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改稿中 人と龍  作者: 小宮山 写勒
十一章
117/144

4...........

 甲高い電子音がなると同時に、端末に浮かんでいた蛍光灯の灯が赤から緑に変わった。そして音を立てて鉄の扉は横にスライドし、いよいよ俺たちにその硬い口が開かれた。


 部屋の中からは何人かの男の声が聞こえてくる。ちらと俺が中を見てみると、広々とした部屋の中に何人かの足が見えた。黒い質の良い革靴を履いた足が八つ。つまり四人の人間の足が見えるが、どれもこれも一定の方を向いていて、扉の方なんか見向きもしない。


 彼らの足の先にあるもの、それはいくつもの画面が並んでいる。カメラの機能のせいか画面に打つる映像はどれも緑色で、曲がり角や廊下、部屋の前など建物のいたる所を映し出している。


 「なんだ、誰だ」


 注意深く見ていると、一人の男がこっちに歩いてきた。コツコツとかかとを鳴らすその足の先には、屈強な体躯と無骨な丸坊主頭の顔がある。その顔には怪訝な表情を張り付かせて、扉の先に広がる闇を見つめているようだった。


 開け放たれた扉からいつまで待っても誰も入ってこない。不思議に思う反面、男の中にある警戒心が刺激されたんだろう。男は首に下げていた自動小銃を構えながらゆっくりとこちら側に歩いてくる。男の様子を見てか、それまで画面に目をやっていた男達も同じようにこっちに足先を向けていた。


 「リュカくん、ちょっと後ろに隠れていて」


 アマンダはそう言うと、俺の肩をひっつかんで無理やり後ろへと下げさせた。危うく後ろに転がってしまいそうになる。そこをどうにか態勢を保ちながら、俺はアマンダの背中に隠れた。 


 男の足が扉からほんのちょっと出た時、トムが構えた拳銃から一発の弾丸が放たれた。目で追うことなんてできないが、かすかな発射音でそうだと分かる。銃口は斜め上へと向けられていて、その先には男の顔。無精髭の生えた顎があった。そうと気付いた瞬間には、男の下顎に真っ赤な血しぶきが飛んだ。


 呻く男をトムが捉え、膝にもう二発弾丸を撃ち込んだ。巨躯を支えていた二つの肉柱は無残にも崩れ落ち、男の体がトムの顔ほどに倒れていく。アマンダトムは男の体を受け止めると、その巨躯を盾にしながら中にいる男達目掛けて引き金を引いた。


 一人、二人、三人。わずかな間に男達は倒れていく。アマンダも男と扉の囲いの隙間から銃口を出して援護を始める。


 静かな銃撃の嵐に中にいた男達はなんの抵抗もすることができず、とうとう最後の一人が血だまりの中へと倒れた。微かに臭う硝煙の匂いと濃すぎるほどの血潮の匂い。この二つは俺の鼻を捻じ曲げて、気持ちの悪さを感じさせる。


 トムは巨躯の男を部屋の中に引きずり込むと、おもむろに彼の持っていた自動小銃を取り上げる。残弾を確認し弾丸を銃に装填すると、自分のものにでもしたかのように、首にぶら下げた。


 「さて、ガブちゃんはどこにいるかしら……」


 鼻歌でも歌い出しそうな陽気さで、アマンダは画面の群れに目をやった。そしてガブリエルの姿を見つけた。


 画面上部には部屋番号らしき1−04という数字が刻まれている。画面の並ぶ壁から視線を下にずらしてみると、そこには番号に対応するいくつものボタンが並んでいる。試しにガブリエルのいる1−04というボタンを押してみると、音を立てて扉の鍵が開いた。


 「トム、ここを見張っていて。ガブリエルを迎えに行ってくるから」


 「分かった」


 自動小銃を抱えながら、トムはなんてことなさそうに返事をした。


 その時だ。部屋の中からうめき声が聞こえたのは。


 声の方を向いてみると、壁に背中を持たれかけた血濡れの男が、拳銃を俺たちの方へと向けていた。


 危ない、そう声に出す時間すら惜しい。


 俺はとっさに二人の前に出た。それと同時に腕にモヤをまとわせる。


 そして俺が腕を前に出したと同時に、男の拳銃から弾丸が放たれた。馬鹿にでかい発砲音が鼓膜を貫く。思わず目を閉じて耳を塞ぎたくなったが、あいにくと俺の手には仕事があった。


 薄く伸ばすようにモヤを広げて、こちらに向かってくる弾丸を包み込むように受け止める。弾丸は勢いそのままに俺の手のひらへと向かってきたが、しかし貫くまでには至らない。手の中心のあたりにコツンと当たったきりだ。 


 実戦で使うに初めての能力だったが、うまくいってよかった。ほっとする俺とは対照的に男の方は驚きのあまり目を見開いている。


 が、それが男の最後の抵抗だったのだろう。拳銃を構えていた腕がゆっくりと落ち、目は見開かれたまま動くことはなかった。


 「ありがとう、助かったわ」


 そう行って肩を叩くアマンダを、俺は肩越しにみる。しかし、アマンダの表情には少しの安堵も浮かんではいなかった。


 「でも、ちょっと面倒なことになったかもね」


 アマンダは皮肉に頬を歪める。その時だった。天井のスピーカーからけたたましいサイレンの音が聞こえてきたのは。

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