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改稿中 人と龍  作者: 小宮山 写勒
十二章
126/144

1............

 暗く長い廊下。どこまでも続くかと思うその長い道を、かれこれ十分は歩き続けただろうか。前後の暗闇に警戒を払いながら、俺たちは早足で歩きすすんでいく。目の前にある小さな光。おそらくそれは部屋から漏れ出す明かりだろう。俺たちはそこへ引き寄せられるように向かっていく。


 暗闇から光の中へ。とは大げさな言い方だが、暗闇に慣れてしまった俺の目は、多少の明かりでも敏感に感じ取ってしまう。おかげで一瞬目が眩んで、目の前が白一色に染まってしまった。だが、それも数秒で部屋の明るさに馴染み、部屋の全貌を目の当たりにできた。そして俺は、息を飲んだ。


 巨大な牢獄。広大な空間に巨大な牢がいくつも並んでいる。両側から通路を挟む形で並んでいたため、ひどい圧迫感を覚えた。しかし、驚いたのは何も牢の巨大さではない。その中に収容されている何頭ものドラゴンたちを見たからだ。種類も体長もてんでバラバラ。しかし、その憎しみのこもった視線は全く一緒で、部屋に入ってきた俺たちにドラゴンの目が殺到する。


 「何、ここ……」


 アマンダの声が小さく震えていた。あたりにいるドラゴンたちに、恐怖を抱いているらしい。さすがのアマンダもドラゴンたちの前ではいつもの調子ではいられないようだ。


 「お前の母親は、いるか?」


 ガブリエルの声が背後から聞こえてくる。そうだ、ドラゴンたちに恐れを抱いている場合じゃなかった。俺はすぐに牢の中に目を凝らして、アリョーシの姿を探していく。


 「……いいえ、いません」


 だが、牢の中にはアリョーシの姿はなかった。


 牢には確かにドラゴンがいる。中には、アリョーシや俺と同じ種族の風龍もいた。だが、その風龍はアリョーシではない。


 ドラゴンの姿をしていてもアリョーシかそうでないかの区別くらいは俺にもできる。それに、俺がその風龍の前に行っても、風龍はそっぽを向いて、まるで興味を見せない。アリョーシならば少しは反応をくれそうなものだから、それがないのも違うと思った理由の一つだった。 


 「行きましょう。ここにいても、俺たちにできることはない」


 「そ、そうね。行きましょう」


 アマンダの声にはひどく動揺が残っていたが、この際気にしないでおこう。ドラゴンに視線を投げられて居心地悪いのは、俺だって一緒だったから。


 ただ、この動揺が警戒を一瞬でもゆるませてしまったのかもしれない。トムの横あいから伸びる何かに、俺は一瞬気づくのが遅れた。


 「動くな」


 物騒な物言いとともにトムの頭に銃口が突きつけられる。

 トムの顔がこわばる。俺たちの視線の先には一人の男が立っていた。


 撫で付けた黒髪に灰色の鋭い目つき。迷彩服に弾倉をしまった分厚いチョッキ。思い出すだけでも反吐がでる。あの時、アリョーシを連れ去った時と同じ格好をして、レイ・アーチャーがそこに立っていた。


 「わざわざお迎えに来てくれたのか?」


 「ああ。だがお前じゃない。迎えにきたのはそこにいる子供(ガキ)一人だ」


 ガブリエルの軽口に対して、アーチャーの口ぶりはひどく淡々としたものだった。


 「お迎えにしてはずいぶん物騒なやり方じゃないか。そんなんじゃ、リュカ坊が怖くて行きたくなくなっちまうよ」


 それでもガブリエルは軽口を止めなかった。この状況でよくもまあ口が回る。そんなに言葉を紡いだところでアーチャーが答えるはずがないのに。


 だがガブリエルは何もアーチャーとの会話を楽しみたい訳ではなかった。彼女は俺に背中を向けたまま、指で先にあるドアを指差した。そのサインの意味するところは先に行けか、このまま突っ切るかのどちらかだろう。どちらにしても俺の取る行動は一つだ。アーチャーにバレないように腕を後ろ手に組み、モヤをまとわせる。


 「時間を引き延ばしたところで、大した差はないぞ。どのみちお前たちは子供を守れずに死ぬんだから」


 「それはどうだかな。やってみないことには何事も分からないさ」


 ガブリエルは後ろ手に握りこぶしを作ると、親指と人差し指、それに中指を立てる。囚われたトムにはガブリエルが目配せを送る。それだけでもトムも重々了解したらしく、小さくこくりと頷いた。


 「ではやってみろ」


 アーチャーは唇をすぼめると甲高い音を響かせた。

 

 広々とした空間にその音色は響き、たわみ、消えていく。リズムなんてものはないたった一音の口笛だったが、それを合図に部屋の隅々からぞろぞろと男たちが現れた。


 迷彩服に分厚いチョッキ。ヘルメットまでつけて万全な装備で身を固めている。


 アーチャーがおもむろに手を掲げると、皆が皆、自動小銃を俺たちに向けて構えた。数十丁の銃口が整然と並ぶ。傍目からでは勇壮な光景だったかもしれないが、向けられている俺たちからすれば、背筋がゾッとする光景だった。

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