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俺の足元に転がってきたそれに目を向ける。
黒く小さな鉄の筒。表面には細かな文字が刻まれているが、あたりが暗くてよく見えない。上部にはプラスチック製のつかみのような部品が付いていた。
何だこれ。そう考えているうちに、その物体は破裂し、耳をつんざくような音ともに、俺の視界は白一色に染まった。
突然、あまりに突然の出来事。俺の頭は状況に置いてけぼりにされて、まんまとパニックに陥った。右も左も前も後ろも、たった一瞬のうちに判断つかなくなる。
視界は晴れてきたが、今度はまったく焦点が合わなくなった。ゆらゆらと陽炎のように視界が歪んで、足元がおぼつかない。おまけにひどい耳鳴りもする。酒に飲まれて酩酊した時も、こんな感じだった気がするが、症状の酷さで言ったら今の方が段違いにひどかった。
何とか膜は張り続けていたものの、その一瞬のパニックで若干緩みがでたらしい。腕や足に痛みが走る。目で確認することは出来ないが、おそらく銃弾が皮膚をかすめていったんだろうと思う。爪で引っ掻いたのなんか目じゃないくらい痛い。なにせ肉をちょっとばかり削っているんだから、痛いはずだ。
だが、幸い俺の体は貫かれていない。なら、背後にいるはずのアマンダやトムには弾丸は届いていないはずだ。まだ、盾として役目をおうことはできる。
と、その時だ。俺の襟元を乱暴に誰かに掴まれ、背後に引き込まれた。一瞬首が閉まり、グェと潰れたカエルみたいな悲鳴が口から出る。引っ張られた先にまた何かが俺を掴んで、今度は横に引きづり込まれた。
休む間もなく体を引っ張られ、クラクラとする視界も相まって俺は軽くよった気分になった。
「しっかりしなさい」
アマンダの声が聞こえる。声の方に視界を向けると、アマンダの歪んだ顔が二つ浮かんでいた。
「クラクラします……」
「スタンを直接食らったんだから、仕方ないわね。まあ、でもよくここまで頑張ったわ。お疲れ様」
アマンダはそう言うと、俺の肩を軽く叩いてくる。俺はそれに軽い会釈で答えながら、目を閉じてこのぼやけた視界を治すことに注力した。
「まだ目がくらんでいるのか」
ようやく落ち着いてきたかと思えば、トムの声が聞こえてきた。さっきよりも幾分マシになっているから、ちゃんと彼の姿を捉えることができた。
「ええ。でも、大丈夫です」
「そいつはいい。こんなところでへばられたら、どうしようかと思っていた」
トムはそう言いながら、物陰から銃口を出して弾丸をばらまいていく。これで簡単にこっちへくることは出来ないだろうが、それでも時間が経てばたつほど状況は悪くなっていくだろう。
「リュカくん、私たちはここであいつらを押さえておく。そのうちに、ガブリエルを迎えにいってきてくれないかしら」
「……大丈夫、なんですか?」
「何? 心配してくれるの」
「心配しないはずがないでしょう。あっちからうじゃうじゃと敵が来ているんですから」
「誰かがここで粘ってあいつらを邪魔しなくちゃならないってことは、君にもわかるはずでしょ? 心配してくれるのはありがたいけど、それならなおのことさっさとガブリエルを連れてきてほしいわね」
「それは、そうかもしれませんけど……」
「その必要はなさそうだぞ」
アマンダに説き伏せられていた時、ふとトムが俺の背後を向きながら口を開いた。彼の目を辿って視線を背後へ向けると、そこには見慣れた顔があった。
「ずいぶんひでぇ顔でみるじゃねえか、リュカ坊」
そこにはブカブカの警備服を着たガブリエルが立っていた。