19 恥ずかしくないもん!
またまた大変遅くなりました。
進まなすぎですね、すみません……
「一体どうしたんだろうねぇ」
あれから三十分ほど経った。私とラディムさんは近くにあったベンチに座って、未だ戻らないイレナさんを待ってます。
私はちょっとドキドキが止まりません。
だってね、嫌な可能性に気付いちゃったんだよ!
それが当たってたら、私一気に犯罪者扱いになっちゃうんじゃないでしょーか!?
その可能性とは――
それは違う大陸(または国)で昔と似たような硬貨が使われていたら、なんだけど。私は偽造硬貨を持ち込んだ事になりませんかね?
ラディムさんに教えてもらった通り、今現在この大陸の通貨は昔と違う。同様に他の大陸の通貨もこの千五百年で替わっている可能性が大。
過去の硬貨が現存しておらず、変更された通貨が前硬貨の図柄を多少変更しただけ――この硬貨でいうなら刻まれている双神の構図や紋様が変わったとか――で、更に変更からそれなりの年月が経っていた場合、そこに見た目新品同様ピカピカの古い図柄の硬貨なんか出てきたら……疑わしいと思いません? 私ならめっちゃ疑う。
あのイレナさんの反応が偽造疑惑を指してたら……私は牢屋行きになるんだろうか。
……あ~もうっ! なんでゲーム時代のお金出しちゃったかな!?
少し考えれば解りそうな事だろうがよ!!
例え昔の硬貨だってすぐ気付いてもあんな新品同様なんてないでしょ!?
え? これってもう逃げるしかない?
「ラディムさん、サーヤさん。お待たせしました」
その声に思わずビクッとして顔を上げると、私の反応を不思議に思ったのか、トレーを持ったイレナさんが小さく首を傾げながら無表情で此方に近づいてきた。考え過ぎて気配に気付かないとは何たる失態。
……ん?
イレナさんは一人だし、周りの気配を探ってみても特に不穏な空気は……うん、ない。
てことは、犯罪者回避できた? 逃げなくてもいいんですかね?
いくら私が見た目子供でも、イレナさん一人にどうこう出来る力はないだろうし。鑑定するまでもなく肉体労働派じゃないのは判る。
おお! 最悪ラディムさんにマトモなお礼も出来ずにこの国を出る事になるかも?なんて思ってたけど、その必要はなさそうですよ。一応警戒は怠らないけどね!
「随分時間が掛かったようだけれど、何か問題でもあったのかな?」
「その事について……少々お話があるのですが、宜しいでしょうか」
イレナさんはそう言って、視線で三つ並んだ扉の方向を指す。それにラディムさんは少し考える素振りをみせた後、私を見た。
「サーヤちゃん、どうする?」
ふむ。私が決めろって事ですね?
実際この案件を持ち込んだのは私なんだから、まぁ私が決めるのは妥当か。
私はラディムさんと視線を合わせ、イレナさんを見て頷いた。
「では、こちらに」
先導するイレナさんに付いて扉を潜り、通路の先にあった小さな部屋に案内される。
六畳くらいの部屋の真ん中には長方形のテーブル、その長辺に二人掛けのソファが二つ。奥に一人掛けのソファが置かれていないのは『取引は対等な関係で』という事かな。
調度品も落ち着いた感じに纏められてるし、如何にも商談用の部屋だね。
イレナさんに促されてラディムさんと並んで座ると、続いてイレナさんが私達の正面に座った。
「ではまず結論から。ご希望された『両替』についてですが、こちらを両替することは出来ませんでした」
そう言ってイレナさんは持っていた、私が硬貨を乗せたトレーを私の前に滑らせた。
「両替は出来ませんが……よろしければ、此方はその硬貨を『買い取り』たいと考えております」
「ほう……では時間が掛かったのはその事について、なのかい」
ラディムは興味深そうに硬貨を見ると、「ちょっと見ていいかな?」と断ってから硬貨に手を伸ばした。
「これはギルドが買い取りたいと思うほど価値があるものなのかい?」
「はい。主に時間が掛かったのはその硬貨が『本物であるかどうか』を調べるためでした。鑑定できる者が少々出払っておりまして、呼び戻すのに手間取ったのが原因です。そして、結果それらは本物であると確認されました。それは歴史的、また技術的にも大変価値のあるものです。当ギルドは是非とも買い取りを希望致します」
顎に手を当てて繁々と硬貨を眺めるラディムさんと、それを見つめるイレナさん。硬貨は窓から入る光を反射してキラキラと輝いている。
そういえば比較的簡単に鑑定出来る世界だっけね。ラディムさんだってスキル持ってるのに、すっかり忘れてましたわー。
硬貨を見た時のイレナさんの表情と慌てた様子から『もしかして』とか思っちゃったワケだけどな! 勘違いしてテンパるとか……ちょっとキョドったけどバレなきゃ、は、恥ずかしくないもん!
