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改稿中 人と龍  作者: 小宮山 写勒
十二章
133/144

8............

 炎が目の前を流れていく。廊下が炎で満たされていくにつれて、その熱は容赦無く三人を襲った。髪がチリチリと焦げ始め、肌が焼け、痛みにかわって悶え苦しむ。しかし、どれだけ苦しめられても目と口だけは開かなかった。気道と目も焼かれてしまっては、より苦しむだけと想像できたからだ。


 ようやく炎の勢いに陰りが見えていた。肌に感じる豪熱が薄くなったのを感じると、アマンダは恐る恐る目を開いた。目の前にはトムがぐったりと壁に背中を預けている。右を見れば、ガブリエルが死にそうになりながら、膝を崩している。


 五体不満足。満身創痍。だが、生きている。生き延びられた。その事実がアマンダの心にわずかに希望をもたらしてくれた。


 「ひっどい……顔ね……」


 皮肉に頬を歪めながら、アマンダはガブリエルに言う。ガブリエルは肩で息をしながらも、アマンダの言葉にわずかに頬を歪めた。


 「お前が言えたぎりかよ。髪も、まつげもないじゃねえか……」


 「アンタだって、同じようなもんでしょ。私やトムは代替が聞くけど、アンタの場合は生身だから、よっぽど大変じゃない」


 「そうだな……私も、そのうち義体化しようかね」


 「それもいいかもね。まあ、それよりも先に治療が必要だとは思うけど」


 顔の筋肉を動かすたびに、ひどい痛みが二人を襲う。けれど笑いあっていられるだけでも、少しは気分も和らいだ。


 だが、脅威が過ぎ去ったわけではない。すぐ外には二頭のドラゴンがいる。下手に騒いで奴らの目に止まってしまえば、たちまち殺されてしまうだろう。


 息を潜めて、牢の部屋を覗く。さっきの炎のせいでスプリンクラーが発動し、牢の部屋は水浸しになっている。火龍は物珍しげにスプリンクラーの装置を見つめている。が、すぐに興味がなくなり、ふわりと通路に降り立った。

 

 水面から顔を出した水龍は火龍に顔を向けて、何やら話しかけ始める。話、と言うより鳴き声の掛け合いだ。とてもアマンダ達の耳には言葉に聞こえない。だが、こちらに気がついている様子は今の所はない。今のうちに移動するべきだろう。


 「おい、見ろ」


 トムが小声でアマンダに声をかけた。彼女がトムの方を見ると、廊下の奥を指差したまま動かないでいる。指に沿ってその先を見ると、扉が開いていた。そして部屋の中に倒れる人影を見つけた。


 「リュカくん」


 アマンダはすぐに踵を返し、足音を忍ばせてその部屋へと向かった。そして、すぐに異変に気がついた。部屋の中に充満している空気。ゆらゆらと宙で動く透明な膜にアマンダは一瞬危険な何かを感じた。


 「トム、ガスフィルターをオンにしておいて。ガブリエルはその場に待機」


 「なんだ、何かあるのか」


 「ええ、たぶん。あんな不自然に人が倒れるはずはないからね。なんの防護もない生身のアンタには、ちょっと厳しいかも」


 肩越しにガブリエルにそう返すと、彼女は納得したようにこくりと頷く。それを見るとアマンダは再び顔を前に向け、首筋に指を当てる。


 クイと軽く押し込むと鼻と口の中に有害物質を吸収するろ過液が満たされ、気道には開閉の弁が別に作られる。また眼球を保護するため薄い膜が貼られ、薄黄色に変化する。


 全ての工程が終了したところで、アマンダとトムは部屋の中へと入った。


「おい、しっかりしろ」


 トムがリュカの方に駆け寄って肩を揺らす。しかし起きる気配はない。体をぐったりとさせたまま、身動き一つとりはしなかった。ゆっくりと胸が上下しているから、一応は生きているらしい。


 「とにかく、一度ここを出ましょう。いつまでのここにいたんじゃ、苦しいだけだろうから」


 アマンダの提案にトムは頷いた。トムは先にリュカを運び出し、すぐに戻ってきてアーロンを背負って部屋を出た。それを見送った後、アマンダは倒れているもう一人に目を向けた。


 髪色は緑、美人というカテゴリーに属するであろう人。見慣れない。いや、一度は見たことがある。それも画面越しにではあったけれど。


 若かりし頃のアーロンが引き止めようとした女。彼の静止を振り切って、列車を降りたあの女。その女と今床に倒れている女は、同じだった。


 ということは、この女がアーロンの妻だったヒトであり、リュカの母でなるドラゴンということになる。


 「見た目だけは、人間そのものね」


 興味が先に立ってしばらくその女、アリョーシをアマンダは見下ろしていた。だが、すぐに気を取り直して彼女を抱いてアマンダは足早に部屋を後にした。

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