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改稿中 人と龍  作者: 小宮山 写勒
十一章
120/144

7...........

 「3、2、1……行って」


 アマンダの合図を皮切りに、俺は先頭に立って部屋を出た。それと同時に両手を前に伸ばし、腕にまとわせていたモヤを放射状に手のひらから伸ばす。


 するとどうだ。俺の頭や身体、それに足元にまで、無数の金属の先端が迫ってくる。だが、そのどれもが俺の体を貫くことはなく、皮一枚のあたりで止まって、パラパラと下へ落ちていく。大げさにモヤを広げておいて正解だった。と俺はヒヤヒヤしながらも内心ホッとしていた。


 「ほら、出来たじゃないの」


 アマンダはそう言って俺の肩を叩く。そしてすぐ後ろに体を隠し、俺の右腕の二の腕あたりから銃口を突き出した。そしてトムはアマンダの後ろに隠れる。


 「先に進んで」


 一列になったところで、アマンダは俺を先へと促す。それと同時に引き金を引いて男たちめがけて弾丸を放っていく。モヤを広げているからアマンダの弾丸も止めてしまうのではないか。という不安があったが、その心配は必要なかった。

 

 モヤの内側から飛び出した弾はモヤを貫き、問題なく敵へと殺到していく。どうやらこのモヤによる結界は手のひらの向こう側からの攻撃には効果を発揮するが、俺の背後からの攻撃は防げないようになっているらしい。驚くべき発見だったが、しかし注意している暇はなかった。


 銃撃戦の矢面に立たされた俺は、膝が震えて仕方がなかった。鉄火場に立ったことなんて一度もない、平和ボケしていた男には、こんな空気は耐え難い。膝の震えは体へと登り、俺の両手もプルプルと震え始める。


 だが、逃げることは考えなかった。それもこれもアリョーシを助け出すと言う思いがあったからだ。それがなければ、こんな物騒な世界に足を踏み入れたりなんかしない。


 震える体に叱咤し、俺はゆっくりと先へ進んだ。闇の中に浮かぶいくつも銃口。それらから放たれる銃弾はすべて俺へと向かってくる。少しでもモヤの調節を間違えれば、俺の体は血まみれになり、アマンダやトムもろとも血の海に倒れることになる。


 いやな想像だった。だが、その想像が簡単の現実になってしまう環境が目の前には整い過ぎている。少しの油断はその現実を引き寄せてしまうきっかけになる。その不安は俺の神経をより尖らせ、腕から指先にかけてのモヤの調整により一層集中させてくれた。


 敵の排除はアマンダとトムが買って出た。一人が弾切れになれば、そこをもう一人が変わって撃ち、また弾が切れれば、装填までの時間をもう一人が稼ぐ。先ほどの部屋で見せていた連携そのままに、アマンダとトムが引き金を引き続けた。


 あまりにでっち上げの戦法だったが、これがうまくハマり、敵を次々と退けることができた。それは、自分でも言うのもアレだが、きっと俺のこの能力があったからに違いない。


 まんまと見つかった侵入者を追い詰め、そして撃ち殺す。ただそれだけの作業だと考えていたところ。まさか妙な力によって弾丸を防ぐ奴がいるとは想像がつくはずもない。俺だってそんな化け物みたいなやつがこの世に存在するなんてこと、想定の範囲に入れることなんてしなかっただろうから。


 物陰に隠れていて男たちを追い詰めて、弾丸をお見舞いしていく。しかし敵の数は少なくなるどころか、廊下の奥から次々に現れては、銃を構えて撃ってくる。アマンダとトムは倒した死体から弾倉を奪い取ったり、銃ごと交換したりと、弾切れを起こさぬようにしながら、絶えず弾丸を撃ち込んでいく。


 いくつもの弾丸、数え切れない薬莢が廊下に散乱していく。換気しようとしても廊下には窓一つないからそれもできない。むせかえるような匂いに顔をしかめながら、なるべく気にしないようにするしかない。


 ようやくこの絶え間ない銃撃戦の終わりが見えてきたのは、牢へと続く曲がり角が見えてきた時だった。前方はどうやらどん詰まりらしく、敵はちらほらと出てくるだけ。アマンダが排除をすれば、前方の敵はいなくなった。ようやく休めると思ったのもつかの間、今度は俺たちのあとを追いかけるように、後方から幾つもの足音が聞こえてきた。


 俺はすかさず後方へと身を翻し、トムの後ろに立って膜を広げる。途端に幾つもの弾丸が俺の目の前に飛んできた。危うく穴が開くところだったが弾丸は膜によって受け止められて、パラパラと下へと落ちていく。つくづく便利な能力だと、勝手ながら思うくらいだ。


 しかし、その自信のような思い込みが一瞬の油断を生んでしまったのだろうか。カラカラと音を立てて転がるそれに、気がつくのが遅れてしまった。

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