17 安心感って大事だよね!
お久しぶりです。大変遅くなってすみませんm(__)m
本年ものんびり進行ですが宜しくお願いします。
門を入ってすぐの広場の隅に馬車を寄せ、ラディムさんと護衛の二人が話をしている。そこから少し離れた場所で、私とソラは目覚めてから初めて訪れたこの町――バラクフタの街並みを見つめていた。
「うわぁ……」
目を見開きながら声を漏らした私の姿は、周囲からは一体どう見られるのだろう。田舎から出て初めて大きな町を目にした事による驚愕? それとも感嘆?
……いえいえ、違います。余りの既視感からですよ!
正面の石畳でできた大通りには、白い石造りの家々が通り沿いにズラっと建ち並んでいる。
大きな馬車が余裕ですれ違えそうな広い通りは、等間隔で植えられている街路樹が更に馬車と人の通行を分けているらしい。
丁度昼時だからだろうか。人通りもそれなりに多い、見慣れた街並みがそこに在った。
あー、うん。解った。
さっきまで感じてた微妙な違和感ってこれかぁ。
いや、ある意味私から見たら全然違和感ないんだよ? それが今は逆に違和感になってる訳だけど。
自宅に篭ってた期間と目が覚めてからを考えても、町に出るのは『私の感覚では』大体一ヶ月ぶりくらい。目の前には多少色味が違ってもゲーム時代と変わらない風景が広がっている。
…………。
えっとね?
進化……じゃない、進歩はどこいった?
神様ズの話だと、私が知る時代より千五百年は後なんだよね? しかもラディムさんが言うにはこの国は大氾濫の後、大体七百年前に建国されたはず。この町が出来たのは更にその後な訳で……アレ?
別に近代化しろとは言わないけどさ、もう少しこう、発展してても良いと思うんだよね。見慣れてる分安心感はあるから、嬉しいっちゃ嬉しいんだけど。
まぁ移動手段が馬車な時点で察しろって事なんだろう。サスペンションすら無かったしな! お尻痛かったよ!
初めての場所の情報は欲しいよねって事で、簡単にだけど探索スキルで調べてみた。ちなみに私の現在地は町の南門の前ね。
この門から真っ直ぐ北に延びる道は町の中心で東西の道と交差していて、北以外のそれぞれの道が町の外に繋がっているのが分かった。
町の規模からして人口は大体二万人くらいかな? 思ったより随分少ない。国で一番治安が良いならこの数倍大きくなりそうなのに。
やっぱり大氾濫の所為で生活圏が減ったままなのが原因かなぁ。
そう、まだゲームと認識していた千五百年前、私が知る限り大陸の六割まで開拓が進んでいた。
それが八百年前の大氾濫で複数の国が沈み、三割が魔の森に呑みこまれた。まあ、つまり生活圏は半減したって事だ。
再度魔の森を開拓しようにも、魔物を倒しながらじゃ無理があるのか。人里から離れれば離れるだけ魔物の強さも数も増す――ゲーム時代はそういう設定だった。今もそうかは判らないけど――だろうし、人だけ増えても食料問題とかありそうだもんね。
「サーヤちゃん、おいで」
「はーい」
ラディムさんに呼ばれて三人の側に戻る。どうやら私が増えた事に対する、護衛の追加報酬とかの話し合いが終わったらしい。お手数おかけしました。
「俺たちはギルドに報告に行かなきゃならないから、ここでお別れだ。嬢ちゃん、旨いメシありがとよ」
「サーヤは孤児院に行くのか? 行くならたまに顔出すぞ。まだ暫くはヒマだからな」
そう言ってニヤリと笑うパウルさんと、私の頭に手を置くハニークさん。……あ、なんかイヤな予感が。
「ひゃっ」
って、やっぱりか! ちょっ、頭グリグリするのやめてって! 痛……くはないけど髪がボサるから!
別に女扱いしろとは言わないけどね!? 髪長いからぐちゃぐちゃにされたら絡んで痛いんだよ。そこ、わかって?
