08 神様からのお願いです
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「お願い、聞いてくれるよね?」
『道』を閉じたって言ってたし、ゲームも終わってるんだからプレイヤーは私だけってのは納得出来るんだけど……それよりも!
いつの間に妹になったんですか!? さっきの『お兄(姉)ちゃん』発言で決定してたの!?
てか『お願い』がここに繋がるんですか?
「えっと、マースさ「サーヤ?」」
ひぃぃっマース様こわっ!?
顔は笑ってるのに目が笑ってないよ!
いーやーっこんな事で神の威圧を使わないでー!
「マース……お、お兄ちゃん」
怖いのと恥ずかしいのを我慢して、プルプル震えながらもなんとか答える。と、途端に優しい笑みに変わった。
「何かな? 可愛いサーヤ」
あ、本当に嬉しそう。そうですか……そんなにですか。ルーナ様も呼んで欲しいのかキラキラした目で私を見つめてますね~。話が進まないので少々お待ちくださいな。
「お願いを聞く前に、一つ質問が……」
さっきとても気になるお言葉を頂きましたので、忘れないうちに聞いた方が良さそう。マース様に視線を向けると頷いてくれました。
「私になら力を使える、とはどうしてですか?」
「それはサーヤが『エニティア』だからだよ。エニティアは異界の魂と僕らの力で創った肉体を持っているからね」
ふむ。
本来は魂までこの世界に在る力で出来ているものだけど、私の魂は地球がある世界の一部だからその分容量に空きがある。その空きの分だけ力を使えるとか?
「大体そんな感じかな?」
「……そうですか」
頭の中で考えてるつもりだったけど、どうやら声に出していたらしい。
「ああ、そう無いけれど私たちが地上に降臨する時は、サーヤを媒体にする事になるわ。宜しくね?」
申し訳なさそうに告げるルーナ様に頷きで返す。
世界を壊さない為には仕方がない事だし、私に掛かる負担も魔力の消費だけ。その消費だって一晩眠れば回復する位の量なら否やはない。
まぁ『神の降臨』なんてそれこそ世界の危機が迫る時くらいしかないだろう。ルーナ様も『そう無い』って言ってるし、今は気にする必要はないね。
取り敢えず疑問も解消したし、本題に入りましょうか。神様のお願い……嫌な予感しかしないけど。
「それで、先程のお願いなんですが……私は何をすれば?」
「それは俺からな。別に大したことじゃない。サーヤには上位の魔獣や幻獣を狩って貰いたいだけだ。サーヤが望む素材も手に入るだろうし、一石二鳥だろ?」
簡単だろ?とガルス様の目が言ってます。
えっと、それだけ?
いや、確かに魔獣なら大丈夫だけど。神様が直接お願いしなきゃいけないこと?
「他に倒せる人、居ないんですかね?」
誰も居ないなら解らなくはない。だって私が引き籠ったら倒せなくなるんだろうし。でも、じゃあ今までは?
それに、下位でも幻獣になると強さが格段に上がるんだよね。物理無効とか魔法無効とかも出てくるしな! ソロはキツイと思うんですよ。
「居ない訳じゃないんだが、数が少なくてな。今は……全ての人族で四、五人か? チームでならもう少し増える。八百年前に数ヶ所のダンジョンから同時に魔物が溢れた『大氾濫』で、随分減ったからな。あの時は国が幾つか沈んだはずだ」
ん? それはゲーム開始前の話ですか?
確か、現実の一日はゲームで三十日、一年は約三十年だから、十周年になった時点でゲーム内は大体三百年経過したことになるよね。
そう聞いたら何やら可哀想な子供を見る目で頭を撫でられました。何故だ!?
「サーヤ、僕たちが『道』を閉じてから千五百年経ってるんだよ」
ファッ!?
え、嘘? マジですか!?
目を見開いて固まった私の頭はずっとガルス様に優しく撫で撫でされてます。はうぅ、大きな手が暖かくて気持ちいい~♪
ぢゃなくて!!
最後にポンポンされて我に返った私が正面に目を向けると、創造神ズは何故か悔しそうにガルス様を睨んでました。首を傾げてガルス様を見上げた私に、ガルス様は溜め息をついて緩く頭を横に振った。うん、わからん!
詳しく聞くと、リグド大陸で起こった『大氾濫』の所為で人族の人口が激減し、更に生活圏も縮小されたとのこと。今の生活圏は、大体総陸地面積の三割だとか。残りは魔物が多く生息する、所謂『魔の森』になってしまったらしい。
ゲーム終盤で六割まで拡がっていたはずなので、三割減したのか……
「はぁ、まぁ解りました。出来るだけガンバリマス」
「ありがとう。でも基本的にサーヤを縛ることはしないよ。自由に好きな事を優先していい。僕たちのお願いはついでくらいに考えてくれていいからね」
マース様の言葉に頷くと、今回ここに喚ばれた目的が達成されたのか、空気が一気に弛んだ。
「難しい話も終わったわね。遅くなったけれどお茶にしましょう」
パチンと手を叩いて微笑んだルーナ様が、お茶を勧めてくれました。やった! ずっと香りが気になってたんだよね!
さて、ここから楽しいお茶会が始まる……のかな?
