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4..........

 アマンダの後を追ってゼレカがシャワーを浴びて、新品のスーツに袖を通した。汚れた衣服は全て処分することになり、たたむことなく大きなビニール袋に突っ込まれる。

 

 せっかくガブリエルの所の大家さんにもらったのだが、あそこまで汚れてしまったら、帰って見せるのも辛くなるだろう。


 申し訳なさと勿体なさ。この二つの感情に悩まされながら、ゴミのように扱われる衣服を、俺は眺めていた。


 衣服を用意していたのは、あの男だった。話を聞いてみれば、かの男はアマンダやガブリエル、それにゼレカとも面識のある男で、名をトム・ロウというらしい。


 トムはアマンダに衣服を用意しておくように事前に頼まれていたらしい。男性のトムが女性の衣服をどうやって用意したのか、気になる所だったが、あまり詳しくは聞かなかった。


 聞いたところでどうこうなるわけでもないし、聞いたとしてもぎょろりと半月状の目が睨んでくるだけだった。


 トムはゼレカが風呂から上がったのを見ると、部屋の隅に置いてあったリュックサックを手に取る。


 そして、そこからタブレットを一つ取り出すとそれをゼレカへと差し出した。


 彼女はそれを受け取ると慣れた手つきで操作していく。何を見ているのかひょいと画面を覗いてみると、そこにはエデンの地図とアーロンという名前が入った大きな点が映っていた。


 俺たちが渡した発信機が機能しているらしい。今のところアーロンはリーコンの社屋、その最上階の一室に反応があった。


 「トム、電話貸して」


 アマンダの頼みにトムはスマホを投げて応えた。

 慣れた手つきで番号をタップし、耳に当てる。


 「……ああ、もしもし。こちらアーロン・ロドリゲス氏のお電話で間違いないでしょうか……あ、ご本人様ですか。これは失礼いたしました。私、自警団(ミリシア)のエマ・グリンハルトと申します。うちのレイモンドから伝言をお伝えしろとのことでお電話させていただきました」


 得意の声マネでありもしない女性の声を作り出す。そこにいるのは俺の知っているアマンダで間違いなかったのだが、声だけはエマ・グリンハルトといういもしない別人のものに差し代わる。


 その姿は一度見ているのだが、やはり奇妙だった。


 だが、それはあくまでアマンダとアマンダの喉から出る声とを見ているからで、声だけを聞いているアーロンには気づくはずもないことだった。


 「『今夜はよろしく頼む』とのことです。うちの部長にしては珍しく楽しそうでしたので……ああ、失礼いたしました。立ち入ったことを聞いてしまって。我々自警団の悪い癖でしょう……は? ええ、伝言は以上です。それ以外のことは私には。……はあ、かしこまりました。では、そのようにお伝えいたします。それでは失礼します」


 アマンダはそう言って電話を切ると、トムにスマホを投げ渡す。


 「『こちらこそよろしく、今夜は車で行くことになりそうだから。そのつもりでいてほしい』だってさ」


 「流石に場所までは教えてくれませんでしたか」


 「まあ、無理でしょうね。そこまで期待をして電話をしたわけじゃないし、あくまでこっちも動くからって連絡しただけだから……トム、武器は?」


 アマンダの言葉にトムはリュックサックとは別にゴルフバックを一つ彼女の前にどんと置いた。


 開けてみれば拳銃やらライフルやら、人殺しの重火器がずらりと口を向けている。


 中身を確かめたアマンダはそっとバックの口を閉じて、その場に置いて離れた。そしてどかっと床に腰を据えると、腰に差した拳銃を取り出した。


 「ありがとう。用意するの大変だったでしょう」


 「別に。お前の心配することじゃない」


 ぶっきらぼうにトムが言った。


 「派遣されたのは貴方だけ? 三人が手伝うって聞かされていたんだけど」


 「ディックとハリーか。あいつらはこことは別の場所に待機している。お前の合図があれば、すぐに動く」


 「助かるわ。あとで酒でも奢ってあげなくちゃね……もちろん、貴方にも」


 「俺は下戸だ。奢るのなら他のにしろ」


 「そう。まあ、あとで考えておくわ。二人にはそのまま待機してもらって、アーロンが動き次第、各自で動くように」


 アマンダは言葉の後、すぐにゼレカの方を向いた。


 「ゼレカは三人に発信機のデータを送ってあげて。情報を共有しておいた方が便利でしょうから」


 ゼレカは一つ頷くとトムに歩み寄り、その首筋にタブレットから伸ばしたコードをつけた。


 トムは何てことなさそうに目をつぶったまま、ゼレカの作業が終わるのをじっと待っている。


 何度か義体化によるその一連の作業を目にしているが、やっぱり俺には慣れっこない光景だ。


 なんだか気味が悪い、というのもあったのだが、トムの体の中にモーターやネジや電子回路が入っているというのが、今まで信じられないのだろう。


 作業が終わると、トムは目を開いた。


 「それじゃ、あとは機を待つばかりね」


 アマンダのその言葉が、少しばかりの混乱に陥った俺の頭を、再び現実へと戻してくれた。

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