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1..

 いくつもの朝を迎え、いくつもの夜を越え。


 ヘリの姿も見えなくなったが、そちらにあるだろうと信じて俺は森を駆け進んだ。


 食事も手早く鳥や木の実をとって食べるだけにすませ、睡眠も数時間のうちにすませた。


 少しの時間を惜しんで、俺は森を走った。


 けれど見失ったヘリは、一向に見つからなかった。


 縮まらない距離は向かうべき場所を見失わせ、俺はただ闇雲に力を浪費して行く。


 しかし、森は広大だが無限にあるわけじゃない。


 森の切れ間。その先に出れば農道のような土道が横一線に伸びていた。


 どこかへ向かう道だろうか。などと考えていると、右側からエンジンをふかせて何かがやってくる。


 俺は思わず木の陰に身を隠して様子を見る。


 それは大きなトラクターだった。


 大きな後輪と中くらいの前輪がエンジンによって車体を前に進めていく。


 麦藁帽子をかぶった農夫らしき男性が運転席に座ってハンドルを握っている。


 男性は俺なんか見向きもせずに俺の目の前を横切って、道に沿って走り去ってしまった。


 排気ガスが尾を引いてトラクターの背後を追って行く。


 思わず吸い込んでしまった俺はたまらず咳き込んでしまった。

 

 咳がおさまった頃。俺は木の陰から出ると、トラクターがきた方向へ歩いて行くことにした。


 帰る途中か、それとも畑へと向かう途中なのか。それは分からない。けれど、トラクターが来た方向には少なからず人がいるかもしれない。何も、あの農夫しかいないといこともないだろう。


 それに、トラクターやヘリがあるような世界だ。歩いている間に車が一台や二台通るかもしれない。


 この世界の技術がどれほど進んでいるのかは分からない。

 けれど乗り物が平然と道路を横切り、空を横断していくのを見れば生きていた頃の技術とそれほど変わらないと考えられる。


 いや、もしかすればもっと進んでいるのかも。


 この世界の全てを知っているわけじゃない。せいぜい知っているのは広大な森と洞窟の中のことだけ。あまりに小さな世界で、近代とはかけ離れた生活だ。


 この世界は俺の知っている以上に広い。もしも俺の考えている以上に文明と技術が進んでいたとしても、それは俺が知らなかっただけで不思議な話じゃない。


 なんにせよこの世界は銃があってヘリがあって、それに一個人の農夫がトラクターを転がせるくらいには文明が発達している。それが分かれば、今のところは十分だ。


 もしも車が通った時は、前に飛び出してでも止めさせてヘリを見ていないかと聞いてやろう。


 そんなことを思いながら、俺は土道を歩き進んで行く。


 しかしいくら歩いてもあのトラクター以降車も人も車も、一向に出くわさない。


 田舎かと言いたくなるくらい、まるで人がいない。


 「……何なんだよ」


 苛立ちまぎれに思わずそう呟いた。

 

 だから田舎は嫌なんだ。大した交通手段もないし滅多に人もいやしない。


 ここが田舎かそうでないかなんて、傍に見える水田平野とやかましい虫の鳴き声があれば、誰がどう見ても田舎だっていうだろう。 


 「……このまま田んぼ突っ切って走った方が早いか」


 だいぶ無茶を言っているのはわかっているが、このまま歩いているだけよりはマシだと思った。


 だけど、遠くから聞こえてきた悲鳴に俺はおもわず足を止めた。


 声のする方へ目を向けてみるが、見える範囲には人影はない。


 でも、もう一度その悲鳴が聞こえた時には俺の耳は聞き逃さなかった。


 どうしようか。あまり時間を費やしたくないし、聞かなかったことにして立ち去っても良かった。自分には関係のないことだし、何の利益にもならないだろうから。


 でも、そんな迷いは一瞬のことだった。俺の足は自然と森の方へ向いたし、何ならモヤを出現させて勢いもつけていた。


 確かに、俺には何も関係のないことかもしれない。でも、見逃すことは何より気持ち悪かった。


 聞こえたくせに何もアクションを起こさないのが、何とも後ろめたかった。


 考えてみれば随分と自分勝手な理由だけれど、しないよりはマシだ。


 その結果なんてことないことで悲鳴をあげたとしても、よかったねで済むんだから、別にいいだろう。

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