03 目覚めた先は……
優しく頬を撫でられた気がして目を開けると、最初に視界に飛び込んできたのは満天の星空だった。
「……ふぁぁ」
視界いっぱいに広がった星々の美しさと、迫って来るような、吸い込まれそうな感覚に溜息ともつかないような声が微かに漏れる。
数秒か数分だったのか、硬直した思考を動かしたのは、前髪を揺らした暖かな風。と同時にサワサワと心地よい音色を奏でる草の音が耳に届く。
起き上がって周囲を見回すと、そこは足首程の背丈の草が絨毯のように広がるなだらかな丘の上だった。
四方は真っ黒な森に囲まれていて、建築物はおろか道すらも見つけることはできない。
遠くの空がうっすらと白けてきていることから夜明けが近いのだけが解った。
――私、なんでこんな所で寝てたんだっけ?
寝起きの所為なのか回らない頭で、それでもなんとか現状を把握しようと思考を巡らせる。
確か、自宅でいつものようにお気に入りのゲームをしていたような……?
「わわっ」
一瞬吹いた強い風に煽られたスカートを反射的に押さえる。慌てて向けた視線の先にあるものが視界に入った瞬間、私は首を傾げた。
それは、銀色の長い糸。
「じゃない、髪?」
引っ張ると痛いから確かに私の髪らしい。
「いやいやいや、私の髪は黒だったはず! だって生粋の日本人だし! それに胸! 私の大事なDカップのお胸様は何処に消えたの!? え、なんか全体的に縮んでませんかぁぁぁ!?」
若干パニクりながら身体中をパタパタ確認していたら、ふと見慣れたモノが視界に入って手が止まった。
一見シンプルに見える黒銀の輪に直径一センチ程の赤い石が光るそれは、私が所属するチームのメンバーである証の腕輪。
「ああ、ここゲームの中なのかぁ。……あれ、私の髪って金じゃなかったっけ? 暗いから銀に見えるだけ?」
眠る?直前の記憶が無いのが気になるけど、一応腑に落ちたところで改めて自分の姿を確認してみる。
私の分身であるアバターは年齢十二歳、身長も百四十センチと現実より三十センチ近くも低い。
縮んだと感じるのも当たり前だね!
ついでに服装は膝丈に五分袖のシンプルな菫色のワンピースに白のエプロンドレス。脛までの編み上げブーツは焦茶色で、クリーム色のフード付外套の下には、たすき掛けにした鞣し革の鞄。
イメージはちょっと旅行中の『田舎の村娘』って感じか。
「でも何でこんな所に居るかな。つかここ何処?」
いくら月明かりがあるとはいえ、あんなに遠くまで見えるのは変だとは思ったけど『暗視』があったからなら納得。あれ、パッシブスキルだし。
まぁ何はともあれ位置確認が先だよねと、システムメニューからマップを表示させようとして、私は再度固まることになった。
「え……っと? アイコン、どこいったの……」
常に視界の隅にあって半透明になっているシステムアイコンは、意識を向ければ白く表示される。それを瞬きか指でクリックすることでメニューが開くはずなのに、定位置はもとより視界の何処にも見当たらなかった。
「え、何これバグ? バグったの? マスターコールしたら……ってメニュー開けないし!
っと、落ち着けー落ち着け私。こういう時はどうするんだっけ?」
数度深呼吸を繰り返してなんとか気を落ち着かせる。パニックだめ、キケンキケン。
「と、取りあえず誰かに聞いてみよう。現実の時間が解らないけど、誰かしらは居るはずだし」
腕輪に付いている石を指先で二度ノックしてメンバーリストを表示させた。何故か、頭の中に。
「う、設定もおかしくなってる? 窓表示にしてたのに。こっちも直さなきゃダメか……面倒な」
ぶつぶつ文句を呟きながらなんとか操作を思い出しつつリストを確認するも、名前は全て不在表示で。
「あれ? メンテ明け直後でも誰かしら居るチームだったはずなのに。えっと、フレンドリストなら……」
結果、全員居ませんでした。
そして各人の一言メッセージを見て今度こそ完全に固まる事になったのだった……
お読みいただきありがとうございました。