12 狩りに行こう
ブクマ&お読みいただきありがとうございます。
昨日の夜、夜営中に色々な事を教えて貰いました。
最初は基本の自己紹介から!
商人さんの名前はラディムさん。護衛の二人はやっぱり冒険者で、剣士さんはパウルさん、盗賊さんはハニークさんと言う名前でした。平民に名字は無いらしいので、元の名前名乗らなくて本当に良かった。
ソラも紹介したけど、案の定灰色狼だと思われてた。角が目立つようになるまではそのまま通せそうだ。
従魔契約してるのは驚かれたけど、冒険者の中には『魔獣使い』も少しは居るらしく、警戒はされなかったから良しとしますか。
で、次に教わったのは今居る場所。ずっと森の中で生活してた『世間知らず』って事になってるからね。
国の名前は『ローサリエ王国』。大陸でいったら北側に位置する、四つの国に囲まれた内陸の小国。
あ、囲まれたって言ってもキナ臭い話は一切無いみたい。なんでも国と国の間には魔の森があって、人同士で争ってる余裕なんて無いんだとか。ここら辺は神様ズの思惑通り?
名前を聞いた事がないと思ったら、どうやら『大氾濫』で沈んだ国の後に出来た、建国して七百年くらいの国でした。
後は今向かってる町について。町の名前は『バラクフタ』で、なんでもこの国でニ番だか三番目に大きな町なんだって。ラディムさんはそこで雑貨屋を営んでいて、今回は隣の王都に仕入れに行った帰りだったそうな。隣と言っても馬車で五日は掛かるらしいけど。
私が拾われた場所が、ちょうどその中間地点だったからか、何か裏があるかと警戒したらしい。
まぁ私でもそんな所に子供一人だけでいたら、何かあるのかと思うね!
さて、教えて貰わなきゃいけない事はまだまだある訳だけど、それはまた後にして……。
昨晩の話で衝撃的な事実が発覚です。
なんと!
ラディムさん、あの見た目で年齢が八十歳を優に超えてるんだって!!
ビックリして思わず鑑定しちゃったよ!
はい、結果は八十六歳でした。いやーマジで驚いた。護衛の二人は年相応だったから余計にね!
聞くところによると、その人の保有する魔力量によって成長速度が変わってくるとの事。ラディムさんは魔術を使う事は出来ない――魔力操作が出来ないみたい。もったいない――けど、そこそこ魔力値は高い方、なのかな? 確かに護衛の二人よりは高いんだけど、比較対象が少な過ぎてよく分からないや。
と言うか、ラディムさん、『インベントリ(継承)』持ってましたよ! 継承の意味が分からないけど。つか祝福二つ持ってるし……。
ちなみにもう一つは『鑑定(物)』でした。商人には打って付けなスキルですね!
インベントリの謎については本人に聞くわけにもいかないので、暫くは謎のままでいいけど、問題は『鑑定』よね。
『鑑定(物)』があるなら『鑑定(人)』もあるんだろうか。
……多分、あるんだろうなぁ。こりゃ早めにステータスの隠蔽を済ませなきゃだね。
戦闘職な冒険者は参考にならないから、一般職のラディムさんを参考にしよう。微調整は町に着いてからでいいよね。低レベルの子供のステータスなんて実際見なきゃ分からないし。
それと、ゲーム時代とシステムが同じならレベル差による鑑定可否か。これは私の方で『可』にしとかないと怪しまれちゃうだろうな。私の累積レベルを考えると、それより高い人……居ないよねぇ、確実に。
まぁ『看破』とかのパッシブ系は自動なだけあって無意識に使ってるだろうから、弾いても気づかないと思うんだけどね。
兎に角、これからNPCの中で生活するんだから色々と気をつけないと。面倒事は極力避けたいし!
あー、気になると言えば、昨夜の夕食が一番気になった!
何あの食事!?
よくあれで肉体労働職やってられるな!?
ガッチガチのパンに、辛うじて干し肉から出汁が出てるっぽいうっすい塩スープのみ! 野菜何処いった!?
つか周りに獲物一杯いるでしょうが!
え? 護衛対象から離れられないから狩ってこれないって?
そんなの言い訳にしかなりません!
町に着くのは、順調に行けばニ日後のお昼くらいらしいけど、それまで耐えられる気がしない。
てことで朝食からは自作しますよ!
流石に私のインベントリから出来た料理出すんじゃ、違和感がありすぎて無理だし。朝イチで狩りに行きますとも! 幸いにして、あの十日間で採取した茸やハーブ類が腐るほどあるし、問題ないない!
朝、空が白み始めた頃私は目を覚ました。
焚き火の前には夜番のパウルさん。座ったまま腕を組んで目を閉じているけど、寝てるのかな?
音を立てないように静かに起き上がったら、その気配でパウルさんがパッチリと目を開けた。どうやら寝てなかったらしい。夜番だから当たり前なんだろうけど、騙されたようでちょっと悔しいです!
「なんだ嬢ちゃん、起きたのか? まだ早いぞ」
まだ寝てる二人を起こさないようにだろう、小さな声で言ってきたパウルさんに挨拶して、森に入る事を伝える。
パウルさん? 分かったような顔で頷くの止めてくれないかな?
決して生理現象で森に入るわけじゃないんだからね!?
…………。
ま、まぁいいや。
「気をつけるんだぞー」
間延びしたその声に苦笑しながら、手を振って未だ薄暗い森に分け入る。
さて、余り時間も掛けられないし、サクッと狩ってきますか。
探索を使って獲物の位置を確認しながらインベントリから弓と矢を出す。ある程度まで近づいた所で気配を消し獲物の姿を確認すると、そこには丸々と肥った一羽の雉が地面で何かをつついていた。
鑑定で確認してもやっぱり雉。日本で見たのより倍くらい大きいけど、エサの違い? 食べごたえがあっていいね!
ゆっくりと弓を引き絞り、首に狙いを定めて矢を射る。矢は狙った場所に寸分違わず当たり、獲物をその場に縫い止めた。
手早く回収して血抜きだけ済ませる。解体もしちゃいたいけど、時間はまだ平気かな?
ん? なに?
解体出来るのかって?
ちゃんと出来ますが何か?
子供の頃からお爺ちゃんの家に行く度に手伝ってきましたよ。うん、お爺ちゃん家山の中だったし。結構自給自足だったし……。
猟の解禁日後、暫くは肉類充実してたなぁ。
特にお正月は豪華になるから余計にね。
そんな懐かしい事を思い出してたら、無意識に手が動いていたらしく、解体終わってました。慣れって怖い!
内臓を処理した穴を埋めて後片付けも完了。森に入って十五分くらいだから皆まだ寝てるかな?
慌てて――それでもなるべく静かに夜営地に戻ると、ちょっと心配そうな顔をしたパウルさんと目があった。笑いながら狩の成果を見せると、凄いビックリされました。やったね!