◇ ◇ ◇
あれから、お茶を飲みながら二時間程昔の話――主に私のゲーム時代の話ですよ――で盛り上がった。
私にとってはそんな古い話って訳じゃないけど、神様ズは大体の出来事を把握していて、大まかにでも思い出の共有ができるのが嬉しかった。
ルーナ様は『お姉ちゃん』呼びをしたらとっても喜んでくれました。クッキーを『あーん』されたのはめちゃくちゃ恥ずかしかったけど、神様には逆らえませんからね。頑張って乗り切りましたとも!
……誰か巧く躱す方法教えてくれないかな。
そろそろ地上では夜明けも近いということで、お茶会もお開きの時間です。立ち上がってお礼と挨拶をしようと思ったら、マース様に止められました。
はて? まだ何かありましたか?
「お願いを聞いてくれた報酬、という訳ではないけれど、サーヤにはこれをあげる。僕が作ったんだよ」
そう言ってマース様は私の手首に白金の腕輪を着けてくれる。と、途端にキュッと縮まって丁度良いサイズになった。
うーわー、神様から下賜されちゃいましたよ。しかも自作ですか。
これはSSSランク――神々しか作り得ない物。プレイヤーが作れるのはSランクまでだった――装備ですね。
細い白金の輪に緑色の石が大小三つ、よく見ると石を包むように、全体的に細かい蔦模様が刻まれていて、その精巧さに眼を奪われる。
「その腕輪には『偽装』と『隠蔽』の効果があるよ。気づいていたと思うけど、サーヤの魔力が強すぎて周囲に弱い生物が近づけなくなっていたからね。それを着けていれば任意に魔力を抑える事が出来るし、ステータスも書き換えられる。もし『鑑定』されても書き換え前のステータスは僕たち以外には見えないし、その腕輪も僕たちにしか外せないから安心して。目が覚めたら試してみるといい」
え、あの二百メートルは魔力漏れの所為だったの!? いや、そうだよね。まさか臭いで二百メートルはないよね! うんうん、モチロン分かってたよ!?
ちょっぴり冷や汗をかきつつコクコク頷いていると、神様ズに呆れたような視線を頂きました。
「んん、私からは『祝福』として便利なスキルを贈るわ。頑張って育ててね。詳細は後で確認してちょうだい」
「あと、僕たちから大切な妹に『加護』をつけてあげる」
「はい。お兄ちゃん、お姉ちゃん。ありがとうございます」
どうやらスルーしてくれるらしいです。そうですよー、細かい事は気にしないのが一番なのでツッコミはいりませんよー。
にしても新しいスキルかぁ。うん、楽しみ♪
「最後に俺だな。俺はもうこの世界で力を使うことはしないと決めているから、代わりに――」
言いかけて止まってしまったガルス様を見ると、何故か中空を睨み付けたまま固まって、動く気配がない。時間が経つにつれ、眉間のお山がどんどん険しくなってます。どうしたんでしょう?
暫くして動いたと思ったらクルリとこっちを向いて真っ直ぐ視線を合わせてきた。驚いたように目を見開いて、私を凝視してるけど……え?
私、何かしちゃいましたか?
あの、ちょっと怖いんですけど?
困って創造神ズを見ても苦笑してるだけなんで、どうしていいか解りません。
説明を! 誰か説明お願いしまーす!!
「あー、その、サーヤ」
どこか言いにくそうに視線を逸らせてガルス様が口を開いた。
「は、はい?」
「あー、実はサーヤに預かって欲しいモノがあるんだが……報酬は、さっきのと合わせて何でも好きな素材を言っ「お任せください!!」」
ガルス様の大きな手を両手でガッシリ掴んで、満面の笑みで了承しちゃいますよ! 素材の為ならどんな物でもドンと来い!
「そ、そうか」
「はい!」
うふふ~♪
神様だもん、どんなレア素材だってOKだよね!
実はゲーム時代にイベントでほんの数個配布された、超レアな素材がずっと欲しかったんだよね。
手に入れたプレイヤーが売りに出すこともなくて、もう諦めるしかないって思ってたのにこんな所で手に入るかもしれないなんて! あ、でも……
「あの、複数でも良いでしょうか?」
もしかして一つだけだったかな。アレを作る為に集めてた他の素材は自宅と一緒に消えちゃったから、出来たら纏めて欲しいんだけど……
「別にいいぞ。何が欲しいんだ?」
おー、言ってみるものですね!
早速欲しい物の種類を伝えると、とっても微妙な顔をされました。んー、変かな? 凄く便利な物が作れるハズなんだけどなぁ。
「まぁ、それなら五日もあれば揃えられるだろ」
「やったぁ! ありがとうございます!!」
届いたら早速作れるように色々用意しないとと、ウキウキしながら考えていたら、また頭を撫でられました。
「預けるモノは直ぐ送るから、頼むな」
微笑ましげに私を見てるガルス様がなんだか『父親』化してるのは気のせいですか?
そして創造神ズ、なんでまた睨んでますかねぇ?
さて、今度こそ本当に帰る時間のようです。
「サーヤ、またお茶会しましょうね。あぁ~離れ難いわ!」
「サーヤが自由に生きられるよう見守っているよ」
「また会う機会があれば素材はまかせろ」
そう言って手を振る神様ズの笑顔に見送られながら、私の意識はゆっくりと落ちていったのだった。
お読みいただきありがとうございました。
これでストックが切れたので、今後更新は不定期になると思います。