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改稿中 人と龍  作者: 小宮山 写勒
十一章
124/144

11...........

 最後の敵を物陰から引きづり出すと、ガブリエルの銃口がその口に突っ込まれる。


 「どうだい、無理やり突っ込まれる感触は。なかなかなものだろ」


 「ふ、ふははへ(く くたばれ)……」


 言葉にならないうめき声が、男の最後の言葉だった。


 廊下に響く銃弾の音。ガブリエルの銃が奏でるその音は、血と肉片とで彩られ、男の死によって終幕を迎えた。


 銃口を死体から抜き取れば、唾液と血の混ざった橋が伸びる。それをガブリエルが無理やり断ち切ると、横一線に男の顔に朱が描かれた。


 「さて、これでひとまずは片付いたか」


 顔についた返り血をぬぐいながら、ガブリエルが俺を見た。


 「片付いたって言うか。散らかったって言った方がいいと思いますけど……」


 俺は肩で息を吐きながら、背後に視線を向けた。


 そこに転がっていたのは、死体、死体、死体。


 狭い廊下の中に死体の山がいくつも築かれ、廊下の壁から天井から血しぶきで赤く彩られ、物々しい雰囲気が漂っている。


 「我ながら、よくもまあ盛大にやったものね」


 男たちの死体から弾薬を剥ぎ取りながら、アマンダが言う。


 そこには殺人への後悔もなければ男たちを気の毒に思う様子もない。ただ敵を死体に変えたと言う現実をあるがままに受け入れて、ハイ終わり。それ以上の感傷に浸ることも、感情に溺れることもしなかった。


 さすがと言うべきか、それでこそと言うべきか。アマンダのその神経の図太さには呆れを超えて、尊敬の念さえ感じている。


 いや、その尊敬の念はアマンダだけじゃない。彼女と同じように弾薬を回収しているトムも、平然と散弾銃に弾丸を込めていくガブリエルにも、同じ思いを抱いていた。


 その反面、三人に比べて神経細い俺は、吐き気を抑えることに必死になっていた。あたりに漂うむせかえるほどの血の匂いと死臭は、俺の気道を伝って吐き気をもよおした。


 喉のすぐそこにまで昇ってくる胃液を、もう一度胃の中に落とす。それを何度か繰り返していると、口の中にすっぱさが残り、昨日食べた肉と胃液とが混ざった強烈な匂いが鼻を抜けていく。目の前も地獄、体の中も地獄と二つの地獄を味わったせいで、目の奥からジンジンと涙が溢れてきた。


 「ちょっと、泣いている場合じゃないわよ。早い所先へ進まないといけないんだから」


 アマンダの手が俺の背中を叩く。喝でも入れようと思ったのだろうけど、その拍子にせっかく我慢していた胃の中身が吐き気を伴って押し寄せてきた。


 溢れてしまわないように口を押さえて上を向いてどうにか腹のなかに戻す。その努力の甲斐あって、汚い架け橋を口から伸ばさなくて済んだ。が、その代わりひどく気分が悪くなった。


 「ちゃんと吐いちゃえばいいのに。その方が楽でしょう?」


 「……吐いちゃうと、体力持ってかれますから、今は、我慢します」


 「我慢したって体力は使うと思うけど」


 それはそうだが。我慢した今言われても仕方がない。


 「まあ、いいわ。それより先に行かないとね」


 アマンダはさらに二回俺の背中を叩いた後、その顔を前に向ける。


 彼女の視線の先には階段があった。それも上に昇るものではなく、下に降るためだけにある階段だ。敵を退けながら、右へ左に、頭の中の地図を頼りに進んできたが、ようやく念願の階段を見つけた。


 階段の降り口には変わった様子はない。暗証番号が必要なわけでもなく、指紋認証が必要なわけでもなく、カードキーが必要なわけでもない。ただそこには階段が暗闇のなかにあって、わけなくその口を開いているだけだ。


 「ガブリエル、これ」


 アマンダはガブリエルを呼ぶと、彼女に向けて何かを投げた。空中でくるくると回転しながらガブリエルの手に届いたそれは一丁の拳銃だった。


 「そいつらから奪ったやつだけど、それ一応持ってなさい。弾切れになった時に使えるはずだから」


 アマンダの気遣いの言葉を耳半分に、ガブリエルは拳銃の弾倉を確認する。


 「他に弾倉は?」


 「それくらい自分で探しなさいな。そこらにいっぱい転がっているんだから」


 「まあ、確かにな」 


 ガブリエルは肩をすくめると、先程殺したばかりの男から弾倉を二つ拝借する。

 「先頭は私が行く。リュカくんは私のすぐ後ろについて。ガブリエルはリュカくんの後ろ、トムは最後尾をお願い。気をぬくんじゃないわよ。まだ残存勢力が残っているかもしれないからね」


 弾倉を変えながらアマンダは言うと、いよいよその階段の方へと移動を始めた。焦らず、急がず、かつ素早く。非常灯の明かりを頼りに、階段のそばへとやってくる。


 踊り場から銃口を出して下を覗いてみるが、人影は見当たらない。気配も、足音も、何もない。


 これを幸運と考えるのは、この場に誰一人いなかった。あれほどの攻撃を加えてきたのに、今になって嘘のような静けさが俺たちを取り囲む。


 誘われている。そんな気がする。だが、だとしてもここで止まっている理由はなかった。

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