なんとか振り払ってラディムさんの後ろに隠れ、顔だけ出して二人を睨み付けた。
何故か今朝二人が起きてから、私に対する態度がガラリと変わった気がする。原因に心当たりはない……う、うん。ない、よね。
「ほらほら、サーヤちゃんを弄らない。それで、サーヤちゃんはこの後どうするんだい? 門番さんも言っていたようにこの町は治安が良いし、孤児院も領主様がきちんと力を入れて下さっているから、成人まで安心して生活出来るよ。教会の神官様が簡単な勉強も教えて下さるし、希望すれば職人に弟子入りする事も出来る。サーヤちゃんはまだ小さいから、私としてはその方が安心かな」
え、弄るって……ラディムさん優しく笑ってるけどちょっと酷い。それにそんなに小さくないですよ私は!
「えーと。身分証の件もあるし、一応冒険者登録しようと思ってます。生活費は自分で稼ぎたいかなーって」
「お、サーヤは冒険者志望か! 森兎を狩れる弓の腕があるなら充分通用すると思うぞ」
ハニークさんの言葉にパウルさんも頷いてくれてる。うん、全然問題なくやってけますよー。
「うーん、確かに狩りの腕は良いんだろうね。私もあそこまで状態の良い森兎の毛皮は初めて見たよ。でもね、冒険者はとても危険な職業だ。町から出たら魔物だけじゃなく、野盗なんかにも遭うだろう。この国では禁止されているけれど、サーヤちゃんは可愛いから奴隷商人に拐われるかも知れないし、最悪命を落とすかも知れない。小父さんはサーヤちゃんに危険な目に合って欲しくはないんだよ」
眉間に深い皺を寄せたラディムさんに、『お父さんは心配です!』って顔で懇々と諭された。とても有難いけど……でもご免なさい! 私の夢を叶える為にはどうしても必要なんです!
まぁ、冒険者登録は別に必須じゃないけど。そこはホラ、趣味と実益を兼ねてって事で。ついでですよ、つ・い・で!
幻獣種を昔の私だけで狩るのはちょっとキツかったけど、大概の魔獣なら余裕だったし。今後ソラが育ってくれば、下位の幻獣も狩れるようになるだろう。
ま、幻獣種の生みの親であるガルス様曰くの狂った幻獣なんて、ロースティア大山脈の向こう側とか、ダンジョンの下層――正確には中級の最下層か上級の五十層以降のボス部屋かな――にでも行かないと遭わないけどね。
いつか行く日が来るだろうから、それまでに対策立てればいいかな!
「まあまあ、ラディムさん。冒険者として登録しても危険な依頼なんてこの町じゃそう無いですよ。町から出る依頼だって近くの森で薬草採取するくらいですし、孤児院の子供達も小遣い稼ぎに登録してるのは知ってるでしょう? それに、今まで森の中で生活してきた嬢ちゃんは気配も読めるし消す事も出来る。大丈夫ですよ」
「そうそう、森に入った途端サーヤの気配が消えた時は驚いたよなぁ! 戻って来るのが早いってのは獲物の気配が読めるって事だろ? ずっと森に居たサーヤなら危険な魔物やなんかの知識もあるだろうし、結構合ってると思うぜ」
ちょっと意識を飛ばしてたら、その間に二人の援護射撃いただきました。声を出せる雰囲気じゃないので小さく頭を下げる。いやぁ、私だけじゃ説得も大変そうだから助かるわ!
一体私の何がラディムさんをここまで過保護に駆り立てるんだろう。ホント謎だよね?
それにしてもこの短期間でなんか色々やらかしてるっぽいねー私。ゲーム時代のクセで無意識にスキル使っちゃう事が間々あるからなぁ。約十年の研鑽は伊達ではないのですよ!
現実に無いようなスキルを使う時は慣れるのに時間は掛かったけどね。主に探索と鑑定な!
使ったつもりもないのにちょっと意識を向けただけで、いきなり目の前にマップや説明文の窓が出たら誰だってビックリするよね? 慣れない時は戦闘中に視界塞がれて何度も死にかけたわ。
所持スキルの事もあるし、暫くは冒険者の前で使わないように気を付けるべき?
ステータスの件と併せて、この町に居る間に少し人間観察に精を出してみるかな。
お読みいただきありがとうございました。