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2..

 森の中に入れば、悲鳴が一層大きく聞こえてきた。


 走って行ってみれば、そこには一人の女性を三人の男性が組み敷いていた。


 女性は懸命に腕や体をうごかして男たちの手から逃れようとする。


 けれど、やはり男の力には敵わない。

 男二人が女性の両腕を、もう一人は女性の腹にまたがって押さえつける。


 「いや、離してッ!」


 悲痛な叫びが木々の合間を縫って森の中に響く。しかし男たちはそれを嫌がるそぶりはなく、むしろ嗜虐心を刺激して、卑しく下劣な笑みを浮かべさせる。


 何がどうあってそうなったのか。なんてことは考える必要はない。


 俺は勢いを保ったまま、男たちに走り向かう。


 物音を聞きつけて一人の男が俺の方に首を向けてきた。けど、構うものか。


 地面を蹴って、俺は女性の腹に乗った男めがけてドロップキックをお見舞いした。


 勢いも狙いも十分。俺の足の裏が男の背中に命中し、男は前のめりに吹っ飛んだ。


 女性の顔を男が踏んづけないか不安だったけど、うまい具合に女性の上を通って、木の幹に男は顔をぶつけた。


 「何だ、このガキ!」


 威勢のいい声とともに、男の仲間が女性から離れて俺の方を見た。


 パーカーのようなダボっとした服にジーパンを身につけた男。


 それに、金色のラインが入ったジャージに、黒いタンクトップを着た男。


 ヤンキーとかチンピラとか。そんな俗称がピタリと当てはまりそうな風体だった。


 「その女の人を、離せ」


 何とか声が裏返らずに言うことができた。


 ドロップキックを見舞ったのはよかった。


 ただ、これからどうするかなんて考えてなかった。


 俺の要求に従ってくれたなら穏便に済んだだろう。


 だけど、そんな淡い期待は儚く散ってしまった。


 「ガキが、なめやがって……!」


 パーカーの男が取り出したのは、物騒なナイフだ。切先は鋭利に研がれていて、刺されたらひとたまりもなさそうだった。


 もう一人のタンクトップの男は、拳を鳴らして俺を殴る気まんまんといった様子だ。


 子供相手に二対一とか、なんて卑怯な。声に出さない非難を内心で呟く。


 勿論何の挨拶もなしにいきなりドロップキックをかましたことは、棚の上にあげた上での文句だ。

 

 なんて思っているうちに、二人の男が一斉に俺に向かってきた。


 俺だってここまで来て死にたくなんてない。


 アリョーシを探さなきゃならないし、連れて帰ってこないといけない。何もできていないうちから死ぬなんて真っ平御免だ。


 俺は後ろに下がって、急いで木に登った。


 「降りてこい、このヤロー!!」


 足元から怒号が聞こえてくる。


 その声はタンクトップの男だ。スキンヘッドで体のあちこちに刺青を掘っている。


 生きているうちに一番関わり合いたくない感じの男だ。


 だが、流石に木の上に登ってくることはできないらしい。


 猿を真似て売れた果実を男たち目掛けて投げつける。


 果実は男の顔に見事にあたり、衝撃によって中身のエキスがぶちまけられる。きちんと飲めればうまいはずなんだが、ベタベタする感触は不快感を与えて男達の怒りを焚きつけてしまう。


 「……殺す」


 殺気の宿った四つの目が俺を見た。


 でも、野生の熊とか狼に比べたら、怖くも何ともない。自然界の方がよっぽど怖い生き物がいる。


 俺は木の上を飛び跳ねて、その場を離れる。


 男達は懸命に俺を追いかけてくる。


 本気を出せば、男達を巻くことなんて簡単だ。


 だけど、ここで見失われても困る。女性が逃げられるよう、十分に距離をとってしまいたい。


 「おい!お前はあっち行って回り込め!」


 パーカーの男がタンクトップの男に指示を飛ばす。


 タンクトップは俺を「ああ」と返事をすると、パーカーから離れて別方向から俺を追いかけてくる。


 これは都合がよかった。


 俺は少しだけ全力を出して、男達の視界から外れるように走った。


 そして大回りに森を走り、パーカーの背後に回る。


 うまく見失ってくれたようで、きょろきょろと首を動かして俺を探している。


 その間にパーカーの真上に一気に近づくと、パーカーめがけて飛び降りる。


 俺は両足でパーカーの首を挟み込む。その時になってようやくパーカーの顔が俺を見た。


 振り落とされる前に、俺はパーカーの首を挟んだまま背後に体をひねる。


 そしてパーカーの股下をくぐる。


 普通の子供じゃ男一人を足で挟んで持ち上げることなんてできないだろう。


 しかし、仮にも俺はドラゴンの子供だ。


 馬鹿げているが力だけでパーカーの体を持ち上げられる。


 パーカーの足が浮き上がり、体が後ろにそらされていく。パーカーの向かうところには地面だ。


 叫ぶ声が一瞬聞こえてきたけど、男の脳天は地面に突き刺さった。


 一瞬ピクリと跳ねた足がゆっくりと地面に降りた。


 一人戦闘不能。だが、これで終わらない。物音に気がついたタンクトップが、俺の方にやってきた。


 仲間二人やられたことで、怒りよりも警戒の方が強くなったんだろう。


 間合いを開けてボクサーよろしく構えをとった。構え慣れたポーズなのか、立ち姿がすごく様になっていてカッコよかった。


 人ごとのような感想だったが、実際人ごとなんだからしょうがない。


 俺は地面を蹴ってタンクトップに先手を打った。


 タンクトップは右の拳を俺めがけて突き出す。


 俺は拳をよけてタンクトップの懐に入る。そして、腕を思い切り振り上げて、タンクトップの股座をぶん殴った。


 「お、おぉぉ……」


 タンクトップは悶絶しながら、股間をおさえてそのまま倒れた。


 ローブローは大抵の男に効くが、できることなら生涯受けたくはない一撃だ。こればっかりは男にしか分からない痛みだろう。


 昔よくやっていたプロレスごっこがここにきて活きた。やっぱり子供の頃の経験とは体に染み付いているらしい。


 何とか二人を倒したことで一息つける。


 「……あの人は、うまく逃げられたかな」


 心配しているのなら、行って確かめた方がいい。


 俺は倒れた男たちをほおっておいて、すぐに女性の元へと走った。

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