまう。何も手立てがない今ではその希望で前に進むしかない。


 希望と不安。心配と期待。頭の中に相反する二つの感情が浮かんで、夜闇の中に消えていく。

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