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改稿中 人と龍  作者: 小宮山 写勒
十一章
125/144

12...........

 靴音をたてず、気配も消す。慎重さが前面に出て小さな息遣いだけが耳に入る。


 研ぎ澄まされた緊張感は、五感をさらに敏感にさせる。


 階段をただ降りるというだけなのに、嫌に冷や汗が背筋を伝っていく。あの暗闇の中から突然敵が出てきたら。そんな嫌な妄想に囚われて、警戒により拍車がかかっていく。


 階段を何度も折り返しながら下っていくと、ようやく地下の入り口らしきものに出くわした。


 銀行の金庫扉のような分厚いドアが構えてある。その脇には壁に埋め込まれた端末があり、カードキーをスライドさせる溝、その脇に手のひらの形が映し出されたタッチパネルがつけられている。また天井隅には二台の防犯カメラがつけられていた。


 地下区画は重要な場所だけあって、流石に警備(セキュリティ)は整えているらしい。


 アマンダはおもむろにカメラに銃口を向けて、銃弾を二発それぞれに打ち込む。火花が一瞬散って、天井の隅がパッと明るくなった。しかし、光はすぐに闇に飲み込まれ、物々しい落下音が響く。


 「さて、これからどうするかよね。問題なのは」


 銃口を下ろしたアマンダは悩ましげに首を傾げた。


 そう、彼女の言う通りここからが問題なのだ。男の話ではカードキーは研究員かロベルト、アーチャーの持つIDでしか読み込まない仕掛けになっている。またこれは男の話にはなかったが、どうやら指紋認証も必要としているらしい。


 「銃で撃ち抜いてみるか?」


 「馬鹿言わないでよ。それで入れなくなったらどうするつもりよ」


 ガブリエルの戯言をアマンダはたしなめる。


 「だったら、どうするってんだよ」


 「それを今考えているんでしょ。アンタもたまにはその錆びついた脳みそを使ってみたらどう?」

 

 「本当に錆び付く(・・・・)のは、お前の方だと思うがな……」


 「何か言った?」


 「いや、何も」


 二人の問答を聞いていると、せっかくの緊張感が緩んで気疲れだけが肩に重くのしかかっていく。全くどうしてこういう時に、平然と井戸端会議的な会話ができるのだろうと、俺は不思議でしょうがない。


 俺がそんな風に思いながら、二人のことを呆れた目で見つめていた時だ。ふと、扉の方から物音が聞こえてきた。カラカラと何かが音を立てて回り、そして何かが外れる音がする。


 アマンダ、ガブリエル、トムは互いに何を言うこともなく自然と銃を構える。そして俺も、腕にモヤをまとわせる。


 扉はひとりでにゆっくりと開かれていく。固く閉ざされていた口が今朝に開こうとしている。


 まさか俺たちを歓迎するために開くわけがない。明らかに、それは敵がこちら側になだれ込んでくる。そんな予感が俺の脳裏を駆け抜けた。


 だが、その予想は軽くあしらわれた。


 開かれた扉の先、一本の長い廊下があった。足元にある非常灯の明かりが、怪しく廊下を照らす。廊下の先にはまた扉があるが、その扉もまたひとりでに開いた。


 まるで、見えない何者かがこっちへおいでと手招きをしているようだ。ホラー映画によくあるような仕掛けに、俺の中で二つの可能性が思いつく。


 一つは運良く機材トラブルが起こってこうして扉が開かれた。なくはないが、その可能性が限りなくゼロに近い。長い間自警団(ミリシア)の目を逃れて、かつここまでの警備体制を維持してきた奴らにしては、あまりにお粗末すぎる。


 ではもう一つ。これが実際には可能性が高く、もっとも納得できる可能性だが……。


 「誘われているわね、これは」


 俺の脳裏に浮かんだ可能性。それをアマンダの声が代弁してくれた。


 そう。誘われている。それは階段を降りる時とは比べようもないほど、あからさまに感じた。


 そして、その先に待ち構えているのは、明らかな罠だ。


 ロベルトが手ぐすね引いて待っている姿が、頭のなかにちらついてしょうがない。きっと奴にしてみれば、全ては計画通りに進んでいるのだろう。何の心配もなく、何の失敗もなく。俺たちも知らず知らずのうちに奴の手のひらの上で踊らされているのかもしれない。


 そして残念なことに、たとえ罠だと分かっていても、手のひらの上で馬鹿踊りをしていると分かっていても、進まないわけにはいかなかった。


 アマンダの足が静かに動く。それを合図にして俺たちは暗い廊下を進んだ。

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