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02 まえのおわり

「お嬢様、休憩でございますか?」


「「ねぇさまお休みなの~?」」



 つい今までの苦難の道のりに加え、素材の残数やらなんかを無意識に空を眺めながら考えていた私に、この自宅の管理を任せている自動人形(オートマタ)で執事でもあるアルノーがいそいそとティーセットを乗せたカートを押しながら近づいてきた。うむ、相変わらず目敏いデキタ執事ですね。


 その声に引かれて、薬草畑で作業をしていた水精霊のミムと土精霊のアムが、パタパタと走り寄ってきて私の膝に抱き着いた。


「んー、そうしようかなぁ」


 首を傾げながら二人を見ると、私の真似をしてコテンと傾けて花が咲くように笑う。

 めちゃくちゃ可愛いですありがとうございます。

 ぷにぷにの頬っぺたをつついたりスリスリしてキャッキャウフフしてたらアルノーに生暖かい微笑みをいただきました。解せぬ。




 さて、実はこの三人、いわゆるNPCという存在だったりする。


 課金アイテムとして販売されている『従者プログラム』は、十種類の種族と外見やある程度の性格を自分で設定できる上に、成長型AIをもつ優れものである。


 ちなみに見た目はアルノーが身長百九十センチ、肩まである黒に近い濃紺の髪を首の後ろで一つに結んでいて、切れ長の眼はサファイアのような深い蒼。

 一見細身に見えるがしっかりと筋肉がついている体躯に髪と同色の燕尾服と白い手袋を纏った、ちょっと冷たい感じの中性的な美青年だ。設定年齢は確か二十五歳だったはず。

 性格を『冷徹型』にしてクールビューティー感を出そうと思っていたのに、いつ見ても微笑んでいる気がする。冷徹どこ行った?


 ミムは水色の髪に紺青の瞳で、アムは灰茶色の髪に琥珀の瞳。肩甲骨ほどの長さの髪を二つのおさげにしている。

 瞳と同色の可愛らしいエプロンドレスを纏い、色違いの双子を思わせるビスクドールみたいな三歳位の美幼女だ。

 逆にこっちは癒しになるように『おっとり型』にしたはずなんだけど、まるで体年齢に引っ張られたような子犬感が全面に出てる。癒されるのは確かだし可愛いからいいんだけどね。

 うん、問題は無い。可愛いは正義。


 実装後すぐに購入してから六年半、今では自然な会話や周囲に合わせた行動も難なくできるまでに成長してくれた、自慢の子供達だ。

 ミムとアムは戦闘をさせる気が無いのでほぼ初期状態――それでも精霊なだけあって結構戦闘力は高かったりする――だが、アルノーには自宅の各種管理と、素材集めの狩りに同伴出来るように、最大限拡張してNPC上限のレベル、ステータス、スキルを持たせた。

 持たせる事が出来るスキルは作成したプレイヤーが所持しているスキルのみで、一体につき最大八つまでになる。


 アルノーには、戦闘用に『総合剣術・風魔法・身体強化Ⅴ・魔力強化Ⅹ・詠唱破棄・探索』、自宅管理用は『空間魔法・時魔法』の二つ。

 もちろんスキルレベルは最大の十。

 空間と時魔法は倉庫管理には欠かせないスキルだったりする。

 なんせ素材は劣化していくものだから……劣化していくものだから! とても大事な事なので二回言っとく。

 初めの頃は知らなくてよく食材や薬草を腐らせたものです……泣けるね!




 テーブルの上に散らばった素材を片付けてアルノーに紅茶を淹れて貰う。ゲームの中なのに香りも味も楽しめるのが嬉しい。

 湯気の立つカップを両手で持って一息つきながら、畑に戻って水やりを再開した二人を眺めていたら、ふと違和感を感じた。頭の中にノイズが走ったような、小さな、痛み?


「サーフィリヤお嬢様!?」


 貧血を起こした時のように一瞬視界が暗転した気がして、目を閉じて眉間を強く押さえる。思わずカップをテーブルに置いた音に驚いたアルノーが私をそっと支えてくれた。


「お嬢様、お加減が悪いのですか?」


「大丈夫、何でもないよー」


「ですが……」


 眉間に皺を寄せて、心配気に私の顔を覗き込むアルノーに、手を振り笑って答える。


 痛みと呼ぶには小さなそれは、ほんの数秒で何事も無かったかのように消えた。

 最近、頻繁にとまでは言わない位に起こるこの不思議な現象に首を傾げるしかない。

 現実の体は至って健康……とは言えないかもしれないけど、病気の兆候はない。多分、ないはず。


 睡眠時間は少々不足気味かもとは思うけど、五年前に比べたら天と地程の差がある位には眠れてる。

 お肌だってあの会社に勤めていた時は手入れも出来ずガサガサだったけど、今じゃツヤツヤだ。


 当時の事を色々思い出しかけて、つい黒い感情が沸き上がるのをなんとか抑える。

 心配そうに見守ってくれていた三人に大丈夫と気持ちを込めて笑いかけた。

 折角再就職もしないで楽しい事だけをやってるんだ。今はリフレッシュに専念しないとね!




 三十分程休憩して作業を再開した。


 改めて視界の端に表示させているレベルを確認する。現在は百九十九、次のレベルまでは……


「あと如何ほどお作りになれば宜しいのでしょうか? 材料が足りなければお出し致しますが……」


 残りの必要経験値を計算していると、アルノーがそう聞いてくるので改めてテーブルの上に広げられた材料を見る。


 ……うん、大丈夫。


「今有るので足りるかな? 多分あと最上級ポーションを二十個も作れば終わると思う」


 三人が見守る中、私は貴重な素材を無駄にしないように細心の注意を払いながら慎重に作業を続けていく。


 そして二時間後、詰めていた息を大きく吐いて道具を置いた時、レベルアップの音が脳内に響いた。


 と、同時に身体がうっすらと白く光り出す。


「……え?」


 次第に強くなる光と共に視界がブレる。


「お嬢様!?」


「「ねぇさま!?」」


 視界を白く染める程になった光の中で、慌てて駆け寄てくる三人の気配が近づいてくるのが分かったけど、その時には私はもう指先すら動かす事が出来なかった。



 ――称号『創造者』を獲得しました。

   全ての生産職の称号が統合されました。



 そんな無機質な声を最後に、私の意識は闇に飲まれていった……


お読みいただきありがとうございました。

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