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「ロベルトか」
『そうだよ、リュカくん。久しぶりだね。君を捕まえたあの日以来の再会だ。また巡り会うことが出来て、私も嬉しいよ』
「俺は二度と会いたくはなかったよ」
『そう邪険にしてくれるな。これからは、毎日のように顔をあわせるようになるんだ。お互い仲良くしようじゃないか』
「そんなのはごめんだね」
俺はアリョーシを一旦下ろして、閉ざされた扉に目を向ける。そしてトントンとその場で軽く飛び跳ねて、一気に扉に向かって駆ける。体を傾けて肩を扉に向けてぶち当てる。
鈍い痛みと衝撃が腕を伝って、骨身に沁みていく。渾身のタックルだったのだが、扉はひしゃげた様子はない。ならばもう一度と、距離をとって再度タックルを仕掛ける。だが、これでもビクともしなかった。
『君も往生際が悪いね。だが、そういう諦めの悪い奴は私も嫌いではないよ。どれだけ窮地に立たされてもなお立ち上がるその姿勢は、ひどく無様で、バカバカしく、そして人を惹きつけるからね。全く見ていて素晴らしい限りだよ』
ロベルトの嘲けりが部屋にこだまする。ロベルトの声も、そして紡ぎ出す言葉の数々も、聞いている内に苛立ちばかりが募っていく。が、ただ扉をぶち破ることだけに集中すれば、無駄な癇癪を起こさずにすんだ。
ロベルトの声になど気にもとめずに、俺は体当たりを続けた。何度も、何度も、何度でも。肩はヒリヒリと痛み、骨は衝撃できしみをあげる。だが、大した痛みではない。ここから出られるのなら、三人で一緒に出られるのなら。腕の一本や二本が犠牲になったとしても、構いはしなかった。
『だが、君の努力によって扉を破壊されても困るからね。措置を取らせてもらうよ』
だが、ロベルトがそんな俺の抵抗を、ただ見ているというわけがなかった。奴はそう言った直後、壁の上部に穴があき、そこから太いパイプのようなものが現れた。
嫌な予感がする。そして、こういう時に感じる嫌な予感は、大体が当たってしまう。
パイプの口からは轟々と音を立てて、風が流れ始めた。ただの送風機、そんなものをロベルトの奴がわざわざ用意させるはずがない。事実、その風に乗って妙な匂いが鼻をついた。
「なんだ、この匂い」
かすかに臭う妙な香り。本能的に吸ってはならないと、俺は鼻と口に手を当てて匂いを遮断する。
異変が起きたのはそのすぐ後だ。手の指先が痺れたかと思えば、今度は足が思うように力が入らなくなってくる。原因は、考えるまでもない。さっきかすかに臭ったあの匂いのせいだ。そして、この症状は俺だけの話ではなかった。
何の前触れもなく、アーロンが膝から崩れ落ちた。額を強く打ち付けたように見えたが、起き上がるような気配はない。いや、起き上がるに起き上がれないのだろう。何とか手を支えに起き上がろうとしているが、それもうまくはいかずに崩れ落ちている。
アーロンだけでなくアリョーシも心配になったが、その余裕も次第になくなっていく。どうにか息を止めて耐えてきたが、次第に立っていられなくなっていく。
跪きながらどうにか打開策を考えてみるが、うまく考えがまとまらない。それに目の前も薄ぼんやりとしてきた。
ここで意識を失うわけにはいかない。必死に目を開けて落ち掛ける意識を引き止めていたが、とうとう力尽きて、硬い床に触れた直後、俺の意識は闇の中に沈んでいった。