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改稿中 人と龍  作者: 小宮山 写勒
十一章
114/144

1...........

 その周囲には電灯もなく店の明かりもない。 だからエデンの街中よりもここには色の濃い闇があった。そして闇は辺りを覆い隠して、建物も瓦礫も人間も全て黒く塗り固めてしまう。この闇の中から何か得体のしれないものが出てくるのではないか、と変な妄想をしてみては寒々しく身震いさせる。


 けれどこの時の闇は俺たちに味方をしていた。

 ビルの屋上から向かいの建物の屋上へと飛び移り、また次の建物の屋上へと飛び移る。下手に姿を見せることなく、安全に行動する上で夜の闇はこの上ない隠れ蓑になった。


 発信機の電波が残る建物。つまりはアリョーシとアーロン、それにユミルとがいるであろう建物の前につくと、アマンダとトムが立ち止まった。


 「やってちょうだい」


 アマンダは無線を使って指示を出すと、遠くから何かが風を切る音が聞こえてくる。何の音だと振り返っている合間にその音は俺の頭上を越えて、スーツの男たちのいる屋上へと向かっていった。


 そして次の瞬間、男たちのうめき声が風に乗って闇の中に響いた。しかしどうやらその声たちは地上を歩く男たちの耳には届かない様子で、何事もなかったかのようにその辺を警戒している。


 『排除完了』


 ゼレカの声がイヤホンから聞こえてきた。それが合図となって俺たちは行動を始める。


 まずアマンダとトムが用意させた細いワイヤー紐を取り出した。その先にはフックがついていて一種の鉤縄(かぎなわ)のような形状をしている。それを二人をそれぞれ屋上へと投げた。


 かたり、と硬い金属音が小さく聞こえる。それからグイグイとワイヤーを引っ張ってみて、きちんとフックがかかっているかを確かめた。どうやら、成功はしたらしい。念の為階下を見てみるが、男たちは相変わらずそこここを歩き回っているだけ。こちらに気づいた様子はなかった。


 一番手はトムが務めた。ワイヤーに掴まって縁を蹴って向こう側の建物へと跳躍した。するとターザンロープのような格好でやや緩やかな楕円を描いて、建物の壁に足をつける。衝突音はほとんどなく、階下の連中は気にも留めていない。そのままスルスルと上へと登って行き、屋上へと登り遂せた。


 「リュカくん、次よ」


 そう言ってアマンダは自分で持っていたワイヤー紐を俺に渡す。彼女はどうするのかと思ったが、トムから投げ渡されたワイヤー紐を見て心配はないことに気がつく。


 安心したところで俺もトムを真似て縁を蹴る。ブランコを漕ぐみたいに全身に風圧を感じながら、俺の体はみるみると壁へと向かっていく。壁にぶつかる直前、膝を曲げて足の裏を壁へ向ける。そして足の裏で壁を感じていると、膝で衝撃を和らげながらなるべく音を立てないように気をつけた。


 さて後はスルスルと屋上へと登る。そして屋上にいるトムに手伝ってもらいながら、屋上へと這い上がる。


 そこには五人の男が倒れていた。気絶、ではない。皆同じように頭部に大きな穴が開いており、そこからとめどなく血が流れ出している。


 「殺したんですか……?」


 「それ以外、どう見えるんだ」


 さも当然と言いたげに、トムはそう言うと俺が使ったワイヤーをスルスルと持ち上げていく。そして巻き取ったそれを屋上にまとめておくと、アマンダの到着を待ち、彼女が上がってくると、引き上げた。


 「どうしたの?」


 死体を前にして立ち尽くしていると、肩越しにアマンダが声をかけてくれた。


 「……いいえ、なんでもありません」


 「そう。なら行きましょう。いつまでもここにいられないから」


 アマンダは俺の肩を叩いて見せると、すぐに俺の横を抜けて屋上入口へと向かっていく。そのあとをトムが続く。俺だけがそこに転がる死体たちを気にかけているようだ。考えても見れば、自警団という仕事柄嫌というほど死体をみているだろうから、アマンダやトムにとっては珍しくもないのだろう。


 だが俺は、人の死体というのは見慣れていなかった。ましてや自分たちの行動によって死んだ人間を見るのなんて、生まれて初めてのことだった。


 ひどい吐き気がこみ上げてくる。だがこんなところで吐くわけにもいかず、遡ってきた胃液をどうにか胃の中に戻し、息を吐き出す。喉からは胃液の嫌な匂いとヒリヒリと焼ける嫌な感触がした。


 「何やっているの、置いていくわよ」


 「は、はい」


 小声での催促に俺は小さな返事をして、すぐにアマンダの方へと向かった。

 今だけでもこの死体の転がる風景に慣れていないと。でなければ、今度増えていく死体を見て、いちいち吐かなくちゃならなくなるから。

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