そんな私の心情には気付かず、ラディムさんとイレナさんのお二人は硬貨についてのアレコレを話し合っております。出所とかね。
……ん? 私は話に加わらないのかって?
ふふ、今それどころじゃないしねぇ。
だってこのソファ大きくて座りにくいんだもん!
背中をつければ足が上がってテーブルに当たるし、だからって膝を曲げられる位置に座ると後ろがスカスカ。座面が柔らかいから、腹筋から力を抜いたら絶対後ろに倒れるし。
別にバランス取れないとかじゃないんだよ? 伊達に高DEXあーんどスキル補正がある訳じゃないし! ええ、張ったロープの上に片足立ちしてハンカチに薔薇の刺繍くらい余裕ッスよ! あ、関係ない?
「おや? サーヤちゃん大丈夫かい。イレナさん、何か背凭れになる物はないかね」
まぁ子供がこの状態に平気な顔で耐えているのも変に思われかねないので、ちょっと体を前後に揺らしてみたら、案の定ラディムさんは直ぐに気付いてくれて、大きな手で背中を支えてくれました。流石『お父さん属性』持ち!
さて、イレナさんが直ぐに大量のクッションを手配してくれたので、現在とっても快適です。背中とソファーの間に一体幾つのクッションがはさまっているかは……うん、気にしてないよ。
そもそもNPCの平均身長なんて私の認識外だし。だって私の身長は日本人十二才の平均なはずだもの。多分。
私の十二才の時の身長じゃないのかって?
十二才……小学六年の時ねぇ。もう百六十センチ近くありましたが何か?
高校入学前には百六十九センチまでスクスクと育ちましたよ。そこで止まったけど。半端に止まった感じがしてモヤモヤした気分だったのを覚えてる。どうせならあと一センチ……ってね。
まぁそれはどうでもいいとして。
私が少々思考を飛ばしている間に話はサクサクと進んでいったらしく、気が付けば買い取り金額の交渉まで進んでた。その間私が聞かれたことは『売るか売らないか』だけ。
子供に説明しても解らないと思われたんだろうね。私がラディムさんでもそこしか聞かないだろうから気にしない。
一応ね、ボーッとしてても聞く所はちゃんと聞いてましたよ。
簡単に纏めると、私が持ち込んだゲーム時代の硬貨は八百年前の大氾濫で滅んだ技術大国が一括して造ってて、偽造防止のため製造方法を秘匿してた。で、その国が滅んだ時点で今の硬貨に変更が決まったと。
そんな国あったかいな?って思ったけど、名前聞いたら知ってるトコだったよ。へー、あそこで硬貨造ってたんだって感じ。ゲームしてる時なんてそんな事気にしなかったからね。
そして、変更するにあたって以前の硬貨はほぼ全て鋳潰されたらしい。これは混乱を避けるためだから解る。子供の頃、お祖母ちゃんに古い穴の無い五十円玉見せてもらったことあるし。あれが今も使われてたら絶対百円と間違えてイラッとくると思うわ。
それでも金貨については、冒険者の手で魔の森に沈んだ旧国の遺跡等からそこそこな保存状態で発掘されていた。
銅貨や銀貨については見つかっても美品といえる物は無かった――発見場所が殆ど土の中や水の中で保存状態は最悪――らしく、私が持ち込んだ美品な硬貨はそれこそ初めて発見されたも同じだそうな。
さて、そうこうしてる間に交渉も済んだみたいですよー。今はイレナさん待ちです。
金額? 興味無かったんで幾らになったかなんて知らん。最低でも元金と同額なら文句ないしね!
お読みいただきありがとうございました。