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14.

 何度も枝にぶつかった。


 何度も葉が頬を擦った。


 そして最後には木の幹にしたたかに背中を打ち付けて、激痛が俺の体を貫いた。 


 幹から体が離れれば、今度は地上に向けて落ちていく。


 顔から腹から太ももから。


 体の正面に落下の衝撃が痛みとなって駆け走る。


 あばらが痛み、目も鼻もジンジンと痛む。


 でも、生きている。


 土の匂いも風の音も、地をそぞろ歩くアリの行列も。確かに感じるし、確かにこの目で見れている。


 痛みをこらえながら、両腕を支えに何とか体を起こす。


 両膝を折って座り、上を仰ぎ見れば何一つ変わらない曇り空が俺を見下ろしている。


 あまりいい気分ではない。


 それは天気やアリョーシに吹っ飛ばされたことによることが原因ではなかった。


 「……母さん」


 ポツリとつぶやきながら、俺は何とか足に力を入れる。


 少しだけ足がもつれてたたらを踏んだものの、何とか立ち上がり前に進む。 


 アリョーシを助けなければ。


 その一心で足を動かしていくが、空にプロペラの回る音がこだましていることに気がついた。


 急いで木の上に登って空を見上げてみれば、3機の黒塗りのヘリコプターが空の彼方へと飛び立とうとしているところだった。


 ヘリの後部は扉がなくそこから中に乗っていると人間の姿が見えた。


 そいつらは、さっき俺とアリョーシを襲ったあのガスマスク達だ。


 ヘリコプターの縁の腰を下ろし、手には銃を握ったままだった。


 流石に距離があるせいで俺には気づいていないようで、ヘリは止まることなく飛んで行く。


 頭をなるべく木の陰から出さないよう、俺は注意を払いながらヘリを観察した。


 だけど、一機のヘリにロープで括り付けられたアリョーシを見た時、俺はたまらず木の陰から体を出してしまう。


 アリョーシは眠っているのか。首をだらりと下げてぴくりとも動かない。


 時折ヘリの揺れによって左右にゆらゆらと揺れ動いてはいるが、それでも目を覚ますということもない。


 「母さん!」


 俺はアリョーシを呼んだ。


 大きな声で叫んだ。


 ガスマスク達に聞こえてしまっても構わなかった。


 アリョーシがどこか遠くへと連れ去られてしまうよりはマシだと思っていた。


 だが、俺の声はヘリのプロペラ音にかき消されてしまう。


 そして、ヘリは立ち止まることなくアリョーシをぶら下げたまま遠くへと飛んで行く。


 「逃がすかよ……!」


 ヘリコプターを見失わぬように、俺は木の上を走った。


 枝から枝に飛び移り、必死になって追いかけた。


 痛みも、それに伴う苦しみも。この時は一瞬だけ忘れることができた。


 アリョーシを失うという恐怖によって覆い隠されただけかもしれないけれど。


 それでも、恐怖は力となって俺を突き動かした。

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