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改稿中 人と龍  作者: 小宮山 写勒
十二章
138/144

13............

 アマンダはガブリエルとトムの目を見る。判断を二人に仰いだつもりだが、トムとガブリエルもまた判断に困っている様子だ。


 「とって食いはしないさ。君らは同胞を救ってくれた。同胞の恩人を襲うほど俺もどう猛ではないさ。……まあ、こいつはどうかは分からないけどな」


 男の指の先には火龍がいる。火龍の視線が鋭く男を睨みつけてい。心外だと言いたげのように見えたが、男は一切気にした様子はない。


 だが、男の言そのまま正直に受け止めるほど、アマンダは純粋ではない。何か裏があるのではないか。こちらの油断を誘い、隙を見せたところで食ってしまうんじゃないか。推察でしかないが、それを完全に排除できるほどドラゴンたちに心を許した覚えはない。


  しかし、これほど便利な移動手段もないのも事実だ。地下から一階へ上がる中で、アーチャーの部下たちが待ち伏せをしている可能性もなくはない。傷ついた肉体と壊れた銃で戦ったとしても、長い間持ちこたえることはできないだろう。


 悩んで悩んで、さらに考えた挙句。アマンダは意を決した。アマンダは男の手をとった。


 「よく決めてくれた」


 彼女を引き上げながら、男が言う。


 そして全員を火龍の背に引き上げると、背中を軽く小突く。それが合図だったのだろう。火龍は大きな翼をはためかせる。


 「アリョーシと家族は火龍に運ばせよう。君らが支えながら飛ぶってのは、無理があるからな」


 「大丈夫なんですか」


 「俺たちがそんなひ弱に見えるかい? お嬢さん。それはおたくらがピーナッツちゃんと持てるかって聞かれているようなもんだぜ。ピーナッツだぞ、ピーナッツ。お嬢さんなら『ナッツより重たいものなんて持ったことないんですぅ』ってかわい子ぶっていいかもしれねぇが、その質問はただなめているようにしか聞こえねえな」


 男は言う。確かに象だの牛だの。巨大な生き物を簡単に持ち運んでしまうドラゴンにかかれば、人間など簡単に運べるだろう。ただ、人間をピーナッツと同等に考えられるというのは、多少の反感を覚えるが。


 「いらない心配でしたね。申し訳ありません」


 「分かってくれりゃいいんだ。分かってくれりゃあな」


 男が苦笑を浮かべたのを見ながら、救出した三人はアマンダ達は火龍の足元に横たえる。それから再び火龍の背中に乗ると、男が火龍の背中を叩く。火龍の大きな翼が動き、巨体が宙に浮き始める。


 「他のドラゴン達は、置いていっていくんですか」


 「心配しなくても、お嬢さんたちを外に出した後に救ってやるとも。あいつら体だけは丈夫だから、ちょっとやそっとじゃ死にやしない。だが、お嬢さんたちは別だ。人間、何の拍子に死んじまうか分かったもんじゃない。だから、まずはお嬢さんたちを外に出して、安全になったところで、あいつらを救い出す。お分かり?」


 「は、はあ……」 


 確かに囚われた風龍も土龍も暴れることもせず、火龍の行方を見守ってくれている。それは外に出た龍に対する信頼によるものなのかは分からない。そもそもドラゴンが人間の思考を読めないように、ドラゴンの考えることなど、人間の脳みそではできるはずもないだろう。


 「しっかりと突起に捕まってくれよ。でないと振り落とされかねないからな。火龍の飛び方は荒っぽいことで有名なんだ」


 快活に笑いながら男は言う。火龍は心外だと言わんばかりに、鼻息を荒くし男を睨みつける。


 「あなたは、飛ばないんですか」


 「飛ばないっていうか。飛べないって言った方が正しいな。俺たち水龍は水があるところでしか移動ができないんだ。ちょっとの水滴でもあれば、そこに潜ることはできるんだが、俺が移動するってなると川でも作ってくれなきゃできない」


 「そうなんですか……」


 「まあ、たとえ移動できるようにしてくれたとしても、お嬢ちゃんたちを運ぶことはできないだろうな。運ぶってなったら、全身びしょ濡れの数分間息を止めてもらわなくちゃならない。それができるってなったらいいが、苦しいのは嫌だろ?」


 「……まあ、はい」


 「だったら、この火龍ちゃんの背中に乗って言った方がずっといいさ」


 火龍は足元に置かれた三人を起用に足で掴むと、上昇を始めた。


 みるみると速度を上げて火龍を天井に開いた穴を抜け、広い空洞の中を進んでいく。その勢いは確かに背中に乗る乗客達を意識してはいなかった。座ったままでいれば空気の壁にぶち当たり、後ろへと仰け反ってしまう。


 それを事前に察していた男は、腹ばいになって風を受け止める面積を最小限にしていた。が、それを伝えられていない三人は、まんまと仰け反り、背後へと転がってしまう。


 落ちないように必死で突起に捕まり、男を真似て腹ばいでしがみつく。最初に座っていた位置とはだいぶ離れてしまったが、火龍が巨体であったことに今は感謝した。


 空洞の一番奥。そこには分厚い鉄の扉がある。機械の制御で開く仕組みになっているはずだが、そんな装置は残念ながら見当たらない。しかし、火龍は止めることなく、いやむしろ速度を上げて扉へと突っ込んでいく。


 まさか、ぶつかるつもりか。アマンダは思った。衝撃に備えて自然と腕に力を込める。そしていよいよ扉が間近に迫ってきた時、火龍の頭の方から熱を感じた。火花が風にのて背中へと飛び、舞う。それは幻想的で美しい光景だったが、その美しさとは全く異なる、熱の暴力が火龍の口から吐き出される。


 業火の渦が扉にぶち当たる。鉄の塊、硬いはずのその扉はいびつな軋みを響かせながら、溶解し、液体となって滴り落ちていく。衝撃によって煙が広がったが、火龍は炎を吐きつけながら、進む。進む。


 そして穴を突き進んだ先には、曇天模様の空が広がっていた。

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